ウクライナ“ロシア軍撤退の町”を取材 撤退前にインフラ破壊 「電気がありません」無料提供に市民の行列が
ロシアによるウクライナ侵攻から9か月。ロシア軍撤退で占領下から解放された南部のヘルソン市では、ロシア軍にインフラを破壊され、市民はインターネットや電気などが無料で使える場に集まっていました。待ち望んだ撤退でしたが、ロシアによる攻撃が深刻になっていると話す市民も…。不安な人々の暮らしをジャーナリストの佐藤和孝さんが取材しました。
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佐藤和孝さんは11月21日、ウクライナ南部・ヘルソン市に向かいました。今年3月、ロシア側の占領下に置かれ、今月中旬にウクライナ側が奪還した町です。道中には、激しい戦闘の痕跡が残されていました。
ジャーナリスト・佐藤和孝さん
「この跡はミサイルが着弾した跡ですね。かなり大きなタイプのやつだと思いますよ。かなり深いですし」
市内の病院を訪ねると、真っ暗な手術室を見せてくれました。
病院スタッフ
「電気がありません」
ロシア軍が撤退を前に、電気や通信など、町のインフラを破壊していったのです。今は一部のフロアの電気のみ発電機でまかない、病院食などの調理は外で“まき”を使って行っていました。さらに病院スタッフは、ロシア軍が撤退する際に「救急車を2台盗んでいった」と話しました。
町に出てみると、占領が解かれた市場には人々の笑顔がありました。しかし、取材中にも辺りに砲撃音が響きます。
路上で店を開いていた女性は、侵攻前は幼稚園の教諭だったといいます。女性は「自家製のベーコンです。生活のために、ここで(露天商を)始めたんです。先ほどからまた砲撃が始まったので、怖いからそろそろ家に帰ります」と話していました。
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ヘルソン市中心部の広場では、町を奪還したウクライナ側がインターネットや電気などを無料で使える場を市民に提供していました。
ジャーナリスト・佐藤和孝さん
「みんな、携帯いじってますね。これは今、立ったアンテナです」
取材を続けていると、人々が「話を聞いてくれ」と話しかけてきます。口々に訴えたのは、“ロシア占領下のつらさ”でした。
ヘルソン市民の男性
「私は薬局で働いていました。ロシア軍が銃を持って薬局へ入ってきて、とても怖かったです。今はほっとしました。外に出られずに(解放を)ずっと待っていたんです」
別の男性は、食料などがロシア製に変わったと話します。
ヘルソン市民
「ロシア側の食料はひどいものです」
佐藤和孝さん
「どんなものですか?」
ヘルソン市民
「とてもとてもまずかった」
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そして、佐藤さんが出会ったのは70歳のリュボーウィさんです。39歳の息子がロシア軍に拘束されたといいます。
リュボーウィさん(70)
「息子は(拘束場所から)出てきましたが、頭が血まみれで服が破れていました」
息子はおびえた様子だったといい、精神的に追い詰められ、行方が分からなくなってしまったといいます。
ロシア軍に家を破壊されたリュボーウィさんは、その後に知り合った女性の家に住まわせてもらっています。待ち望んだロシア軍の撤退。しかし、リュボーウィさんと一緒に住む女性は、幼い娘を膝に抱えながら、ロシアによる攻撃が深刻になっていると話します。
女性(40)
「(ロシア軍が)ミサイルを撃って、すべてを破壊しています…住宅街をです。娘のことをとても心配しています。どう守ればいいのか…」
リュボーウィさん(70)
「なぜロシアは、私たちに対してこのようなことをしているんですか? (ロシア軍を)追い払ってください、この子が無事に育つように」
侵攻から9か月。人々が安心して暮らせる日は、いつ来るのでしょうか。