2017年 トランプ新政権の行方《外交》
■外交の要に“ビジネスマン”、ロシアとの関係は
トランプ新政権の外交の要、国務長官に指名されたのは、石油大手・エクソンモービルのティラーソンCEOだ。外交経験のないビジネスマンだが、軍隊のように規律正しく会社経営をしてきた手腕を買われ、共和党の主流派からの推薦で、起用が決まったとされる。
注目されるのがその人脈。ロシアで石油事業を展開していることなどから、プーチン大統領と親交があるとされているのだ。この人事に象徴されるのが、トランプ氏の打ち出しているロシアとの関係改善というメッセージだ。
オバマ政権では、クリミア併合やシリア問題を巡りロシアと対立、ヨーロッパと協調して、経済制裁を科すなど圧力をかけ続けてきた。これに対し、トランプ氏は、プーチン大統領からの書簡を公開するなど、ロシアとの友好関係を強調。関係改善に意欲を見せており、経済制裁緩和に踏み切るのではないかとの見方も出ている。
■最優先課題“テロへの不安払拭”
ロシアへの接近の背景には、トランプ政権が最優先課題としている過激派組織「イスラム国」の壊滅がある。高まるテロへの不安を払拭するために避けられない大きな課題であり、ロシアとの共闘が合理的だと判断した結果だ。
また、軍事政策を担う国防長官には、「狂犬」の異名を持ち、中東での軍事経験が豊富な元アメリカ中央軍司令官・マティス氏を起用した。トランプ氏の外交政策は、当面、ロシア、そして中東が中心に据えられるとみられる。
■アジア外交では中国を意識
一方、アジアについては、中国を意識した姿勢が鮮明だ。習近平国家主席の古くからの友人とされるアイオワ州の知事を中国大使に起用すると早々に発表、またアジア政策を取り仕切る国家安全保障会議のアジア上級部長には、中国での特派員経験がある元新聞記者を起用する見通しだ。
トランプ氏は、対中経済赤字を問題視しており、その解消のためには、安全保障問題も交渉カードとして切ることを辞さない構えだ。これまでアメリカ政府が堅持してきた「1つの中国」の原則にこだわらない考えを示すなど、早速、中国にゆさぶりをかけた。
またこうした交渉カードとして、中国が軍事化を進める南シナ海問題を取り上げ、大規模な演習を行うなど、オバマ政権より強硬な姿勢を示す可能性がある。東シナ海を巡っても、ある安全保障の専門家は、トランプ氏自身が沖縄を訪問し、中国をけん制する可能性を指摘している。
■オバマ政権からの申し送り、最優先は「北朝鮮の核」
もう一つの懸念材料が北朝鮮だ。オバマ政権はアジアでの最優先課題は北朝鮮の核、ミサイル開発だとトランプ氏側に申し送りをしたという。北朝鮮問題の専門家はトランプ氏も北朝鮮の脅威を認識しており、経済制裁に頼っていたオバマ政権のやり方にはとらわれず、「北朝鮮政策を再検討し、交渉を始めるかもしれない」と指摘している。
日本に対しては、TPP(=環太平洋経済連携協定)に代わり2国間の自由貿易協定を要求すると思われるが、こうした交渉カードに中国や北朝鮮への対応を持ち出してくる可能性もある。
■トランプ外交、世界そして日本への影響は
大きな方針は見えてきたトランプ外交。しかし安全保障の専門家は、トランプ外交は、2国間でのものの見方を考えるのみで、それが地域や世界全体に及ぼす影響を考えていないと指摘。中東、アジア、ヨーロッパなど、それぞれの地域の混乱を招き、ひいては世界全体も混乱する可能性があると警戒する。
日本としては、アジア太平洋地域での安定に、日米同盟がいかに貢献しているかトランプ氏側に繰り返し説明することで、理解を浸透させることが急務だといえる。