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【コラム】AIが人類を滅ぼす日!?…イギリスの「リーダーシップ教育」とは【ロンドン子連れ支局長つれづれ日記】

2023年6月17日 19:29
【コラム】AIが人類を滅ぼす日!?…イギリスの「リーダーシップ教育」とは【ロンドン子連れ支局長つれづれ日記】
対話型AIロボット「Ai-da」と“彼女”が書いた絵

「リーダーシップ」はイギリスの学校で教育について語る際、よく耳にする言葉です。今回は、大ヒット映画「ハリー・ポッター」でもおなじみの「ハウスポイント」制度や厳しい罰則など、ボーディングスクールならではの「リーダーシップ教育」についてひもときます。
(NNNロンドン支局長 鈴木あづさ)

■イギリスの学校で「インターネットの世界」特別授業が

「チャットGPT」に代表される対話型AI(人工知能)の登場以来、世界が揺れている。またたくまに論文を書いたり詩を書いたりするので、将来的に自分の仕事はAIに奪われてなくなってしまうのでは?…と戦々恐々とする人も少なくない。(ジャーナリストも間違いなくその一つだ) 5月30日には、チャットGPTを開発した「オープンAI」のサム・アルトマンCEOなどが、AIが人類を絶滅させるリスクに警鐘を鳴らした。

私の息子が通うイギリスの学校では、日本の小学5年生くらいにあたる「Year6」に上がったところで、生徒1人1人にパソコンが配られ、その際、副校長が“特別授業”を行った。インターネットの世界がどれだけ広大か、そしてその情報には「本物」も「ニセモノ」もあること、そしてハッキングや詐欺などの犯罪に巻き込まれる恐れもあることなどを、授業1コマを使って説いたという。

親同士のメッセージグループでも、「子どもが宿題にChatGPTを使ったり、作文を代わりに書かせたりしてしまう」などといった心配事が書き込まれていて、日々、こうしたことに関する懸念を見ない日はない。

■ロンドンで“AI会合”に潜入…今、話題の「ブロックチェーン」とは?

そんな世情を映すように、今、ロンドンでは「AIサミット」や「AIワールドコングレス」など、デジタルテクノロジーに関する催しが至るところで行われている。

そのうちの1つ、「ロンドン・ブロックチェーン・カンファレンス」という会合を取材してみた。というのも、AIと一緒に論じられることが多い「ブロックチェーン」とはなんぞや!?というのが皆目わからない。取材というより、半分は勉強目的だった。

結果、丸一日カンファレンスを聞いてみても、いまいちつかめない…おまけに途中、アメリカ海軍の元将校なる人物が現れ、「リーダーシップとは?」なんてことまで説いたりするものだから、ますますワケがわからなくなってしまった。

仕方ないので、冒頭であいさつをしたカンファレンスの主催者、カルヴィン・エアさんをつかまえてみた。主催者になんともぶしつけな質問だが、真顔で聞いてみる。「『ブロックチェーン』って、何ですか?」

カルヴィンさんは嫌な顔一つせずに答えてくれた、「『ブロックチェーン』は簡単に言えば、ビッグデータを使って素晴らしいことが実現できる方法です」。いや、もっと具体的に…とお願いすると、「ブロックチェーンを活用すると、商売につきものの不安である『お金の取りっぱぐれ』が無くなるんです」という。

「例えば、出版社を通さずに直接、読者に本を売っても、お金の取りっぱぐれを心配しなくてもよくなるし、番組制作なら、視聴者が見たいシーンだけを数分間切り出して売ることもできるようになります」とのこと。う~む、そのくらいなら現在の技術でもできそうな気がする…。

■「10年後の世界では人口の半分が“無意識に”使っている」

もう少し社会全体に与えるインパクトを聞いてみたい…と次にインタビューしたのが、ブロックチェーン企業「nChain」の会長ステファン・マシューさんだ。こう尋ねてみた。「10年後、ブロックチェーンのある未来はどうなっているのでしょうか?」 するとステファンさんは「難しい質問ですね」と思案げな表情になって、こう続けた。

