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課題山積の中小企業…成長のカギは「地域連合」? 城南信金トップに聞く

2024年6月22日 7:00
課題山積の中小企業…成長のカギは「地域連合」? 城南信金トップに聞く
6月に城南信用金庫の理事長に就任した林稔氏

日本経済が回復基調に転じる一方、多くの中小・零細企業は長引く円安やコスト高、人材確保のための賃上げで、苦しい経営を迫られている。さらに、日本銀行の政策変更によって、「金利のある世界」も戻りつつあり、借り入れの負担増も懸念される。

こうした課題を抱える中小企業に向き合うのが「街の金融機関」とも言われる信用金庫だ。今月、東京や神奈川を拠点に約5万5000社の取引先を持つ城南信用金庫の新トップに就任した林稔理事長に、中小企業の抱える課題と解決策を聞いた。

■中小企業がなお苦しむ価格転嫁、好調賃上げも「防衛的」

――取引先の中小企業が置かれている現状をどう見ているか

城南信用金庫・林稔理事長「報道では、大手を中心に賃上げを行い、業績もかなりよくなってると言われているが、我々のお客様には中小企業・零細企業が非常に多い。アンケートでは、ほとんどが賃上げや価格転嫁が(完全には)できていないと言っている(※24年3月の調査で、取引先への価格転嫁が「完全にはできていない」と回答した企業が約82%、賃上げについて「決めていない」「予定がない」と回答した企業が約64%)。きちんと価格転嫁の交渉をするようにお話しして、成功するところもあるが、取引先の中では「やっぱりこれ(価格転嫁)を言っちゃうと、仕事がなくなっちゃうんじゃないか」というイメージを持ってる方がまだまだ大半以上いらっしゃる」

「大手が(業績が)よくなって、何年か後に中小企業が同じようによくなってくるという循環は過去にもあったが、今回は少し違うのかなと肌では感じている。円安等(の影響)もあるが、人手不足があるので、賃上げをする理由が前向きな理由ではなく、人材が逃げないような形で賃上げをせざるを得ない、というのが現状ではないか。その(賃上げの)原資が今、伴っていないので、非常に苦しい時代を迎えているのかなと思う」

■コロナ禍で中小企業の借り入れ増加 日銀の追加利上げ「かなり慎重にされた方がよい」

――日銀の金融政策の変更で「金利のある世界」が戻りつつあるが、金融機関としての戦略は

城南信用金庫・林稔理事長「“粘着性のある預金”(有事などの際にも流出しにくい資金)の確保が、特に信用金庫や地域金融機関にとっては一番の課題になってくる。ただ金利が上がった分、お客様(取引先)が赤字になってしまったら元も子もない。安全な預金を提供し、取引先が苦にならないような適正な金利を設定しながら、企業が成長し、我々の収益も上がるようにしたい」

――日銀による追加利上げも今後、想定される。取引先の中小企業は、金利上昇の可能性をどう捉えているか

城南信用金庫・林稔理事長「コロナ禍があり、ゼロゼロ融資(新型コロナの影響で売り上げが減少した個人事業者や中小企業に対する実質無利子・無担保融資)があって、一部の企業では借り入れが非常に膨らんでいる。さらに資源高や円安などがある中で、ここで金利が一気に上がっていくと、やはり厳しいのではないかと感じている。(日銀は)金利の対応はかなり慎重にされた方がよいのかなと思う」

■課題解決のために…中小が集合体になって取り組む「コンソーシアム」とは

――状況を打開するには何が必要か

城南信用金庫・林稔理事長「今後の日本のあり方を考えていく上では、“コンソーシアム”という考え方がある。ハードルは高いが、中小企業・零細企業が、技術はある程度違えども、まとまって一つの集合体になって、大手の注文をあらゆる角度から受けられるようなシステムをつくる。その中で大手企業と価格交渉をしていくのがよいのかなと思っている。中小企業には後継者問題もある。取引先でも、技術はあるのに後継者がいなかったりする。そういうこともクリアしていくためには、集合体が必要になってくるのかなと思う」

「一筋縄ではいかないのは事実だ。ただこれからは、アメリカのGAFAのように“1社が大きくなるのが一番よい”のではなく、例えば100社が連合して、その1社と同じ大きさになっていく、そういう企業体ができていった方が、日本経済にとってもよいのかもしれない」

――信用金庫として、そうしたコンソーシアムの仕組みづくりに向けて、どのような支援ができるのか

城南信用金庫・林稔理事長「いろいろな考え方があるので、実際にやろうとするとかなりの労力はかかると思うが、できれば信用金庫として、後押しできればと思っている。(企業などの)マッチングや情報提供のように、機会をつくる、場所を提供するという形で参画できればよいと思う」

■高まる“地域密着”金融機関へニーズ 東日本大震災支援も継続

――人口減少によって人手不足が進む中、各地域で社会課題解決へのニーズが高まっている。地域に密着した信用金庫に求められる役割は増していると感じるか

城南信用金庫・林稔理事長「そう感じる。やはり信用金庫の基本は1軒1軒、フェイス・トゥ・フェイス。人と人とのつながりをより強固なものにしていかないといけないのかなと思う。また東京・神奈川の地元の自治体や学校などとの産学官連携を続けることによって、新たなビジネスを創出していかなければいけない」(※インタビュー後に城南信用金庫は、品川区と地域活性化のための包括連携協定を締結することを発表した)

――城南信用金庫は東日本大震災の被災地支援にも力を入れてきた

城南信用金庫・林稔理事長「これは今まで通り、当然、続けていく。まだまだ復興は道半ばだと思うし、一番必要なのは風化させないこと。あらゆる形で発信しながら、全国254の信用金庫のみんなで日本を良くしていけたらと感じている」

(聞き手:経済部・渡邊翔)