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トランプ氏“激怒”バイデン民主“善戦”…ナゼ“赤い波”の予測は外れたのか?

2022年11月13日 10:05
トランプ氏“激怒”バイデン民主“善戦”…ナゼ“赤い波”の予測は外れたのか?
笑顔で民主党のイベントに姿をみせたバイデン大統領

バイデン民主党が、予測を覆し善戦している。大統領は、「メディアや評論家が予測した巨大な“赤い波”は起きなかった」と、共和党の伸び悩みを皮肉交じりに語った。メディアは終盤、「共和党優勢」を報じたが、これは世論調査に基づく予測だった。なぜ、再び予測は「外れた」のか、検証する。

■「これはおかしい」“共和猛追”データは実態を示していたのか

選挙キャンペーン最終盤、アメリカの世論調査のある専門家は警鐘を鳴らしていた。疑念を抱いていたのは、北東部ニューハンプシャー州のデータだ。「これはおかしい」。

ニューハンプシャー上院選には、民主党から現職のハッサン候補、共和党からトランプ派のボルダック候補が出馬した。

専門家が指摘していたのは、11月1日時点の政治情報サイト、リアル・クリア・ポリティクスの数字。全米で行われるあらゆる世論調査の数字を州ごとに取り込み、直近の平均値を出している。トレンドをみる上で有効だとして、日本メディアもよく引用する。

(https://www.realclearpolitics.com/epolls/2022/senate/nh/newhampshire-senate-bolduc-vs-hassan-7379.html)

1日時点で、それまで大きくリードしていた民主党候補を、トランプ派の候補が0.3ポイント逆転した。直近3つの調査で、いずれも共和党候補に良い数字が出たためだ。多くのメディアはこの平均値を使って「共和党のトランプ派候補が猛追、逆転」などと伝える。

しかし、前述の専門家は「たった3つの世論調査の平均値を取っている。これは非常におかしい」と指摘していた。サンプル数があまりに少なく、「雑な分析」というわけだ。これは、ニューハンプシャーのような地方の“非注目州”で起きる現象だ。

■世論調査会社の“格付け”も

さらに指摘するのは、これら3つの世論調査会社の格付けだ。TrafalgarはAマイナス、St. AnselmはA/B、Insider AdvantageはBとなっている。格付けとしてどれも決して高いわけではない上、うち1つは共和党系の調査会社(Trafalgar)が入っている。

ちなみに、これら3つの調査の直前に行われた調査は、民主党候補が+10となっていて、乖離(かいり)が激しい。この調査機関(UMass Lowell)の格付けはBプラス、こちらも信用度は低い。

「調査会社の格付け」は世論調査の分析を行う「ファイブサーティエイト」が行っているもので、過去実施した“世論調査”と“選挙結果”の数字の差を分析し、その正確性で格付けをしている。

(https://projects.fivethirtyeight.com/pollster-ratings/)

専門家は、最終盤の11月1日時点で、こうも指摘していた。「ニューハンプシャー州は2020年の大統領選で、トランプ氏よりバイデン氏に7ポイントも多く投票した州だ。そして、共和党候補はトランプの推薦を受けている。やはり終盤の数字はおかしい。共和党候補がいわれているほど追い上げているとは思えない」と。

結局、ニューハンプシャー州上院選は、民主党候補が約9ポイント差で勝利した。専門家の言葉通り、2020年の大統領選の結果に近い。リアル・クリア・ポリティクスが11月1日時点で示した「共和党候補+0.3」とは、大きくかけ離れた結果に終わった。「ニューハンプシャーで共和党の“赤い波”は起きていなかった」とみていいだろう。

■“赤い波”は実際には起きていなかった

今回の中間選挙、終盤でニューハンプシャー州のように「共和党候補が猛烈に追い上げた」とされた州は他にもある。その1つがコロラド州だ。ここも直前の「RCP Average」は民主党候補が+5.7。しかし、フタを開ければ+13ポイントと歴然とした差がついた。

