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日本経済復活に「余計なことはするな」…“為替介入の司令塔”神田前財務官に直撃!【独自インタビュー】

2024年8月3日 14:28
日本経済復活に「余計なことはするな」…“為替介入の司令塔”神田前財務官に直撃!【独自インタビュー】
神田前財務官を直撃「日本経済今後についての記事」

“歴史的円安”の対応の陣頭指揮を執ってきた財務省の神田財務官が7月末で退任しました。それに先立ち、日本テレビが単独インタビュー。低迷が続く日本経済の復活の“カギ”についても明かしました。「余計なことはするな」「健全な危機感を」など独自の“発言”の数々。インタビュー「全文」を公開します。

■「数百年に1度の大変容」で「徹夜続き」の財務官生活…3年間の“成果”は?

◇7月31日で退任ということになるが、歴史的な円安の対応に奔走された在任期間だった。振り返りは?

ーーー私の認識は、数百年に一度とも言えるぐらいの歴史的な大変容のもとで、あと珍しいんですが、21年に一度しか起こらない、G7とASEANプラス3の両方の議長国にあたりまして、実に様々な課題に追われた3年間でした。

今おっしゃった「為替」っていうのは、私の全体の仕事では1割未満でして、どちらかというと、伝統的な金融安定、あるいは債務問題みたいな話から、最近では、戦争を含む地政学への対応、こういったもので徹夜が続くような毎日でした。

この時期は振り返ってみますと、大きな流れとして、デジタル化で世界が大きく不安定化、変容を起こしているところで、新型コロナが勃発して、そしてまた、新型コロナ自身というよりも、新型コロナへの政策対応の副作用といいますか、後遺症で、高インフレとか、あるいはサプライチェーンの断絶みたいなのがあって、みんなで悩んでいたところで、まさにロシアが不法な侵略をウクライナに対して行った。

さらには、去年の秋ですけれども、中東の導火線に火がついて、昨日(7月29日)、今日(7月30日)も、また新たなエスカレーションが行われていて、やはり非常に厳しいといいますか、危機的な状況が続いたと思っています。

それから、もう少し長い課題として、気候変動=クライメイトチェンジから、感染症、国際課税まで、世界を取り巻く様々な、いわゆる地球規模問題の解決、これは、やはり途上国も含めた世界規模で解決していかなきゃいけない、協調しなければ解決できないもので、こういったものに、どうやったら日本が主導して、国際貢献できるのかということにも努めてきました。

例えば(日本が)議長を務めたG7では、ウクライナ支援、ロシア制裁、それからサプライチェーン強靭化、国際保健、経済デジタル化、幅広い課題について議論をリードしましたし、あとスリランカの債務再編交渉、それから国際課税制度改革から、MDB=国際開発金融機関ですね、それからIMF(=国際通貨基金)の強化、日本がリーダーシップをとってきた分野、本当に多岐にわたって、皆さんのご尽力もあって、かなりの成果を出したと思っております。

■“神頼み”でなく「危機感」を…日本経済“今後のカギ”は「生産性の向上」

◇民間企業などを取材していると、日本の価値が下がっていると述べる方もいる。つまり、円の価値が下がってきているという現象も指摘されている。自らの懇談会では「国際収支」を切り口に、日本経済の課題を洗い出されたが、日本の国力を今後も担保していくためには、どんなことが必要だと考えるか?

ーーー今おっしゃった「円の価値」が下がってきているっていうご指摘はあります。重要なのは、足元の為替相場っていうのは、かなり短期的な投機に基づくもので、大きな中長期的な構造の議論とは全く次元の違うものだと思います。

ただ、ここを切り離して、あくまでも中長期的な構造の議論としては、やはり円の実力ともいわれる「実質実効為替レート」、この長期的な推移というのは非常にわかりやすいと思っています。

このレートっていうのは、1995年に最高値=193.97になって、足元では68.36、実に65%減価しちゃった。過去最低の水準、要は日本の円の価値が、3分の1になっちゃったみたいな話なんですよね。

一般に、実質実効ベースで見た為替レートっていうのは、輸出企業といったものの生産性が、他国と比べて、相対的に低いと減価する傾向にあることが知られています。そうすると、日本はやはり労働市場の流動化とか、新陳代謝の促進等を通じて、何よりもやっぱり生産性を向上しなければいけないということになります。

ご指摘いただきました懇談会では、くどいようですが、足元の為替相場の動向を議論するものではありませんでしたけれども、国際収支のレンズを通して「日本経済の課題」を希望する中で、改革の必要性、危機感について多くのご指摘をいただきました。

ここで提言された改革は、実は、多くのものは長く指摘されてきたもので、しかし実施されていない、あるいは実施が遅れてきたものです。

しかしその分、ある意味、伸びしろが大きいっていうのが私の信念で、改革を着実に実施して、市場経済のダイナミズムを強化することで、競争力のある日本経済を取り戻すことは十分に可能です。

なので、日本の現状について健全な危機感、何か“神頼み”なんかじゃなくて、健全な危機感を持って、前向きに改革を実施していくことが、何よりも重要なんだと考えております。

■日本の国際競争力復活へ…「余計なことはするな」の意味とは?

