【解説】ウクライナ提案“安全の保証”枠組み…なぜロシアも? 中露関係は“いびつ”になる?
29日のウクライナとロシアの停戦協議で、ウクライナ側はロシアも入る“安全を保証する”枠組みを提案しました。ウクライナ情勢の動きについて、国際政治・旧ソ連地域の研究が専門で、ロシア政治に詳しい慶応義塾大学の廣瀬陽子教授の解説とともにお伝えします。
■マリウポリ「数日で陥落」分析 ロシア、なぜこだわる?
有働由美子キャスター
「アメリカのシンクタンクによると、停戦協議を受けてウクライナの首都キーウ(キエフ)周辺では、撤退したロシア軍がベラルーシ方向に移動しているように見えるということです」
「一方で、これまでウクライナが死守してきた南東部のマリウポリについては、『数日で陥落する』との分析も出ています。廣瀬先生、ロシアはマリウポリにずっとこだわっているんですが、やはりこの一帯は絶対に譲れないということでしょうか?」
慶応義塾大学・廣瀬陽子教授
「マリウポリをとらないと、やはり海の部分を全部制覇することができず、そこを全体的に統制していくことが、ロシアにとって非常に重要ですし、ウクライナの補給を断つということもできます。非常に戦略的な場所ですね」
■“陥落”したら…住民は「逃げる」か「ロシアの経済圏で生活」しかない?
辻愛沙子・クリエイティブディレクター(『news zero』パートナー)
「マリウポリは『あと数日で陥落かも』という厳しい見方もあると思うんですが、もし万が一、陥落した場合、そこにもともと住んでいたウクライナの人たちの命や暮らし、生活はいったいどうなっていくんでしょうか?」
廣瀬教授
「非常に残念な見方しかできないんですけれども、そこに残ってロシアの経済圏の中で生きていくか、さもなくば逃げるという、それしかないですよね。それは、2014年のクリミア併合の時もそうで、ロシアに反発する人は逃げるしかなかった、そして、残る人はロシアの経済圏で生きるしかなかったということがありました」
■ロシア、今後の動きは “キーウ再攻撃”可能性も…
有働
「一方、『キーウでの軍事活動縮小』を聞いたゼレンスキー大統領は『信用する根拠がない』、そしてアメリカ国防総省も『再配置であり撤退ではない』と反応しています」
廣瀬教授
「実際、29日もキーウに攻撃がありまして、やはりロシア側の主張をそのまま、うのみにすることはできません。今後の方法としては、いくつかあると思うんですが、まず、南部、東部を固めていくのは確実ですが、それと並行して、もし軍備が整ったらキーウに再攻撃ということも可能性としてはありますので、ウクライナ全土に目を配っていくことが必要だと思います」
■ウクライナ提案の“枠組み”ロシアが入る意味とは
有働
「領土の問題ともう1つ焦点だったのが、ウクライナの安全をどう守るかですが…」
小栗泉・日本テレビ解説委員
「ロシアが嫌がるNATO(=北大西洋条約機構)に入らないとしても、『ウクライナが攻められた時、安全を第三者に保証してほしい』としてウクライナ側が提案したのが、国連安保理の常任理事国であるアメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国の5か国に加えて、これまで仲介を行ってきたイスラエルやトルコなどが参加する枠組みなんです。ただ、よく見るとアメリカ、イギリス、トルコは、NATOの中でも今回のロシアの軍事侵攻を止めるために重要な役割を果たしている国なんです」
「また、この枠組みは単に『ウクライナの安全を保証する』と約束するだけでなく、国際条約として、全ての国が署名して、それぞれの国で承認手続きをとる『批准』といった形式をとらなければならないという風に求めているんです」
有働
「廣瀬先生、ウクライナはなぜ、このメンバーを提案したんでしょうか?」
廣瀬教授
「いくら機能しないとはいえ、国連安全保障理事会の常任理事国を全て入れていくというのは、1つ重要なポイントだと思うんですね。そうすると、おのずとロシアも入ってきます。ロシアを入れていくということで、この安全保証の枠組みが『反ロシアではない』ということをイメージづけることができます。さらに中国も入っているということで、ロシアとウクライナ、共に共通する仲の良い大国ということも言えると思います。そしてまたその他の国については、ポーランドはウクライナの重要な隣国ですし、また、カナダはウクライナ移民が非常に多いということもあります。さらに、イスラエルは軍事大国で中東とヨーロッパに位置している。そしてトルコは黒海の地域で、かつ軍事大国で交渉にも関わっているというところで、かなりキーとなる国を入れていると思います」
■“領土問題”互いに譲らず…「首脳会談」どうすれば実現
有働
「ロシア側は交渉が進展すれば『首脳会談も可能』となるんですか?」
廣瀬教授
「それは非常に難しいところです。そもそも、ロシアが今のこの『安全保証の枠組み』を受け入れるかということも非常に疑問で、ロシアからしてみれば『NATOと変わらないじゃないか』というようなところも見えてきますし、また領土問題ではお互いに譲らないということもあります。もし仮に、そういうところが全てクリアされて、本当にサインするだけというところになって、初めて首脳会談は実現するものと思われます」
■中露外相会談…ロシアは中国の“ジュニアパートナー”に…?
有働
「それと29日、中国とロシアの外相会談が行われて、両国の協力関係をさらに拡大していくことなどで合意したということなんですが、ロシアはこのタイミングで中国にどういう役回りを期待しているんでしょうか?」
廣瀬教授
「本来であれば軍事支援を依頼したいところなんですが、中国としては制裁の火の粉を受けたくないので、絶対に受けられません。ですので、経済援助というところで恐らく依頼をし、恐らく何らかのディールが結ばれたものと思いますが、今後、中国がロシアをジュニアパートナーとしてみて、物を売るにしても高く売ったりですとか、エネルギーを安く買いたたくようなことも起こりかねません。ますますロシアと中国の関係というのも、いびつなものになっていく可能性があります」
◇
有働
「ロシアとウクライナをめぐる各国の動きにも、この後、非常に注意が必要ですね」
廣瀬教授
「そうですね。やはり、非常に際立った形で多くの国が動いていますので、全体的に見ていく必要があると思います」
(3月30日放送『news zero』より)