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ヒラリー氏待望論まで…苦境のバイデン政権

2022年1月18日 13:13
ヒラリー氏待望論まで…苦境のバイデン政権

2024年の次期大統領選挙をめぐり、アメリカメディアで「ヒラリー・クリントン氏の再出馬待望論」が飛び出した。その背景に見えるのは、政権発足から間もなく1年を迎えるバイデン大統領と、与党・民主党の抱える「苦境」だ。

■突然取りざたされたヒラリー氏の名前が意味するのは…

「ヒラリー・クリントンの2024年大統領選挙へのカムバック」有力紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」のオピニオン欄に、今月11日、こんな記事が掲載された。

元ニューヨーク市議会議長らが書いたこの記事では、バイデン政権と与党・民主党が、11月の中間選挙で負けて議会の主導権を失った場合、ヒラリー氏が「党のイメージを変える新たな顔」として、再び大統領候補に浮上すると指摘。経験豊富で知名度が高い上、バイデン大統領より若く、現在の政権とは違う政策アプローチを示すことができるとして、「かつてはあり得なかったシナリオが、もっともらしくなってきている」としている。

もちろん、この論説を額面通りには受け止められない。そもそも、79歳の「バイデン氏より若い」と言っても、ヒラリー氏は現在74歳。記事の掲載以降、アメリカメディアはこぞってこの「仮説」に反論している。

「確かにクリントンは政治家として、間違いなく最も印象的な経歴を持つひとりだ。問題は、2016年の大統領選でも、2008年の大統領選の時でさえ、そうだったということだ。そして彼女は両方の選挙に負けた。当時と今の間で何が変わったのか?クリントンが『代わりの候補(change candidate)』になれるとは全く思えない」(CNN)

「この記事は、公開以降、批判と嘲笑を引き起こした」(news week)

ヒラリー氏自身、2017年に「現役の政治家としての活動は終わった」と発言している。ヒラリー氏の名前は、メディア各社の世論調査にもほとんど登場していない。唯一、マサチューセッツ大学とyougovが去年12月に行った「24年大統領選候補」調査で名前が挙がったが、支持する人はわずか6%で、民主党内の7番目となっている。

今回、ヒラリー氏の名前が取りざたされたのは、低支持率にあえぐバイデン政権の苦境、さらにはバイデン氏に代わる次期大統領候補が乏しい、民主党の現状の裏返しにほかならない。

■「思っていたのとは違った」就任1年

バイデン大統領は、去年夏のアフガニスタン撤退の失策で支持率が急落して以降、反転攻勢の機会を見いだせずにいる。目玉法案のひとつ、気候変動・社会保障関連の大型歳出法案の成立は、身内の民主党内からの反対でめどが立たず、経済面でも30数年ぶりの高いインフレ率への対応に手を焼いている。

さらに、一丁目一番地で取り組んできたコロナ対策でも、状況は悪化している。オミクロン株の感染が拡大する中、「従業員100人以上の企業の従業員にワクチン接種を義務づける」措置を今月、最高裁が差し止めたことは、バイデン政権にとって強烈な逆風となった。

キニピアック大学の世論調査では、政権発足後1年となる1月の支持率が33%と、過去最低を更新。ニューヨーク・タイムズは「大統領職は、本人が思っていたのとは違った」と、バイデン氏本人の心情を代弁するように評している。

一方、高齢のバイデン大統領が24年大統領選に出馬しない場合の「後継者」候補たちも苦しんでいる。最有力候補になるとみられていたハリス副大統領は、不法移民対策の責任者などに指名されたが、この1年、目立った成果は残せていない。広報担当者が年末に続けて辞任するなど、チーム内の不和も指摘され、支持率がバイデン大統領を下回っている世論調査もある。

ハリス氏の評価が下がるにつれ、ブティジェッジ運輸長官の名前も取りざたされるようになったが、「2020年の大統領選挙で課題となった、黒人有権者の支持の低さに対処できていない」(ポリティコ)と指摘され、ハリス氏にも及んでいないという評価だ。

こうした中、野党・共和党の次期大統領選候補レースでは、トランプ前大統領がトップをひた走る。そのトランプ氏は15日、今年初めて行った支持者集会で、「バイデンの支持率はひどい。それよりも低いのは、カマラ(ハリス副大統領)だ。世論調査では、今日選挙があれば、我々が圧勝だ」と胸を張った。支持者たちも、「2024年にホワイトハウスを取り戻す」というトランプ氏のかけ声に大歓声をあげた。

■迫られるコロナ対策の“転換”中間選挙に向け「反転攻勢」なるか

現在のバイデン政権の大きな課題として指摘されているのは、コロナ対策をめぐる政権のメッセージによる混乱だ。例えばNBCは、「バイデン大統領は、感染拡大を『ワクチンを接種しない人たちのパンデミックだ』と言うが、これはワクチンの追加接種を受けたのに、オミクロン株に感染してしまった人たちをさらに混乱させている」と指摘している。

こうした中、政権移行期にバイデン氏のアドバイザーをつとめた専門家たちは、これまでの「ウイルスを根絶する」戦略ではなく、「ウイルスと共存する新たな日常」に対応した、新たな戦略を策定するよう求めている。国民の審判が下る中間選挙を11月に控え、バイデン大統領に残された反転攻勢のための時間は決して長くない。大統領にとって、正念場となる政権2年目が始まる。

(ワシントン支局・渡邊翔)

写真:ビル・クリントン氏のTwitterより