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“アナ雪の村”に観光客が殺到…住民の暮らしをむしばむ「オーバーツーリズム」の実態 悩む村の秘策は?

2023年10月6日 11:50
“アナ雪の村”に観光客が殺到…住民の暮らしをむしばむ「オーバーツーリズム」の実態 悩む村の秘策は?

観光地を悩ませる「オーバーツーリズム」。急増する観光客が住民の生活に悪影響を及ぼすとして、政府は先月、省庁横断の会議を立ち上げました。世界でも対策に乗り出す所が増えています。映画「アナと雪の女王」のモデル といわれる人気の村に観光客が殺到、対策に頭を悩ませています。

■“アナ雪の村”に観光客が殺到 中国には“完コピ村”も…

ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産に登録されているオーストリア中部の村、ハルシュタット。山と湖に囲まれた景観は、大ヒット映画「アナと雪の女王」に登場する「アレンデール王国」のモデルとも言われています。「地上の楽園」とも呼ばれ、世界中の観光客の人気を集めています。

2006年には韓国の人気ドラマ「春のワルツ」のロケ地となり、中国にハルシュタットそっくりに造った観光施設が登場すると、人口740人の村に一日1万人以上の観光客が押し寄せる事態に。新型コロナウイルスの感染が始まる前は、年間およそ100万人がこの村に訪れたといいます。

■“自撮り”防止の秘策も登場…

美しい景色をバックに“自撮り”しようと滞留する観光客に地元住民からの苦情が相次ぎ、「最も映える」スポットにことし5月、村が“自撮り”防止のための柵を設置しました。

SNS上で激しい反発を受け、まもなく柵は撤去されましたが、村は代わりに“自撮り”スポットから見える位置に横断幕を設置しました。

「私たちはここに住んでいます。大声や音楽なしに美しい景色を楽しんでください」

■“地上の楽園”も今は昔…「最後の住人」に

オーバーツーリズムに反対する市民団体のメンバー、イダムさんは「ハルシュタットはオーバーツーリズムの問題が起こる前は地上の楽園でしたが、今は違います」とため息をもらします。

広場や市場などの公共スペースが観光客に占拠されていて、村の生活に大きな支障をきたしているのだといいます。イダムさんは「ハルシュタットの面積は非常に限られているのに、観光客が多すぎるのです。ベネチアは住民一人あたりの観光客が35人ですが、ハルシュタットでは1800人なのです」とその異常さを指摘します。

また、ほとんどの家が民泊になってしまったために家賃が高騰し、それによって若者が住めなくなり、ハルシュタットはオーストリアで最も人口減少が進んでいるといいます。

イダムさんは「私たちは家の中に引きこもっています。 隣近所にはもう誰もいません。家の周りはすでに空き家になっていて、 私たち夫婦がこの地域の最後の住人なのです」とさびしそうにつぶやきました。

■頻発する渋滞…駐車場には長い列

交通の混雑も問題の1つです。村には観光バスだけでなく乗用車で訪れる人も多く、渋滞が頻発。2013年にハルシュタットを訪れた乗用車は年間7万7000台でしたが、今年は25万台が見込まれているといいます。

ハルシュタット村ではバスターミナルや駐車場を新設し、観光バスは事前に到着時間を決めて登録するシステムですが、自家用車で来る観光客も多く、渋滞の解消にはつながっていないのが現状です。

■住民たちの訴え…トンネル封鎖やデモも

そこで地元の住民は8月27日、町の中心部に続くトンネルを15分間封鎖するデモを行い、一日の観光客数や自動車の台数などを制限し、午後5時以降は観光バスの運行を停止するよう求めました。9月28日にはオーバーツーリズムに関する会議がハルシュタットで行われ、これにあわせて住民らは再び抗議デモを実施しました。

■問題は日帰り客…“入場料”の効果は?

ハルシュタット村のショイツ村長は、ハルシュタットだけでできることは限られているため、今後は州や国と連携して道路の封鎖などの対策を積極的に講じていくとしています。

もう1つの問題は「日帰りの観光客が多い」こと。日帰りの観光客は宿泊費や飲食費などをかけず、村に“お金を落とさない”ため、ショイツ村長はこうした日帰りの観光客を減らすことが目標だとしています。

ヨーロッパでは多くの都市がオーバーツーリズムに悩まされています。「水の都」として名高いベネチアでは9月5日、増え続ける観光客への対策として日帰り客から5ユーロの入場料を徴収することを明らかにしました。ヨーロッパの一部の国では入国時や宿泊時に「観光税」を取るところもあります。

しかし、ハルシュタットのショイツ村長はこれには反対だと話します。「もし入場料をとれば、ハルシュタットは博物館になってしまうでしょう。 観光客は入場料さえ払えば何をしても、どこに入っても許されると思ってしまう。ハルシュタットを『野外博物館』には絶対したくありません」

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日本政府は9月、省庁横断の対策会議を設置し、初会合を開きました。政府はこの秋にも対策をとりまとめる方針で、インバウンドによる経済の底上げか、住民の暮らしか、難しい選択を迫られています。