×

シリアのアサド政権が崩壊 約14年にわたる内戦が急展開した経緯・裏側は…【#みんなのギモン】

2024年12月9日 21:06
シリアのアサド政権が崩壊 約14年にわたる内戦が急展開した経緯・裏側は…【#みんなのギモン】
シリアの反政府勢力が首都ダマスカスを制圧し、アサド政権が崩壊しました。ロシアメディアはアサド大統領がモスクワに到着し ロシアへの亡命が認められたと伝えています。背景には一体、何があったのでしょうか。

そこで今回の#みんなのギモンでは、「シリア独裁政権、なぜ崩壊?」をテーマに、国際部デスクで元カイロ支局長の富田徹・日本テレビ解説委員が解説します。

■シリア・独裁政権崩壊 アサド大統領はロシアに“亡命”

富田徹・日本テレビ解説委員
「北朝鮮などと並んで世界屈指の独裁体制を築いたシリアのアサド政権が、反政府勢力により突然倒されました。約14年にわたる内戦が急展開した裏側には何があったのでしょうか」

「ロシアのタス通信は、シリアのアサド大統領と家族がモスクワに到着し、亡命が認められたと報じました。シリアの反政府勢力は8日に国営放送で『アサド政権を打倒した』と宣言しています。また、ロイター通信によると、反政府勢力の司令官は首都・ダマスカスで群衆に迎えられ『この勝利は地域にとっての転換点だ』と強調しました。そして長く続いた独裁体制の崩壊に各地で市民らが喜びの声を上げました」

鈴江奈々キャスター
「それだけ長年、市民の皆さんが苦しい思いをしてきたということですが、それにしても急展開で、背景には何があったのか気になります」

■急展開の政権崩壊 これまでの経緯は?

富田解説委員
「これまでシリアで何があったのかを振り返ります。シリアは中東の中央に位置していて、面積は日本の半分ほどです。北にトルコ、東にイラク、南にイスラエルと多くの国と接しています。アサド大統領の父親の代から親子2代で約50年、強力な独裁国家を維持してきました」

「内戦のきっかけは2010年末に中東各地で始まった民主化運動『アラブの春』です。シリアに波及したのは2 0 1 1年3月で、各地で反政府デモが発生しました。これに対してアサド政権は軍などを動員してデモを徹底的に弾圧。内戦状態に入りました」

斎藤佑樹キャスター
「2011年からということですが、こんなに内戦が長期化したのはなぜなのでしょうか?」

富田解説委員
「元々はアサド政権と独裁体制を倒したい民衆の戦い、という構図だったのが、その後、『イスラム国』などの過激派組織が参戦。さらにアメリカ、ロシアなど大国がそれぞれの思惑で介入して、情勢が複雑化。長期化する一つの要因になりました」

「国連などによると、40万人以上が死亡。また人口の4分の1に相当する5 0 0万人以上が周辺諸国に逃れて難民となりました。『今世紀最悪の人道危機』ともいわれる状況が続いているんです」

森圭介キャスター
「元々は民主化運動がきっかけでしたが、他の国の外部要因や宗教的な対立、地政学的なことから、結果的に民衆が苦しい状況になっているというのは、本当に心苦しいです」

■政権崩壊前の主な勢力図 アサド政権をロシアとイランが支援

富田解説委員
「色んなことが絡み合って複雑化しているのですが、では、どこまで複雑化していたのでしょうか。政権崩壊前の主な勢力図を見てみます。崩壊前に首都を中心に広い範囲を支配していたのがアサド政権です。そして東部にクルド人の武装勢力があり、内戦の混乱に乗じて支配地域を広げました。北部にはイスラム武装組織のHTSなど反政府勢力がいました。今回のアサド政権打倒を主導したのはこのHTSです」

「そして、それぞれに後ろ盾がいますが、アサド政権はロシアとイランが支援していました。ロシアにとって地中海に面するシリアは、中東やアフリカに勢力を伸ばす重要な足がかりなので、アサド政権を応援してきた経緯があります。次に東部のクルド人武装勢力はアメリカの支援を受けています」

瀧口麻衣キャスター
「何のためにアメリカはクルド人武装勢力を支援していたのでしょうか?」

富田解説委員
「アメリカはアサド政権とは対立しているので、これに対抗する勢力として育てていました。この勢力はアメリカが根絶を目指していた『イスラム国』の掃討作戦で大きな役割を果たしたこともあります」

「そしてHTSやその他の武装勢力がまざっている反政府勢力は、主にトルコが支援していました。トルコはクルド人勢力と敵対しているので、これをけん制する思惑があったんです」

「反政府勢力は、これまでアサド政権軍に対して劣勢だったんですが、11月末から突然、進撃を始めて、ついにアサド政権を崩壊に追い込みました」

森キャスター
「シリアで10年以上内戦が続いた後、なぜ一気に状況が進んだのでしょうか?」

■なぜいま政権崩壊? 識者「アサド政権を支える力が弱まったから」

富田解説委員
「中東情勢に詳しい、慶応大学の田中浩一郎教授は『アサド政権を支える力が弱まったから』だと話しています。まずロシアはウクライナとの戦いにかかりきりで、このところシリアへの支援が弱まっていました。そしてイランはシリアの隣、レバノンに拠点を置く組織『ヒズボラ』を使って軍事支援していました。ところがヒズボラは最近、イスラエルとの戦いで壊滅的なダメージを負ったので、反政府勢力が今がチャンスとばかりに攻勢を強めて、一気に倒したということなんです」

斎藤キャスター
「これでシリアに民主的な政府ができる可能性があるのでしょうか」

■世界への影響…ロシア、アメリカの関与は?

富田解説委員
「心配な点もあります。田中教授は『政権打倒を主導したHTSが元々アルカイダ系の組織だったこともあり、イスラム原理主義に基づく厳格な統治をする可能性もある』と話しています。さらに『反政府勢力の中でも仲間割れが起きて、泥沼化する怖れがある』とも指摘しています。反政府勢力の中は色んな勢力に分かれているので、アサド政権を倒すところまでは目的が一緒だったけど、今後は主導権争いが始まる可能性もあるんです」

「一方、日本など世界への影響ですが、シリア国内の戦闘が再燃して地域情勢がさらに不安定化すると、石油価格も高騰する可能性があります」

鈴江キャスター
「いまアサド大統領はロシアに亡命していますが、ロシアやアメリカは今後、どう関与してくる可能性があるのでしょうか?」

富田解説委員
「まずロシアはアサド政権と一緒になって反体制派と戦っていたので、なかなか手を出しにくい。アメリカも、いま首都に入っているのがアルカイダ系組織ということで、あまり付き合いたくない。ということで、なかなか大国が介入しにくい状況になっています」

鈴江キャスター
「先が見通せない状況が続きますね」

富田解説委員
「シリア内戦が始まった当初、わたしも取材していて、おびただしい数の人々が亡くなったり難民生活を送る様子を見てきました。一日も早く平和な日常が回復してほしいと思います」

(2024年12月9日午後4時半ごろ放送 news every.「#みんなのギモン」より)

【みんなのギモン】

身の回りの「怒り」や「ギモン」「不正」や「不祥事」。寄せられた情報などをもとに、日本テレビ報道局が「みんなのギモン」に応えるべく調査・取材してお伝えします。(日テレ調査報道プロジェクト

最終更新日:2024年12月9日 21:06