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熱量に欠けた トランプ氏2度目の弾劾裁判

2021年2月14日 14:08
熱量に欠けた トランプ氏2度目の弾劾裁判

2月13日、アメリカ連邦議会議事堂の占拠事件をめぐるトランプ前大統領の2度目の弾劾裁判は、無罪評決で幕を下ろした。今回の裁判で目を引いたのは、何よりもその「スピード」。2020年、トランプ氏が現職の大統領だった際の最初の弾劾裁判は判決までに21日を要したが、今回はわずか5日で結審したのだ。

アメリカメディアは、連日裁判の模様を生中継で伝えていたが、報道の熱量と、ワシントン市内の風景には温度差も感じた。

注目の裁判初日、議事堂へ向かってみたが、占拠事件の日に、周辺を埋め尽くしていたトランプ支持者などの姿はほとんどなく、ジョギング中の市民が残されたフェンスの前でスマホで写真を撮っている程度だった。


■なぜ低調だったのか

この、何となく熱量に欠ける雰囲気には、3つの理由が考えられる。

1.「無罪」という結果が見えていたこと

裁判を行う上院は、100議席を与党・民主党と野党・共和党が50議席ずつ分け合っている。有罪評決に必要な「67」の賛成を確保するには、共和党から17人の賛成が必要で、当初から困難とみられていた。

2.民主党も裁判を急いでいた

今回の弾劾裁判はバイデン政権の発足直後のタイミングとなり、閣僚候補の承認や、政権が打ち出した1兆9千億ドルの新型コロナウイルス対応の追加経済対策など、議会を早急に通すべき案件が山積していた。

こうした中で、追及する民主党側も裁判を長引かせて政権に迷惑をかけたくないという配慮から、「スピード審理」を目指した。裁判最終日、一度は証人を議会に呼ぶ手続きに入ったものの、トランプ氏側との協議の結果、招致を見送ったのがその典型例で、これは裁判後、アメリカメディアからも疑問視された。

3.トランプ氏側の反応がほとんどなかった

そして裁判が熱量に欠けた一番の理由は”主役の不在”だろう。裁判での証言を拒否し、twitterをはじめ、ソーシャルメディアでの発信も封じられたトランプ氏。裁判中の本人の反応はほとんど伝えられず、「初日の弁護士の様子を見て、(弁論のひどさに)
 叫びそうになった」(CNN)という程度だった。


■「トランプ支配」から抜け出せない共和党

今回、共和党から弾劾に賛成した議員は7人に留まり、多くの議員は、大統領をすでに退任したことを理由に、無罪票を投じた。無罪に投票した議員の中には、共和党上院トップのマコネル院内総務のように、「事件を引き起こしたことに道徳的な責任があるのは疑いはない」とトランプ氏を非難する議員もいた。

しかしこの、「トランプ氏に責任はあるが、裁判は無罪」というスタンスは、トランプ氏の政治的影響力を無視できない共和党の苦しい現状を表している。

NBCニュースは、「無罪評決の最も直接的な効果は、トランプが2024年に再び大統領に立候補する扉を開いたままにしたことだ。しかし、立候補しなくても、次期大統領選でのキングメーカーとしての地位を確固たるものにした」と論評した。

一方で、「脱トランプ」の動きも出始めている。裁判中には、共和党の元議員ら120人が、新党や新たな派閥の結成を目指す動きが報じられた。トランプ氏から脱却できない共和党に嫌気が差した人たちによるもので、全国での党の有権者登録も減少しているという。

トランプ氏がソーシャルメディアでの発信を禁じられて以降、トランプ支持者の動向も見えづらくなっており、まずは来年の中間選挙が、トランプ氏の力を推し量る試金石となる。


■バイデン大統領もトランプ氏を批判、続く分断

就任式で「アメリカ国民の団結」を訴えたバイデン大統領だが、無罪評決後に発表された声明で目を引いたのは、トランプ氏への批判だった。「投票では有罪にならなかったが、訴追した内容に争いはない。マコネル共和党院内総務のように、有罪評決に反対する人でさえ、トランプ氏の『恥ずべき職務の怠慢』と『実質的・道義的な責任』については有罪だと信じている」(バイデン大統領の声明より)

声明を読んで、私は裁判初日、フェンス越しに議事堂を見つめていた女性のある言葉を思い出した。「どんな結果になったとしても、(バイデン支持派とトランプ支持派の)どちらかが納得せずに怒るのよ」

弾劾裁判を終えたアメリカには、相変わらず、国民の分断という課題が重くのしかかっている。

(ワシントン支局 渡邊翔)