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米・デトロイト、荒れ果てた“自動車の町”

2013年4月5日 18:40
米・デトロイト、荒れ果てた“自動車の町”

 景気回復とともに自動車販売が好調なアメリカ。その一方で、“自動車の町”として知られるデトロイトが財政破綻の寸前にまで追い込まれている。デトロイトで今、何が起きているのか、ニューヨーク支局・杉山亮記者が取材した。

 ニューヨークで開かれている自動車ショー。アメリカのメーカーは大きなブースを構え、派手な演出で新車を披露する。高級車や利益率の高い大型車が売れ始めており、アメリカの自動車メーカーは、リーマンショック以来の低迷から勢いを取り戻しつつある。その一方で、かつてアメリカの自動車産業の代名詞でもあった町が、今、窮地に立たされている。

 世界第2位の販売台数を誇るGMの本社がそびえ立つミシガン州デトロイト。1950年代は、自動車関連の工場が建ち並ぶアメリカ有数の町だった。ところが今、町の中心部では、つぶれた工場やオフィスビルが至るところで放置されており、物寂しい雰囲気が漂っている。

 かつてのような世界をリードするまでの力を失った以外にも、工場の海外流出も重なり、ピーク時には185万人を数えた人口も71万人にまで減少している。

 自動車関連の工場があった巨大な建物も、今では崩れ落ちそうな姿となっている。工場の閉鎖と共に、町は荒れ果て、ほとんどの住人が引っ越してしまったという。近所の住民は「昔、私が若かったころは、空き家も廃虚もありませんでした」と語る。

 デトロイト市が抱える長期債務は今、1兆円を超えている。失業者に対する健康保険が大きな負担になったほか、人口が減っているにもかかわらず歳出削減をしなかったために、赤字が膨らんだという。現在でも自動車工場で働く人はこう漏らす。

 「自動車産業は大きなインパクトを持っています。工場をたくさん閉鎖したから、たくさんの人がデトロイトから出て行ってしまっている。(人口流出は)市の財政赤字の主な要因になっていると思う」

 デトロイトは凶悪犯罪が多く、“危険な町”としてアメリカのメディアで紹介されることもある。財政難で警察署と警察官の数が大きく減ったことも治安悪化の原因だ。そこで地域の住民たちは、「自分の町は、自分たちの手でなんとかしよう」という意識の元、自警団を立ち上げた。

 かつてフォードの工場で働いていたジェームス・ジャクソンさんも自警団の一員だ。デトロイトに住んで約40年になるが、町の荒廃ぶりを目の当たりにして、居ても立ってもいられなくなったという。そこで、仲間と協力して、昼夜、周辺地域を車で走りパトロールを始めたのだ。ジャクソンさんは「近所の人たちが引っ越してしまうのではと心配になったので、何か行動を起こすしかなかった。そこで私たちでも出来ることをやろうと決めました」と話す。人が居なくなった住宅や工場は、犯罪の温床になりやすいため重点的にパトロールしているという。

 財政破綻寸前で市の機能が低下しつつあるデトロイト。3月、財政問題が専門の弁護士が緊急の管理者として今後、強制的に歳出カットを行っていくことを決定した。ミシガン州知事・リック・スナイダー氏は語る。

 「本当の危機的なところにまで達してしまったのが問題。多くの点で、この日が来てしまったのは寂しいことです。しかし、再びチャンスの日だと思いたい」

 しかし、さらなる行政サービスの削減は住民がデトロイトから逃げ出す危険をはらんでおり、今後、難しい舵取りが迫られている。