どうなる党大会 金正恩体制の2016年
北朝鮮の金正恩体制が発足してから4年余り。金第1書記はこれまで、幹部の相次ぐ粛清や昇格と降格を繰り返す人事で権力の掌握に力を注いできた。
韓国の情報機関の傘下にある国家安保戦略研究院によると、金正恩体制の発足後、この4年間で処刑された幹部は約100人に上る。
最側近の幹部に対しても「処刑されると思え」などといった言葉で恐怖心を植えつけているほか、軍では「承知しました」という題名の歌を歌わせ、金第1書記への絶対服従の教育が行われているという。
韓国政府関係者は「2016年、金第1書記は基盤固めの仕上げを試みるだろう」と指摘する。
その意味で注目されるのが、5月に開催が予定されている。朝鮮労働党の党大会だ。党が国家を指導する北朝鮮では、党大会が最高意思決定機関にあたるが、1980年以来、開かれていない。
金第1書記は父親の故・金正日総書記に比べて党の役割を重視しており、36年ぶりの党大会で、「金正恩時代」の確立を内外にアピールする狙いがあるものとみられる。2016年の前半は、党大会で、アピールできる「成果」を北朝鮮がどのように得ていくかが焦点となる。
こうした北朝鮮の思惑は、外交面では対外関係改善の動きとして表れている。とりわけ中国との関係は、核問題でのあつれきに加え、中朝のパイプ役だった張成沢氏の粛清などで冷え込みが続いていたが、2015年10月に中国の最高指導部メンバー・劉雲山政治局常務委員が、北朝鮮労働党創立70年の軍事パレードに出席するため訪朝したことを機に、改善に向けて動き始めた。
北朝鮮は、党創立70年にあわせての実施が懸念されていた長距離弾道ミサイルの発射や、4回目の核実験を行わなかった。これについて、韓国の情報機関・国家情報院は「中国の反対が大きな要因だった」と分析している。
さらに北朝鮮は2015年12月、金第1書記肝いりの女性音楽グループ「モランボン楽団」を中国・北京に派遣して関係改善のムードを演出。そのモランボン楽団をめぐっては、公演が突然中止される騒動が起きたが、北朝鮮の国営メディアは中止について報道しておらず、中国側の反応も抑制されたものだった。
韓国外務省の関係者は「公演は中止されたが、中国も北朝鮮も関係を改善したいという考えに変わりはない」として、騒動は関係修復の流れに冷や水を浴びせたものの、関係改善の方向性は維持されているとの見方を示している。
金第1書記が劉雲山氏との会談で「経済発展と人民生活の改善に努力しており、平和・安定的な外部環境が必要だ」と述べていることもあり、党大会までは対外関係で緊張関係に持ち込むことは避ける可能性が高い。
こうした中、金第1書記は「人民生活の向上」を掲げ、経済重視の姿勢を強めている。北朝鮮は、低迷が続く経済を立て直す事業の一環として「観光」に力を入れており、2015年12月には中国との国境に接する北西部の都市にレストランや土産物店などを備えた観光地区を新たに開発した。中国人観光客の増加を図り、外貨獲得につなげる狙いがあるとみられる。
一方、外貨獲得の「ドル箱」だった金剛山観光は2008年以来、韓国人観光客の往来が中断したままで、北朝鮮は、その再開についても、執着を見せている。
2015年12月に開かれた韓国との次官級協議で北朝鮮側は、金剛山観光の再開で合意しなければ、他の問題を協議することはできないという姿勢を譲らなかった。その結果、協議は何の合意もできずに決裂し、次の日程も決まっていない。
韓国政府の関係者は「北朝鮮としても、南北関係改善への需要があることは確かだが、だからといって対話が成り立つとは限らない」と交渉の難しさを吐露した。北朝鮮としては、党大会に向けて南北関係が前進することは望ましいが、実利のない対話に意味はないということなのだろう。
経済に力点を置いているとは言え、金第1書記は核開発と経済発展を同時にすすめる「並進路線」は貫徹していく姿勢だ。韓国政府の関係者も「党大会で新たなビジョンの提示や積極的な変化の意思を示すのは難しい」との見通しを示している。
こうした中、2015年12月30日、北朝鮮の金養建統一戦線部長が交通事故で死亡したとのニュースが飛び込んできた。金部長は金第1書記の側近の一人で南北関係を担当してきたが、最近では外交全般を取り仕切る役割も担っていたとされる。
韓国の北朝鮮専門家は、金部長の死亡によって「韓国との対話がさらに停滞するだけでなく、中国との関係改善も遅れる可能性が高くなった」と分析している。
北朝鮮が5月までに内政や対外関係で成果を出せず、国際的な孤立をさらに深めることになれば、党大会前後に再び緊張を高めながら相手から譲歩を引き出す「瀬戸際戦術」路線に戻る可能性もある。