そば1杯3000円超…アメリカ“記録的インフレ”による過度な利上げでリセッション(景気後退)危機の行方は
記録的なインフレが襲ったアメリカでは、円安とのダブルパンチで、そば1杯が3000円を超えるまで値上がりしました。インフレを抑え込むため行っている利上げで、リセッションへの懸念が高まるアメリカ。2023年の「円相場」と「景気後退」の見通しは?
■インフレと円安でそば1杯3000円超に
22年のアメリカ経済は、記録的なインフレに見舞われた年でした。6月の消費者物価指数は前の年の同じ月と比べて9.1%上昇し、円安ドル高も1ドル151円台まで進行しました。
40年ぶりのインフレと32年ぶりの円安のダブルパンチとなり、ニューヨーク・マンハッタンでは、山菜たぬきそば1杯の値段が、チップを入れると日本円で3400円にのぼることが話題になりました。
新型コロナウイルスによるパンデミックが終わり、経済活動が回復したことで、旺盛な需要を背景に物価高が進んだアメリカ。
記録的な物価高は2%のインフレ目標をはるかに上まわっていて、FRB=連邦準備制度理事会はインフレを抑え込むために、通常の3倍となる0.75%の利上げを4会合連続で行うなど、これまでにないペースで利上げを行ってきました。
■急激な利上げでモノの価格は落ち着くも…人件費は依然高水準
利上げにより住宅や車のローンの金利が上がり、消費者はモノが買いにくくなって需要が落ち着いてくることで、物価上昇はおさまるとされています。急激な利上げで、インフレのピークはみえてきたのでしょうか。
22年11月の消費者物価指数では、ガソリン価格や中古車価格は下落に転じました。FRBのパウエル議長は、モノの値段は落ち着いてきたとする一方で、「サービス」価格は高い水準のままです。
サービスの値段が下がらない理由を、岡三証券ニューヨーク駐在員事務所の吉田拡司所長はこう分析します。
吉田拡司所長「コロナ明けで経済活動が回復して、旅行など旺盛な需要が続いています。航空会社などは、コロナでいったん解雇した従業員をまた呼び戻したりしているため、慢性的な人手不足となっています。人件費は上昇し続けていて、転職者の賃金上昇率が8%を超えているというデータもあります」
コロナ前にもアメリカの景気は拡大していましたが、これほどの人手不足は起きていませんでした。働く意思のある人の割合を示す労働参加率は、直近の22年11月は62.1%とコロナ前の63.4%より1ポイント以上低くなっていて、労働者の数がコロナ前の水準に戻っていません。
コロナ禍で手厚い給付金が支給されたことなどで、「過剰貯蓄」が22年9月時点でおよそ1兆8000億ドルに膨れ上がっていて、「働けるのに働かない人」の数が増えているといわれています。この結果、アメリカでは人手不足が続き、賃金の値段が下がらない状況が続いているのです。
FRBのパウエル議長は22年12月の会見で、「物価の上昇率が持続的に抑えられていると確信するには、さらなる根拠が必要だ」として継続的な利上げが適切だとしています。
■急激な利上げの副作用…リセッション(景気後退)はいつ?
さらに、22年12月の会合では、翌23年末時点での政策金利の見通しが、これまでよりさらに引き上げられました。利上げが急激に続くとモノは売れなくなり、企業の設備投資も難しくなるので、リセッション(景気後退)の懸念が高まっています。
アメリカでは、過去にも急激な利上げが行われた結果、高金利住宅ローン「サブプライムローン」が破綻し、リーマンショックへとつながりましたが、今年の利上げペースはリーマンショック前の利上げよりさらに急カーブを描いています。
急激な利上げに伴う23年の世界経済の見通しについて、吉田所長はこう分析します。
吉田拡司所長「23年の半ばに、マイルドなリセッション(景気後退)になると見込んでいます」
吉田所長は、
(1)遅いと年の半ばごろまでは利上げが続く見込みであること
(2)個人の借り入れが増加していること
(3)「過剰貯蓄」がなくなること
(4)年半ばに失業率が4%台前半を推移する想定であること
などから、「3月から9月あたりにマイルドなリセッションが起こり、年末に向けては改善に向かうだろう」と予想しています。
リーマンショックほどの深刻な景気後退にならないと予想している理由については――。
吉田拡司所長「失業率の予想は4%台で、リーマンショック後の10%とは大きく違います。また、『過剰貯蓄』の減少は、本来なくてもよい貯蓄を減らしているだけですし、近年、大幅に増加していた住宅ローンは信用スコアの高い人が中心であるため、サブプライムローン問題のように返せない借金が膨らんでいるわけではない。また、個人消費も現状は借金が中心ではない」
■円は1ドル125円~140円を推移か…日本経済への影響は?
気になる円相場について吉田所長は、「アメリカの利上げのゴールが来年半ばにみえていることもあるため、ドル買いの圧力は緩和され、円買いの巻き戻しもあり、1ドル125円から140円の間を推移するだろう」と予想しています。また、「IMFの予想では、アメリカの23年のGDP成長率がプラス1.0%なのに対して、日本のGDP成長率は1.6%とアメリカを上まわっていて、コロナが明けて今まで難しかった旅行など、経済はサービス消費を中心に回復基調になる」と分析しています。