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今や10人に1人 副業「推し」の理由

2021年9月26日 10:38
今や10人に1人 副業「推し」の理由

かつて過重労働の面などから副業に否定的だった経団連が方針転換。東芝でも去年副業を導入し、副業実施者は今年度さらに増加。調査会社によると今、約10人に1人が副業を行っている。「二足のわらじ」促進の背景は?その効果は?

■労働時間調査をやめた経団連

経団連が「労働時間実態調査」をやめた。2017年から長時間労働の是正と休暇取得促進に向けて実施してきた調査だ。やめた理由は、「働き方改革のフェーズが変わったため」だという。

2017年、官民挙げて「プレミアムフライデー」と称し、月末の金曜は仕事を早めに切り上げてスポーツ、食事、旅行などを楽しもう、と働き方改革が始まった。しかし、その目的は決して「みんな、そんなにあくせく働かないで、ほどほどにしようよ。人生ゆっくり」などという精神からではなかった。じつは最初から「ワークライフバランス・メリハリのある働き方で『生産性向上』を。それで日本の競争力を強化しよう」だったのだ。

しかし、「労働時間の短縮や休暇の取得といった働き方改革は本当に生産性向上につながっているのか?」と経営トップらの間で疑問が深まり、働き方改革は「働きがいを高める改革」へとフェーズが移行した。従業員は自分の会社が働きがいがある会社だと思えば力を発揮するという考えに基づく改革。

そこで出て来た1つが「副業推進」だ。なぜか?ロジックはこうだ。

・経団連の調査によれば、「副業を通じてスキルアップを図りたい、自分の力を発揮したい」と副業を望む人が年々増加。
・社員は「自分の成長、キャリアアップを支援してくれる会社は働きがいがある会社だ」と見なす。
・副業を認めて、「自分を試したい」と思う社員を支援することは、結果、社員のその会社での働きがいも高め、労働生産性の向上につながる。

■東芝、副業の拡大

東芝は去年、副業を解禁した。東芝と子会社1社のあわせて60人が副業をスタート。今年度はさらにこの2社で80人近くになり、かつ他の子会社3社も副業制度を導入した。

●東芝と子会社の従業員の副業の内容
・通訳
・ベンチャー企業の設立
・アプリ開発、販売業
・大学などの講師
・中小企業診断士
・エンタメ系イベント運営 他

副業を行うのは東芝の業務の時間外で、同業他社の業務は行わないことなどが条件となっている。当初、過重労働などが懸念されたが、3か月ごとに上司と1対1で面談し、支障がないか確認する機会を設けている。副業制度導入の手応えはこうだ。

・副業を実施している従業員9割以上が、スキルアップや自己実現、人脈形成、セカンドキャリアの参考になっていると回答
・職場の管理職部下に「チャレンジする気持ちが芽生えた」「いきいきと仕事をしている」「将来や定年後に向けて新たな視野が広がったようだ」とプラス効果を認識

年代別ではこのようになっている。

●東芝の副業実施者の内訳・2020年度実績
20代   7%
30代  14%
40代  24%
50代  50%
60代以上 5%

■副業の二極化

パーソル総合研究所の調査によると、副業を全面的に容認している会社は23.7%。(今年8月の調査)条件付きでの容認と合わせると55%に及ぶ。

副業を行っていると答えた正社員は、約3万5000人の9.3%に及んだ。パーソルでは副業の理由は2つに分かれるという。1つは「現在の収入の補てん」。もう1つは「スキルを生かした成長のため」。

年収別に見ると副業をトライしている人の52%以上が年収1500万円以上で占められている。コロナ禍のテレワークの増加でハイスキルの人材が副業しやすくなっていると分析している。

■若者の副業意欲

一方で、経済界から聞こえてくるのは若い世代の副業、兼業の意欲だ。頼もしくも若い世代に「自分の力を試したい」「世の中の役に立ちたい」という意識が高まっているという。経団連では近年、会社がお膳立てする研修ではなく、社員が自主的に見つけてくる自己研鑽を支援するよう会員企業に呼びかけているが「副業は自主的な学びと同根だ」と経団連幹部はいう。

社員の学び(副業)を後押しし、副業で得た成長を還元してもらえる企業でいられるのか企業側も試されている。