事故から30年“放射能”と闘うベラルーシ
キーワードでニュースを読み解く「every.キーワード」。12日のテーマは「30年の経験に学ぶ」。諏訪中央病院・鎌田實名誉院長が解説。
先月、チェルノブイリ原発のあるウクライナの隣国・ベラルーシを訪問した鎌田さん。30年前の原発事故当時、風向きの影響で放射性物質が流れ着いて大きな被害を受けたベラルーシでは、どのように放射性物質から子どもたちを守ってきたのか、現地を取材した。
ポイントは3つ。「保養」「放射線量の見える化」「検診」。どれも私たちも学ぶべき大切なことだった。
■保養
いまも局地的に高い放射線量が測定される「ホットスポット」が点在するゴメリ州の村。ここで鎌田さんは、原発事故の2年前に生まれた31歳の女性に出会った。
女性は子どもの頃、保養のため海外へ行っていたという。
「(保養のため)ドイツとイタリアに行きました。療養所にも行きました」
保養の期間は1回24日間。年に2回とっていたという。
また、ゴメリ州の中でも被害の大きかったベトカ地区の行政担当で、ベトカ地区執行委員会・セルゲイ副会長(46)は語る。
「ここでは事故後すぐにいろいろな影響があることがわかっていましたから、無料で(年に)2回、子どもたちを保養させました。いまは線量が減っていますが、年に1回は子どもたちの健康のため、汚染されていない地域に行かせています」
その上で、「放射線量を気にしないで過ごせる場所で、子どもたちの心と体のストレスを緩和する効果が期待できるのでは」と話していた。
■放射線量の見える化
次にゴメリ市内にある市場を訪ねた。今でも売られる全ての食品の放射線量を検査している。ベラルーシでは、ほとんどの市場に放射性物質を検査する測定器が置かれているという。
ベラルーシの首都・ミンスクにある国立医科大学の放射線の専門家に話を聞いた。
ミンスク国立医科大学放射線医学部・アレキサンドラ部長「(Q食べ物の測定はよくやりましたか?)1986年から今も続けています。なぜなら、まだ食品から内部被ばくする可能性がありますから」
内部被ばくを防ぐためには、事故から30年たっても食品の測定は欠かしてはいけないと話していた。
■検診
原発事故後に生まれた女性に話を聞いた。
鎌田さん「甲状腺検査はしましたか?」
女性「今も毎年、定期検査を受けています」
鎌田さん「体内被ばくも調べていますか?」
女性「はい、年に1回」
甲状腺がんに詳しい医療放射線研究センターの医師が語る。
医療放射線研究センターのユーリー・ジェミチク腫瘍学部長「放射線量が低いところでも、甲状腺がんになることがあります。ただ、子どもの甲状腺がんは十分に治療できることがわかっています。できるだけ定期的に、医師に診てもらうことが必要です」
ベラルーシでは、原発事故から30年たった今でも保養を大事にし、食品などの放射線量を測定して見える化を行い、検診も欠かさず行うという徹底した対策がとられていて、市民を慎重にケアしていた。
また、国立医科大学の放射線の専門家に福島へ伝えたいメッセージを聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
「やるだけのことをやったら、不安に思わなくていい」
つまり、検査や検診などを欠かさずしっかりやっていくことで不安を減らすことができる。裏を返せば、不安を感じずに生きていくには、検査や検診を欠かさずにやっていくことが必要だということだ。
■風化と風評
ベラルーシでは、放射線の研究者や医師、汚染地域の行政が、みんなでやるべきことを明確にしていた。原発事故という過去を風化させずに、子供たちや住民の命を守ろうという強い意志を感じた。
福島でも原発事故から5年たったが、私たちも風化させることなく、臆測などで風評を立てずに福島を支えていくべきだと、事故から30年たったチェルノブイリから学んだ。