【解説】日銀・大規模緩和維持 能登半島地震の影響は?マイナス金利解除はいつ?
――日本銀行の植田総裁の記者会見について、経済部の宮島香澄解説委員とお伝えします。今年最初の金融政策決定会合、たった今植田総裁の記者会見が終わりました。どんな内容でしたか?
今回1月の会合では政策の修正や変更があると考えていた人はあまりいない中で、植田総裁がこの先にむけて何を言うか、どんな風に言うかということが注目されました。この後、政策を正常化していくことに対して前向きな雰囲気が漂っている会見でした。
■植田総裁会見のポイント
会見のポイントをまとめました。まず、大規模な金融緩和政策は維持しています。消費者物価指数の見通しは来年度を+2.4%に下げました。これは、原油価格等が落ち着くという理由で、25年度は見通しを引き上げました。
そして「見通しが実現する確度は引き続き少しずつ高まっている」という文章が、日銀が経済・物価情勢の見通しを示す「展望リポート」に書かれました。この表現は今までも記者会見では出ていたんですけれど、リポートの概要にきっちり書かれて注目されました。
それから「物価見通しに沿った動きを確認している」と植田さんは言いました。コアコアの消費者物価指数(生鮮食品・エネルギーを除く)の見通しが、来年度も再来年度もプラス1・9%で、前回に続き同じ数字だということで、総裁は見通しに沿った動きが前回よりもさらに確認できたということです。「不連続的な政策は避けられる」つまり、出口に向かった動きは連続的に順調に進んでいるということです。
逆にびっくりするようなことも起こらない、今後も緩和的な傾向は続けると話しています。注目される賃金は、去年に比べて賃上げを早めに決めた企業が多い、中小企業に関してはわかってくるのはだいぶ先、と慎重な見方でした。
■市場の反応は?
――市場のうけとめはどうでしたか?
円相場は現状維持ということで1回円安にふれました。しかし、その後は円高に向かって、総裁の会見中1ドル=146円台まで来ました。これは、大規模金融緩和はそのまま継続だけれども、展望リポートを見たり会見を聞くとこれはもしかしたら政策修正が近いのではないかそういうことを感じさせる会見だったんですね。
――今年にはいって株価も大きく値上がりしていますが、これは、金融政策には影響していますか?
去年、平均株価はかなりあがりましたが、11月以降をみるだけでも、ここのところぐっと上がっている。株価を見るとこれで日本がマイナス金利政策を続けるのはおかしいんじゃないかという声はあがってきます。植田総裁も会見で、企業の状況は良いと評価していて、関係者ともこの株価とマイナス金利は違和感があるという話をしています。
――今年は、元日に能登で大きな地震があるなど、日本は波乱の幕開けでした。日本の経済や金融政策への能登半島地震の影響はどうでしょうか?
これまでの大きな地震の影響を調べてみました。1995年の阪神・淡路大震災と2011年の東日本大震災の時には発災直後に株価が大きく下がって、その後も供給や消費、影響が大きく株価ももう一段さがりました。
2016年の熊本地震は為替も株価もあまりかわりませんでした。被害規模はこちらが能登半島地震に近いでしょうか、今年元日の能登半島地震は、発災当日株の取引がなかったこともあり、株価や経済全体への影響は大きくはないとみられています。
植田総裁も会見で、この地震で経済全体に大きなマイナスが今確認できているわけではないと言いました。ただ、被害の全貌はわからず、サプライチェーンや国民の気持ちへの影響はあります。17年ぶりに日本の金利をあげるという大きな判断はしにくかったと思いますし、それだけの材料もなかったと見えます。
■マイナス金利の解除はいつ?
――そんな中でではマイナス金利解除はいつでしょうか?
1月11日に、OECD(=経済協力開発機構)のコーマン事務総長が、日本について「2024年にマイナス金利からの脱却はできるとみる」と、今年の解除の見方をしめしました。
ではいつか?4月のマイナス金利解除を予測する人が多いですが、日銀内の一部では3月解除への検討もされていると聞いています。
――3月だとどういった理由で?
3月で、早いほうがいいという立場にはこんな説明があります。先ほどお話ししたように日経平均株価が史上最高値をうかがうような展開のなかでマイナス金利を続けることには違和感があります。
次に、今円安がすすんでいるなかFRBやECBが利下げを始めた後の急な為替の変動、円高リスクを避けたいというところがあります。ただこれは、大丈夫だという人もいます。
さらに、市場の関係者で4月解除を予想する人が多くいる中で、4月解除だと市場に催促される、催促相場に追い込まれてしまうという見方があります。
――3月のほうがいいのではないかという立場だとそうですが、一方で、3月は解除しにくいという見方もありますね。
3月解除は難しいという人の立場は、まず、市場等への説明が十分なされるかということです。日銀の方向性を示す展望リポートは次は4月で、3月にはないんです。丁寧に説明をすることなくマイナス金利解除という政策転換をしていいのかと。ただ、植田総裁は会見で展望リポートがないと政策転換ができないわけではないと、言いました。
次に3月の決算への影響です。マイナス金利を解除しますと円高に向かうとみられるので、為替の含み損などで3月の企業決算の業績に悪い影響が出る可能性があります。
さらに解除したところで変動型の住宅金利も上がる方向になるのではないかとの心配があります。時期的に3月に解除すると政府の定額減税が予定されているような6月ごろに実際に金利がアップし、日銀と政府の政策が逆方向に向いてしまうのではないかと心配もあります。
このほかGDPの速報が2月に発表されますし、様々なデータを見ながら3月解除を検討すると思います。
――最近の政治の動揺も、日銀の政策に影響してくるでしょうか?
はい、政権との対話は重要です。派閥解消などの今の動きに加え、秋には自民党の総裁選があります。植田総裁は23日、国会議員の補欠選挙の日程は、影響しないと言っていましたが、政治の状況は気になります。
3月4月のマイナス金利解除を逃すと、その先はできないという声もあります。つまり、日本の政治の先行き不透明さ、アメリカの大統領選挙、賃上げも、大企業はよくても中小企業の状況は弱いのではないかと厳しい見方をする人もいます。また、2月に発表される去年10月から12月までのGDP成長率が実質マイナスの可能性などこの先に不安定要素はあります。
今年はあるとみられる金融政策変更が、いつどんな形になるのか、しっかりと注目していきたいと思います。