◇今、日本では新たなイノベーションが起きず、デフレマインドも染みついていると言われる。再び日本が国際競争力を取り戻していくために、何を急ぐべきなのか?

ーーー何っていうか、もう普通のことを、「普通の市場経済」を取り戻せばいいっていう感じがするんですね。むしろ余計なことをしないっていうことかもしれません。

結局、例えば今まさに話題になっているように、金利や賃金が上昇しつつあると。そうすると、これまで温存されてきた、自力での存続が見込めない、低収益・低賃金企業、いわゆる“ゾンビ企業”の退出が増えていく。マーケットでの自然な淘汰かもしれません。

こうした企業を逆に保護してしまうと、資本・労働の生産性の低い分野、企業に固定されて、生産性の向上に繋がらない。まさに、これまでの「失われた30年」が長引くだけですので、やはり、市場の新陳代謝の機能を取り戻すっていうのが大事で、そういった意味では、最低賃金の引き上げっていうのも、すごく重要です。

高賃金を払える生産性の高い企業に、貴重な労働力がシフトする。まさに今アメリカで起こってる、インフレっていうのはそのせいなんですけど、逆に生産性が上がって、みんなの給料が増えてるわけですよね。

■日本経済復活へ…“ゾンビ企業”の退出で「普通の市場経済」を取り戻せ!

他方ではもちろん、脆弱な個人を対象にしたセーフティネットっていうのは、しっかりと提供しなきゃいかん。これはもう、政府の義務です。だけれども、他方で、現状維持を志向するっていうことを繰り返しちゃいかんと思っています。

規制改革で、企業間競争を活性化させて、新陳代謝を促す。それから、転職に中立的な制度設計を通じて、成長分野への労働移動を円滑化する。それから、流動的な労働市場っていうのは、労働者に多くの雇用の機会を与えますので、個人が最適なキャリアを実現する上でも、望ましい。非常に、当たり前のことなんですけども、良いことが多いんですね。

よく、中小企業の話が出ますけど、ここでもやっぱり、固定化された労働市場の中で、非常に人手不足で困っている。能力ある人材の獲得に苦慮しているわけですから、労働市場の円滑化っていうのは、新たな人材の獲得機会を提供することになります。

新たな、今まで難しかった人材獲得っていうのができるようになるわけですから、成長産業への移行を遂げるチャンスになるわけですね。なので、新たな産業、成長産業の担い手となる雇用を吸収して、一段と生産性を高めていくことが期待できると思っています。

やれることはたくさんあるし、そんなに、なんていうか、無茶なことをやる必要もない。ある程度、「普通の市場経済」を取り戻す。ただそのときに、セーフティネットはしっかりとお支えしなければいかんということだと思います。

◇ただ単に“ゾンビ企業”に退出を促すというわけではないと?

ーーーはい。あと今申し上げた、新陳代謝とか、成長分野への労働移動もありますけども、もう一つは、この懇談会でも柱にしてるのが、人的資本への投資。それから、フロンティアの技術への開発を推進する。こういったこともやって、企業の競争力を高めて、日本を魅力ある投資先にしていくっていうのが、王道だというふうに思っています。

◇“魅力ある投資先”というのも、難しい道のりのような気もするが?

ーーー結局、リターンが高いところに投資が行われるわけですから、労働市場が流動化して、生産性が上がっていけば、リターンが高くなって、日本企業も、第一次所得収支を日本に回帰させて、投資するようになるかもしれないし、海外の人も直接投資で、日本にもっとお金を落としてくれるかもしれませんし、そのプロセスの中で、さらにイノベーションができれば、好循環が始まりますよね。

■“成長産業”半導体…政府の“巨額支援”への評価は?「不毛な補助金競争はダメ」

◇神田氏の懇談会の報告書では、政府が勝手に成長産業を決めるべきではないというふうに指摘されていた。政府主導の半導体支援が行われているが、これについての評価は?

ーーー「一般論」ですけれども、成長分野っていうのは、もとより、期待成長率が高い分野ですよね。だから普通であれば、この企業間競争の中で生まれていく、まさに個々の企業によるリスクを伴う投資によって、健全に発展していくっていうのが通常の姿です。

なので、不完全な情報しか持っていない我々が、成長分野を特定して「これが成長するんだ!」とか言って、補助金などを通じて、投資を誘導するっていうのは、モラルハザード、レントシーキング、特に政府の補助がなければ生きていけないような企業を、かえって助けてしまうような、我々「逆選択」って言うんですけれども、アドバース・セレクションが起こってしまうリスクもあるので、そこは慎重でなきゃいかん。

ただ他方、絶対にダメだということでもないと思うんですね。今おっしゃった、半導体っていった戦略的分野では、他の国も多額の補助を行っている現状もありますし、それから、我が国の産業競争力の強化、あるいは経済安全保障上の観点、そういったところから、一定の支援が正当化される場合もあると思います。

ただその場合、不毛な補助金競争になってはいけません。一時期あった、法人税の引き下げ競争、レース・トゥー・ザ・ボトムみたいになってはいけませんので、国家間の公平な競争条件確保に向けた、国際的な取り組みを強化していくということも併せて、重要だと思っております。これはまさに、今のG7でも議論しようとしているテーマの一つでございます。

■在任中の3年間で「のべ60か国」訪問…海外から見た“日本の現在地”と“日本の貢献”は?

