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遠のく日韓往来 カップル・留学生らの苦難

2021年12月26日 18:01
遠のく日韓往来 カップル・留学生らの苦難

●一時帰国を断念する日本人続出 帰国する人も「ストレスで胃が痛い」

新型コロナウイルスの「オミクロン株」への対応のため、日本と韓国双方で再び強化された水際対策。韓国に駐在する日本人家族たちも年末年始の一時帰国を取りやめるなど、影響を受けている。すでに約2年間、帰国していない人も多く、在外邦人にとって、日本にいる家族との対面は遠のくばかりだ。

一時帰国をあきらめたソウル在住の日本人
「一時帰国したいけどオミクロン株の対応とかをニュースで見る限り難しいかなと、あきらめの方が先に来てしまいます」

1月に赴任を終えて帰国予定の日本人
「“検疫隔離”のホテルに6日間入らなければなりません。大人でも生活が難しそうな環境なのに、小さな子供を連れての帰国はストレスで胃が痛くなるくらい不安に感じています」

12月に日本にいる家族が亡くなったにもかかわらず、葬儀にさえ出られなかった駐在員もいる。

●約2年会えていない日韓カップル「どこに目標を置いたらよいのか…」

以前は、日帰りでの行き来も可能だった日本と韓国。往来が制限され、人生を左右されかねない状況が続く人たちがいる。ソウルに住むキムさん(27)も、その1人。

日本の大学に留学していた約3年前から日本人の彼女、小春さん(21)と交際している。やり取りは、スマートフォンでのビデオ通話。

小春さん
「私、痩せたやろ?」

キムさん
「実際に見てみないと、わからないからな」

新型コロナのため日韓の往来が制限されて以降、2人はおよそ2年間、会えていない。最後に会ったのは2020年2月の韓国・済州島への旅行。

キムさん
「まさか、あのまままったく会えなくなるとは思わなかったです…」

実は、キムさんは2年前に日本企業での就職が内定。小春さんも2022年春から東京での就職が決まり、2人は一緒に生活することを計画していた。ところが…。

小春さん
「オミクロン株で一瞬で国境が閉鎖されてしまったことが、私たちの期待を裏切るというか…残念な気持ちになりました」「水際対策には“当面”という言葉が使われて、私たちはどこに目標を置いたらよいのか、わからない…」

国際結婚した夫婦であれば、“隔離”などを行えば渡航できるが、法的な根拠がないカップルの状態では行き来さえできないのだ。

2年前にキムさんは、小春さんからメッセージ入りのアルバムをプレゼントされた。2人の写真に加え、たくさんの直筆メッセージが書かれている。もらった頃は、まだ読めない漢字もあり、十分に理解できなかったが、日本語が上達してから改めて読み返していたという。

キムさん
「これを見ていたら、絶対に日本にいかなあかんやろ、って思うようになっています。早く行かなくちゃって…」「普通に仕事して、一緒にご飯食べて…それをずっと待っていますね…」

●就職内定を得ても渡航できず無給で待機「バイトしながら待つしかない」

金叡成(キム・イェソン)さん(25)も、就職で影響を受けた1人。2020年、日本に本社があるIT企業に就職が内定したが、新型コロナの感染拡大のためビザが取得できず、訪日が延期された。

金叡成さん
「1年以上が過ぎて、11月に入国緩和されたときに入国しようとしたのですが、オミクロン株でまた待っているという状態です」

入社前で、まだ給与は出ないためアルバイトをしながら、業務に必要なプログラミングの勉強をしている。

金叡成さん
「自習をして、新しいアルバイトをしながら、ずっと待つしかないですね…」「コロナのせいなので仕方ないとは思いますが、先にビザを申請した方々だけでも、入国させてくれたらありがたいと思いました」

この会社のソウル事務所の担当者によると、「6人が韓国で待機状態」。今後も入国制限が続く場合、人材が不足し、日本での業務に支障が出る可能性もあるという。

●渡航できない留学生「いつでも日本に行けるように」月約7万円の部屋借りたまま

日本で学びたいと考えている留学生たちも、渡航できずにいる。韓国人留学生の金素恵(キム・ソヘ)さん(24)も、その1人。

金さんは、京都の同志社大学に4年間、留学。2020年9月の卒業式の直前、新型コロナの影響で韓国に帰国した。2021年4月、早稲田大学大学院に入学したが、日本に渡航できず、ソウルからオンライン授業を受けている。政治学研究科で、ジャーナリズムを専攻している。

韓国人留学生・金素恵さん
「Zoomで勉強したり、私以外も入国できなかった方々が何人かいるので、グループディスカッションしたり、という形で一応は授業をしています」

金さんが見せてくれたのは、東京で借りている部屋の鍵。いつでも日本に行けるようにと部屋を契約、2021年春から毎月約7万円の家賃を払い続けているが、自らは一度も部屋に入ったことがない。

韓国人留学生・金素恵さん
「日本に行ってすぐ生活を始められるように、隔離もここでできるように、準備を済ませていました」

ようやく11月になって日本の入国規制が緩和され、1月末から2月上旬をめどに入国のめどが立ったところだったが…。

韓国人留学生・金素恵さん
「オミクロン株によってまたそれが未定になってしまって、卒業するまで日本に行けないのではないかと心配です」

教授や同級生とも、まだ実際に会ったことがない。金さんは、“学びを深める権利”を失った感覚が、ずっと続いているという。

一方で、日本国内では外から入ってくる自分たちに“厳しい目が向けられている”ことも理解しているという金さん。日本の人々に向けて、こう呼びかけた。

韓国人留学生・金素恵さん
「“外国人は来ないでほしい”というコメントをSNS上で見かけたら、悲しい気持ちもあります…。今、日本に行くという人々は日本が好きで、これからの人生を日本で過ごしたいという方々。厳しい目だけじゃなくて、温かい目線を送ってくださったらと思います」

●“犠牲の上に成り立つ水際対策”道筋を示すべき

取材を通じて感じたのは、日本の水際対策に伴う“犠牲”の大きさだ。すでに撤回されたものの、日本行きの航空券の新規予約を停止するなど、人道的観点から疑問がある対応も目立つ。

もちろん水際対策には一定の効果があり、必要な措置だということは理解する。ただ、日本国内の安全のために、人生をすり減らしている人たちがいることを知ってほしいと思う。

海外赴任中に親族の死に目にも立ち会えず、葬儀にも出られない方もいる。日韓のカップルが、国際郵便で書類のやり取りをし、渡航のために結婚するケースも出ている。日本に行く留学生や就職内定者も、いつまでも待ってくれるわけではない。すでにあきらめた人もいる。日本の措置を恨む人もいる。

日本政府は、いたずらに措置の延長を繰り返すのではなく、「どのような状況になったら、入国が可能になるのか」など今後の道筋を明確に示すべきだろう。

2022年は世界各地の自由な往来が再開され、止まっていた彼らの歩みが動き出すことを願ってやまない。

(NNNソウル支局長 原田敦史)