夢断たれ入隊 ミャンマー17歳女性兵士の覚悟…軍事政権に“抵抗”民主派勢力として戦場へ…『every.16時特集』
市民への弾圧を続ける軍事政権に対し、攻勢を強める民主派勢力。ミャンマー内戦はいま“転換点”を迎えています。国軍との戦闘に志願する若者が増えている“抵抗の拠点”を取材すると、17歳女性を含む約90人が戦場に立つために軍事訓練を受けていました。
3年前(2021年)、突如クーデターを起こし、国の実権を握ったミャンマー軍。民主化の象徴、アウン・サン・スー・チー氏を拘束し、市民への弾圧を続けています。
これに対し、今、10代の若者たちが、軍事政権を打倒しようと、民主派勢力の兵士に。
民主派勢力 女性隊員(17)
「戦場に行くとしても怖くはありません。国民のために命を犠牲にする覚悟があります」
民主派勢力と国軍の戦いはいま、大きな“転換点”を迎えています。
チン民族防衛隊 幹部
「ドローンで爆弾を投下すると、国軍の兵士は恐怖で基地を守る勇気を失って逃げていった」
攻勢を強める民主派勢力の拠点にカメラが入りました。
ミャンマー北西部のチン州。山奥に見えてきたのは、民主派勢力の1つ「チン民族防衛隊」の司令部です。
クーデターのあと、国軍に反発する市民らが結成しました。建物に入ると…
取材班
「ずらっと並んだ写真、戦闘で犠牲になった兵士たちの写真だということです」
飾られていたのは50人の遺影。中には、20歳に満たない少年の写真も。それでも、戦場に立とうとする若者が増えています。
司令部で行われる3か月間の軍事訓練。女性の姿もありました。
ひと月前に入隊したクリスティーナさん、17歳。自宅のある村は国軍の空爆を受け、一家はふるさとを追われました。
――入隊について両親は?
ひと月前に入隊 クリスティーナさん(17)
「私は一人娘なので、両親は入隊に反対でした」
――なぜ入隊した?
ひと月前に入隊 クリスティーナさん(17)
「みんな幸せになろう、国を発展させようとしていた時に国軍はクーデターを起こしました。彼らは全てを壊し、みんなの自由を奪ったのです」
日常を奪った国軍への怒り…
クーデターから3年――。
国軍はいま、民主派勢力と各地で蜂起した少数民族との共闘に押され、かつてないほどの劣勢に立たされています。
これまでに5000以上あった軍事拠点のうち、半数近くを失ったとみられます。国軍からは兵士の投降や脱走が相次ぐ異例の事態に。
2024年3月に脱走 元将校(34)
「前線で戦っていましたが、支援はありませんでした。食べ物も水もなく、戦い続けることに耐えられなくなって逃げました」
追い込まれた国軍は今年、兵力の不足を補うため、18歳以上の男性の徴兵を開始。
これに反発する若者らが次々と国外に脱出し、隣国タイでは拘束されるミャンマー人が後を絶ちません。
2024年3月 タイに密入国した学生(20代)
「国軍の徴兵制は、同じ国民と戦って殺すためのものです。そんなことはしたくないし、軍隊にも入りたくありません」
日曜日、民主派勢力の司令部では、こんな光景が…
仏教徒が多数派のミャンマーにあって、チン州は大半がキリスト教徒です。迷彩服を着て歌う賛美歌。
――何を祈った?
ひと月前に入隊 クリスティーナさん(17)
「訓練が終わるまでにたくましくなれるように。そして健康でいられるようにと祈りました」
今回、国軍との戦闘に志願した若者は約90人。平均年齢は21歳です。学ぶ機会を奪われた若者も多くいます。
あのクリスティーナさんにも夢がありました。
ひと月前に入隊 クリスティーナさん(17)
「私は高校を卒業して、教師になると信じていました。でも、入学の時に政治の状況が変わってしまいました」
学校の先生になって、子どもたちの成長を見守りたい。その夢はクーデターで断たれました。銃を手にするのは、生まれて初めてです。
ひと月前に入隊 クリスティーナさん(17)
「戦場に行くとしても怖くはありません。ただ死ぬより、国民のために命を落とす方がいい。 犠牲になる価値はあります」
訓練中の部隊
「食事に感謝します」
「いただきます」
昼食の時間、教官が突然、お互いに食べさせ合うよう指示しました。これも訓練の一環。戦場では、部隊が結束し集団行動できるかが、生死を分けるからです。
戦場に立つ日が2か月後に迫っていました。
各地で激化する戦闘。私たちは民主派勢力に同行し、陥落した国軍の拠点跡に入りました。
小高い丘の上。周囲は粗末な木の柵で囲われていました。
チン民族防衛隊 幹部
「ここに落とし穴がある」
草陰に、先端をとがらせた木が。それは、拠点の周りにも…意外にも貧弱な国軍の陣地です。
チン民族防衛隊 幹部
「国軍はここで多くの地雷を使った」
――地雷は今?
チン民族防衛隊 幹部
「すでに撤去した」
ここは長年、攻略が難しいとされた“要塞”でした。現場には今も飯ごうや点滴の容器が残されていました。
民主派勢力は意外な武器を使いました。ドローンです。手製の爆弾を上空から投下したのです。使われた爆弾は、およそ250発。この戦闘で国軍の兵士7人が死亡しました。
爆撃を受けて逃げ込んだかもしれない防空壕も。
取材班
「けっこう広いね、4~5人は入れそう」
「本当に使っている雰囲気がありますね」
チン民族防衛隊 幹部
「ドローンで爆弾を投下すると、国軍の兵士は恐怖で基地を守る勇気を失って逃げていった。もしドローンがなかったら強力な陣営と戦うのは難しいかもしれない」
ただ、追い詰められた国軍との戦闘は、さらに激しくなると予想されます。
***
週末の夜、思いがけない場面に出会いました。週に一度の、夜の自由時間。そこには、本来の若者らしい笑顔が。
ひと月前に入隊 クリスティーナさん(17)
「楽しいし自由です。ストレスや疲れが吹き飛びます」
民主派の幹部は10代の若者を戦場に送ることをどう考えているのでしょうか。
――若者を戦わせることについて
チン民族防衛隊 幹部
「革命のリーダーである大人たちにとって、これは答えのない問題です。現状では、国軍を倒す革命は成し遂げなければならない」
出口の見えない泥沼のミャンマー内戦。国際社会の関心が薄れる中で、犠牲者の数はいまも増え続けています。
(7月17日『news every.』16時特集より)