◇“為替介入を指揮する方”というイメージもあったが、海外にたくさん訪問されてもいた。今、日本は海外からどのように見られていると感じたか。また、日本の立場をどのように説明されてきたか。

ーーーおそらく、財務官の在任中、のべ60か国を訪問していまして、海外に、国際的な制度改革といったもので、日本の立場を説明する場合というのは無数にあったと思います。

やはり、さっきの話とも重なりますけど、とりわけ昨年はG7議長国でしたので、我々が考えている世界のあり方、改革の方向などを、特に新潟での財務大臣会合、あるいは鎌倉での財務官会合などを含めて、いろいろな説明と調整をしてきたと思います。

さっき申し上げた、ウクライナ支援、対露制裁、債務問題、国際保健、国際金融機関会合、こういった問題を主導しただけじゃなくて、非常にユニークな取り組みとしては、GDPだけじゃなくて、多様な価値を踏まえた人々のウェルフェアを追求するような、経済政策の重要性を議論したらどうかとか、あるいはサプライチェーンで、クリーンエネルギー関連製品で、もう少し、低中所得国が大きな役割を果たせるようなパートナーシップ「RISE」を立ち上げ(るなど)。

こういったことは、理解を得るように回っていったようなところがありますが、ASEANプラス3の方でも同じように、韓国・仁川での大臣会合、それから、金沢での財務官会合だけでなく、いろんな会議の中で、自然災害やパンデミックといった外性ショックに起因する、対外収支ニーズに対して、迅速に発動できる「ラピッド・ファイナンシング・ファシリティ」、金融融資ファシリティの創設とか、あるいは、新たな取り組みとして、5月でしたか、初めて日本と、太平洋島しょ国の財務大臣会議を開催して、対面の議論を通じて、アジア太平洋における議論も指導したりしていました。

そういったことをやっている中で、やはり、結構有効だったのは「バイ」(=2国間会議)ですね。

もちろん、今申し上げたのは、多国間の会議で、他にもIMFとか世銀とか、いろいろありますけども、個別の国にもかなり回りまして、G20議長国のブラジルとかだけじゃなくて、ロシアと対峙しているウクライナ、モルドバ、リトアニア、それからアジア、アフリカ、さっきの太平洋で言えば、フィジー、トンガなど、様々な国で首脳とか、閣僚級を含む要人と対応しました。

こうしているとですね、2国間関係の深化だけじゃなくて、グローバルな課題の解決に、一緒にやっていこうという共通理解、例えば太平洋の諸国だったら、気候変動で日本と同じように、自然災害、天候が非常に悪くなってる、あるいは地震も同じような課題を抱えているというので、この共通理解の中で、連携していくような話がどんどんできていく。

そのような努力の中で、またときには成果が得られる中で、海外からの日本に対しての期待とか、あるいは評価っていうのは、高まっていくものだし、私自身、その実感はあります。

◇それは神田氏が1官僚を飛び越えるくらいに、海外をたくさん回ったから実感できたのか?

ーーーというか時代がやっぱり変わってしまって、安定した制度があって、その中で調整をしてるんだったら、日本みたいな小国は、あまり活躍の場がないのかもしれませんけども、今本当に、世界が大混乱、場合によっては、“第3次世界大戦”とか“世界金融危機”みたいなリスクに直面しているときに、やはり汗をかいて、世界のために日本が貢献していくということが、期待されているし、幸か不幸か、G7とASEANプラス3の議長国であったということは、そういったことをやりやすい環境にあった。

それから、何よりも私は非常に仲間に恵まれていまして、財務省の仲間だけじゃなくて、関係機関、あるいは友好国のパートナーたちも、皆さんに支えられながらやってきたと思っています。

■迫る米大統領選についても聞いてみた!“確トラ”で日本経済にはどう影響?

◇米大統領選の結果次第で、“日本の力”も変わっていく可能性もある。そのあたりはどのように考えるか?

ーーーそれは今申し上げた通りで、しっかりやるべきことをやれば、市場経済のダイナミズムを普通に取り返せば、とりわけ「労働移動」ですね、生産性の高い分野に、貴重な労働力が移るようになれば、賃金も上がるし、それから、設備投資も増えて、本当の好循環で、また競争力を取り戻していくことが十分に可能だと思っています。

◇一部では、トランプ氏が大統領選に勝利する“確トラ”とも言われているが、日本経済に及ぼす影響は今、どう考えている?

ーーー他国の政治について、何のコメントをする立場にありませんけれども、どんな場合においても、やはり、その両国の利益、そして、この国際秩序がより良いものになるように、しっかりと引き続き意思疎通を続けて。

今、非常に良い関係にあって、本当に毎日のように話し合っています。これを続けて、より良い世界秩序のために協力をしてやっていかなければいけないと思っています。

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