コロナ患者抱きしめる医師…写真に反響 米
新型コロナの患者を抱きしめる医師を写した1枚の写真が世界中に拡散し、大きな反響を呼んでいる。
撮影したのは5月から病院に通い撮影を続ける、日本出身のカメラマン。撮影の舞台裏と、「戦場」と描写するほど過酷極まる集中治療室(=ICU)の実情を明かしてくれた。
テキサス州ヒューストンにあるユナイテッド・メモリアル医療センターで11月26日に撮影された1枚の写真。新型ウイルスに感染した高齢男性を優しく抱きしめる医師の姿が写されている。この日は感謝祭当日で、男性は泣きながら「寂しい。妻に会いたい」と言って病室を出ようとしたという。
それを見たジョセフ・バロン医師は、男性を優しく抱きしめ慰め続けた。男性は医師の腕に顔をうずめて泣いた後、落ち着きを取り戻したという。
この瞬間を捉えた写真が世界中に拡散し、今、大きな話題となっている。撮影したのは10年以上の撮影歴を持つ日本出身のカメラマン、ゴウ・ナカムラさん(43歳)。その舞台裏を語ってくれた。
ゴウ・ナカムラさん「バロン先生は毎日、すべての患者の部屋を巡回して『あなたはよくやっている』『もうすぐ家に帰れるよ』という、すごく元気が出ることを言うんです。患者さんと握手したり、肩にポンと手を置いたり。でも患者さんを抱きしめるところを僕は一度も見たことがなくて、そういう状況になった時に、もう頭が真っ白になったというか、絶対に撮り逃したらいけない瞬間だな、と。ものすごく感情的なシーンだったので、頭が真っ白になって一生懸命シャッターを切っていました。医師の目も『今は抱きしめること以外どうすることもできない』という、そういう目をしていたのが印象的でした」
この写真は、大手画像販売代理店ゲッティイメージズを通じて配信されると、またたく間に世界中に拡散し、大きな反響を呼んだ。
ゴウ・ナカムラさん「集中治療室は、患者以外はみんな全身防護服で、普通の人と接することはない孤独な世界。あの男性は本当に孤独を感じ寂しかったように見えました。そういう瞬間を切りとれて現実を伝えられると思いましたが、正直ここまでみなさんの共感を得られて世界中に広まるとは思いませんでした」
5月からファインダーを通して見続けてきた集中治療室。ナカムラさんは最初に足を踏み入れた瞬間から圧倒されたという。
ゴウ・ナカムラさん「初めて入った時は、医師らがすごく楽しそうに率先してジョークを言って、皆がそれにのってすごくいい雰囲気の職場という第一印象だったんですが、一連のやりとりが終わった時に、医師がふと僕の方を振り向いて、『僕たちはこういうふうに明るく振る舞っていないと精神がおかしくなってしまうんだよ』と言われたんです。それに鳥肌がたったんですが、そのすぐ後にICUに入って中の状況をみると、本当に目を覆いたくなるような、写真を撮っても絶対に公表できないようなシーンが目の前にありました」
ナカムラさんは遺体を遺体袋に収容する場面にも、何度も立ち会っているという。
ゴウ・ナカムラさん「そういう場面を何度も見たことがあります。1人の患者さんに必ず同じ看護師がつきますが、その看護師が患者が亡くなると遺体収容袋に入れるまでお世話をする。全身をきれいにしてあげて遺体収容袋に納めた後に、看護師はすごくやるせない表情になる。こうしたことが日常的に起きています。前にいた患者さんが、次いった時には亡くなっていることは、本当によくあることなので」
この病院の集中治療室を5月から見続けているナカムラさんは、「今が最もひどい状況」と語る。
ゴウ・ナカムラさん「新型コロナ患者専用の病棟にベッドが20ほどある病院なんですが、昨日(12月2日)の時点で、もうベッドが足りなくなって、ちょうど新しい病棟を開いたところでした。ベッドを10個増やしたと。もともとあった20のベッドは重症の患者、ほとんどが意識のない方や人工呼吸器につながれている方たちばかりになっていました。それでもバロン先生は『これはまだピークじゃない』と。アメリカではホリデーシーズンが始まり、人の移動や接触が多くなって、この先2週間3週間後に、また爆発的に増えるだろうと、バロン先生は予想しています」「バロン先生はきょう12月3日で260日間連続、1日も休まず働いています。他の医師や看護師も同じで、防護服のまま椅子に座り、なかば気絶するような感じで眠っている姿を何度も見ています。まさにここは『戦場』だなと…」
撮影を続けるナカムラさんが写真を通して伝えたいことを聞いてみた。
ゴウ・ナカムラさん「僕が撮っているのは、まさに医療現場の本当の姿。『新型コロナなんてウソだ』と信じている人も、まだアメリカにはいます。でも実際に自分が感染した場合、愛する家族が感染した場合、その後に病院で何が待っているか、孤独であったり厳しい治療であったり…。僕が撮影する写真を通して、少しでも集中治療室の状況を知ってもらい、そうならないように何ができるのかを、ぜひ考えていただけたらなと思っています」