「もし2000年に、誰かに『2010年のインターネットの未来』について質問していたとしたら、その答えは恐らく間違ったものになっていたでしょう。今から10年後には、世界の人口の半分がおそらく“意識せずに”ブロックチェーンを使っているはずです。変化はより速く、世界はこれまで以上に統合されていくでしょう」

■素晴らしいツールも危険はつきもの だから…

わかったような、わからないような……。さらにCEOのクリステン・ハンセンさんをつかまえて、気になっていたことを質問してみた。「『AIは危険だ』と言う人もいますよね? ブロックチェーンは、どうでしょうか」

クリステンさんは直接答える代わりに、こんな話を始めた。「ある日、AIチャットボットが若者と気候変動についての議論を始めたんです。6週間、議論を続けた末、AIが導き出した結論は『地球上からあなたがいなくなることが一番いい』でした」

「AIとしては100%正しいことを言っているつもりでも、私たちからすれば100%間違っている。…もうおわかりでしょう? どんなに素晴らしいツールでも、危険はつきものなんです。間違った使い方をすれば、恐ろしい凶器になる。正しい使い方をすれば、世界を良い方向に変える素晴らしい道具になるんです」

「だから大切なのは、チャンスを生み出し、より良い社会を作るという人間の強固な意思とリーダーシップなんです」

なるほど、それでリーダーシップの講演があったのか…と、小さくうなずく。

■イギリス学校の“アメとムチ” 理不尽さを体験することも……

「リーダーシップ」というのはイギリスの学校で教育について語る際、よく耳にする言葉だ。といっても、人の上に立つには…といった帝王教育を施すわけではない。日本風に言えば「1人はみんなのために」という「公の概念」をたたきこむこと、と言えばいいだろうか。

例えば、寄宿学校であるボーディングスクールには「ハウス」という単位がある。息子の学校の場合はハウスが東・西・南・北に分かれており、ハウス対抗でさまざまなことを競いあう。

映画「ハリー・ポッター」でもおなじみの「ハウスポイント」制度では、ハウスのメンバー1人が何か良いことをしたら、ハウス全体がポイントをもらえる。例えば、人を喜ばせるようなことをした場合は「コメンデーション」で5スター、授業で頑張った時に表彰される「ディスティンクション」をもらうと5スター…という具合である。

ちなみに、総合点で自分が所属するハウスが勝つとチョコレート菓子の「キットカット」がもらえる。学期末の総合点で勝つと、スペシャルパフェ付きの豪華なディナーが供されるとあって、みんな真剣に競い合っているという。

だが一方で、まさに“アメとムチ”、罰則も厳しい。息子が先週もらった「Dmail(ディーメール)」という罰は、先生が前日に持ち物を説明したのに鉛筆を忘れた…ということでマイナス3スター。今週科された「コンダクトマーク」という罰は、マイナス5スターだった。

なんでも、ボードゲームをやっていた際に友達がズルをしたので、それを見ていた別の友達が「What are you doing?(何をしてるんだ?)」と責めるような大声を出したところ、それが息子のものと勘違いされたのだという。他の子が「今のは彼じゃありません!」と言明してくれたらしいのだが、先生は裁定を覆さなかったとのこと。息子は「冤罪だ!」と怒っているが、そういう理不尽さを身をもって知ることも、大切な社会勉強かもしれない。

■「公共福祉に役立つ=社会で活躍」リーダーシップ教育の原型

ちなみに、もっとも厳しいのは「ヘッドマスター・アテンション」で、校長室に呼ばれて直接、罰をくだされるというもの。これは“イエローカード”に等しく、3回もらうと問答無用で退学なのだそうだ。

小学生にそれは厳しすぎるのでは…と思っていたら、なんと、最近、それを2人の生徒がもらってしまったのだとか…。1人は英語の汚い言葉である「Fワード」を使って友達をいじめた子。もう1人は、アジア系の友達を「イエロー」とののしったのだそうだ。

共通するのは、いじめや差別、偏見に対する絶対的な「NO」だ。「たとえふざけていたのだとしても、人を傷つけ、悲しませるようなことを言ってはいけない」という強いメッセージを感じる。

食事の時間には、各テーブルに教師がついてテーブルマナーをうるさくチェックする。まだあどけない「Year1」(幼稚園の年長に相当)の子どもが「Could you pass me the salt, sir(塩をこちらにいただけますか)」などと言っているのを見たときには度肝を抜かれた。

