【解説】壊滅的な高潮か…“最強ハリケーン”「ミルトン」の脅威とは?
メキシコ湾に発生したハリケーン「ミルトン」。いったん「カテゴリー4」に勢力を落としたが、再び5段階のうち一番強い「カテゴリー5」に発達した。進路にあたるフロリダ州タンパは高潮が予想されていて、市長は避難を呼びかけている。甚大な被害をもたらすとされている高潮のメカニズムとは?(NNNニューヨーク支局長・気象予報士 末岡寛雄)
■“最強ハリケーン”襲来で「とどまると死ぬことになる」・・・営業を取りやめたテーマパークも
国立ハリケーンセンターによると、8日午後ハリケーン「ミルトン」の中心気圧は918ヘクトパスカル、最大風速はおよそ74メートル。1日前と比べ気圧と風はほんの少し弱まったが、依然“最強”レベルであることには変わりない。アメリカ南部フロリダ州のタンパ付近に勢力を維持したまま水曜の夜遅くから木曜の未明に上陸する見通しで、国立ハリケーンセンターは最大15フィート、およそ4.5メートルの高潮を警告している。
アメリカメディアによるとタンパ市長は、「避難指示が出されている地域にとどまることを選んだら、あなたは死ぬことになる」と強い口調で住民に警告した。バイデン大統領は「フロリダをおそった過去100年で最悪の暴風雨になる可能性がある」「生死に関わる問題だ」と今すぐ避難するよう呼びかけた。すでに住民の避難が始まっていて、タンパ付近の高速道路は避難する車で渋滞が発生。タンパ空港はすでに閉鎖され旅客便は欠航となっている。内陸部のオーランドにあるディズニー・ワールドやユニバーサルのテーマパークは上陸を前に営業を水曜の午後で取りやめると発表した。
■フロリダ半島西岸で“壊滅的な高潮”の予測・・・メカニズムは?
気象当局はフロリダ半島西岸で、壊滅的な高潮を予測している。ハリケーンによる高潮はどのようなメカニズムで起きるのか?
北半球ではハリケーンや台風はかならず反時計回りで渦巻く。(南半球は逆に時計回り)このため、ハリケーンの上陸前には西岸の沿岸には海から風が打ち付けられることになるのだ。
■ハリケーンによる「吸い上げ効果」と「吹き寄せ効果」とは?
さらにハリケーンの中心は、気圧が周辺より低いため海水が吸い上げられる。1ヘクトパスカル下がる毎に、潮位は1センチ上昇するとされていて、1気圧=1013ヘクトパスカルの所に、980ヘクトパスカルのハリケーンが来ると海水はおよそ30センチ上昇する。これを「吸い上げ効果」という。
ここにハリケーンに伴う強い風が海岸から吹き寄せられると、海岸付近の海面がさらに上昇する。これを「吹き寄せ効果」という。タンパは湾になっていて、風が吹いてくる方向に湾の入り口が開いている。このため湾の奥に海水が吹き寄せられ、水位の上昇がさらに増すと考えられ、気象当局は最大4.5メートルの高潮になると警告をしている。
さらに先月通過したハリケーン「ヘリーン」の被害が大きかった地域では“がれき”が山積みになっているという。ここに再びハリケーンが通過すると“がれき”が吹き飛ばされ凶器となる危険も懸念される。
■バイデン大統領は外遊を延期・・・災害対応が“政争の具”になる懸念も
ホワイトハウスは8日、予定されていたバイデン大統領のドイツとアンゴラへの外遊を延期すると発表した。240人以上が死亡したハリケーン「ヘリーン」への対応に負われる中、続いて上陸する「ミルトン」に備えるためだという。1か月を切った大統領選挙を前に、トランプ前大統領は「ヘリーン」の対応をめぐってバイデン政権を批判していて、災害対応が“政争の具”になる懸念も生じている。
■筆者プロフィル
末岡寛雄:
NNNニューヨーク支局長。「news every.」「news zero」のデスクやサイバー取材などを担当し、災害報道にも携わる。気象予報士。趣味は音楽鑑賞。