直前の平均値を取るデータの1つに、共和党系のTrafalgarが入り、民主候補のリードはわずか+2ポイントとの世論調査結果が出ていたことに、明らかに引っ張られていた。

もう1つがワシントン州。ここも直前の「RCP Average」は民主党候補が+3。しかし、結果は同じく13ポイント以上の差がついた。

やはり直前の平均値を取るデータの1つに、共和党系のTrafalgarが入り、民主党候補のリードをわずか+1としていた。格付けが低いInsider Advantageも入っていた。

■数字を見極める目と現場の“肌感覚”

アメリカの選挙において、独自の調査手段を持たない日本メディアは、各世論調査やリアル・クリア・ポリティクスのような「まとめサイト」に頼らざるを得ない。先述のファイブサーティエイトのような、独自の補正をかけて予測勝率を出すサイトもある。今回、これら2つのサイトの予測は必ずしも一致していなかった。様々なデータから、実態を見極める「肥えた目」も必要だ。

一方で、数字だけではない、選挙キャンペーンの現場の“肌感覚”でもみえてくることはある。

■トランプ派候補への“熱”のなさ…お互い利用する“虚像”も

選挙戦序盤の9月3日。激戦州の東部ペンシルベニア州で、トランプ派候補の集会を取材した。トランプ前大統領が演説するということで、全米から1万人を超える熱烈なトランプ支持者らが集まった。

取材をしていて、あることに気がついた。とにかくトランプ派候補を応援する“熱”がないのだ。

上院選に出馬したオズ候補。タレント医師で知名度はあるが、共和党内の予備選をトランプ氏の推薦を得て勝ち抜いた後、無党派層がカギとなる本選に向けては急に“トランプカラー”を消すなど、風見鶏のような姿勢もみせていた。「オズは悪い人間よ」。トランプ支持者たちも、候補者の“資質”に序盤から疑問を抱いていた。

トランプ氏の集会会場で演説を聴いていて、別の点も気になった。2時間にわたって演説したトランプ氏だが、オズ候補を壇上に上げてしゃべらせたのは、わずか1分半。どちらが主役かわからない“応援演説”だった。

支持者はトランプ氏を目当てに集まり、トランプ氏も自身の2024年出馬を見据えたアピールの場として中間選挙を利用している。オズ候補は「蚊帳の外」にいるようにみえた。

2016年の大統領選はトランプ氏が勝利し、2020年はバイデン氏が奪い返した「スイングステート」の激戦ペンシルベニア州。今回はあっさり民主党候補に当確が出て、共和党のオズ候補は4ポイントあまりの差をつけられた。お互いを利用しようとする“トランプ派の虚像”が有権者に見透かされていた。この結果にトランプ氏は“激怒”した、と伝えられている。

そして、ここでも最終盤、オズ候補優勢の世論調査結果が出ていた。“赤い波”は虚像だった、といえる。

■“バイデン隠し”オバマ氏集会で感じた熱量…劣勢民主は本当だったのか

一方で、最終盤に取材した南部ジョージア州でのオバマ元大統領の集会。黒人有権者が3割を占めるジョージアでのオバマ氏の人気は、根強かった。会場には、あふれんばかりに有権者が詰めかけ、その熱狂ぶりは、「民主党劣勢」と呼ぶにはほど遠い熱量だった。

不人気のバイデン大統領はほとんど応援演説に出向かず、オバマ氏を「選挙の顔」にした最終盤の“バイデン隠し”戦略は、効果を挙げていたのだろう。

「インフレ批判で共和党が猛追している」。メディアが貼ったわかりやすいレッテルと実態の違いは、出口調査の結果にも表れていた。NBCによると、有権者が重視したテーマは、インフレが31%、人工妊娠中絶は27%。6月の連邦最高裁の判断から一定期間が経過してなお、インフレと並ぶ争点だったといえる。

世論調査のデータの見極め方だけでなく、メディアの伝え方も2024年の大統領選挙に向け、大きな課題を突きつけられている。

(NNNワシントン支局長・矢岡亮一郎

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