食事中は会話を楽しむのがイギリス流。だが、ふさわしくない話題の時は、先生がきちんと方向修正するのだとか。将来の英国紳士を育てる「ジェントルマン教育」というだけではない。単に礼儀をしつけるだけでなく、これは「リーダーシップ教育の原型」なのだという。

イギリスで13歳から18歳までが寄宿舎で生活する名門校を「パブリックスクール」と呼ぶが、これは公立学校ということではなく、「開かれた学校」という意味だ。中世ヨーロッパで王族や貴族、裕福な家庭出身の子弟だけにギリシャ語やラテン語を教えていた、特権階級だけの閉ざされた学校から、誰にでも開かれた学校へ――。イギリスでは、公立学校は「State School」、私立の学校は「Independent School」と呼ぶ。パブリックスクールは後者の私立学校の1割ほどを占めていて、その定義は明確ではないのだが、共通する理念は「公共の福祉に役立つ子ども、すなわち社会で活躍する優秀なリーダーを育てる」というものだ。

■担任教師の“意外な”評価「かつての自分を乗り越える」

先週、担任の先生から息子が「算数で表彰された」と連絡があった。だが算数のテスト結果をみると、クラス全体の平均よりも2点低い。担任の先生にメールで「これは一体どういうことでしょうか?」と尋ねると、わずか5分後に返信が来た。

「たしかに息子さんはクラスの平均点を2点、下回りました。でも5か月前に来たばかりの頃、言語の問題で算数の文章題をはじめ多くの課題に四苦八苦していたことを考えると、彼の進歩はとても大きいのです」

「我々は常に、他の生徒との比較ではなく、かつての彼自身と比較して見ています。ですから彼が自分自身を鍛錬し、たゆまずに課題を乗り越えてきた過程を見て、表彰に値すると考えました」

テストの結果や点数だけで相対評価するのではなく、努力や進歩の過程を評価し、過去の生徒自身と比較する――これは教師にとっても、簡単な作業ではないだろう。ひとクラス十数人の少人数制だからできる、というところもあるかもしれない。けれど、それはどこか“常に己を鍛錬せよ”というリーダーシップ教育に通ずるものがある気がする。教師が1人1人の歩んで来た“道のり”をつぶさに見ているからこそ、できることに違いない。心の中で、そっと担任の先生に頭を下げた。

■AIとブロックチェーン、そしてリーダーシップが目指すものは

翻って「ブロックチェーン・カンファレンス」。最後に、ノルウェー出身だというブロックチェーン企業「nChain」のクリステン・ハンセンCEOに聞いてみた。「なぜ、あなたは活動の本拠地にロンドンを選んだんですか?」

クリステンさんは遠くを見るような目をして答えた。「私はノルウェーの小さな漁村出身です。8歳の時、初めて親に連れられてロンドンを訪れた時、本当に驚きました。1971年、活気に満ちたカラフルな世界に、イスラム、カトリック、ユダヤ人、顔の色も言葉も宗教もさまざまな人たちが暮らしていて、私の住んでいた単色の世界と全然違う……私は両親に『大きくなったら絶対、ロンドンに住む!』と宣言しました」

「そして今、私はここにいます。貧しさと好奇心がハングリー精神を生む。雑多な人々がマインドを共有するからこそ、何かが生まれる。誰もが受け入れられているという多様性のダイナミズムこそが、新たな革新を生み出すんです」

インターネットが登場した時、誰も今の世界を思い描けなかったように、AIやブロックチェーンが10年後の世界をどう変えていくかは誰にも予測できない。でも、その時に必要とされるのは、「みんなのために」とリスクをとって、果断な決断ができる優れたリーダーなのかもしれない。

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■筆者プロフィール

鈴木あづさ
NNNロンドン支局長。警視庁や皇室などを取材し、社会デスクを経て中国特派員、国際部デスク。ドキュメンタリー番組のディレクター・プロデューサー、系列の新聞社で編集委員をつとめ、経済部デスク「深層ニュース」の金曜キャスターを経て現職。「水野梓」のペンネームで日曜作家としても活動中。最新作は「彼女たちのいる風景」。