インド型激増も死者は横ばい 英国で何が?
■イギリスで感染再拡大の衝撃
18歳以上の約8割が新型コロナウイルスワクチンの1回目の接種を終え、約6割が2回目の接種を完了したイギリスで、インド型の変異ウイルスが広がっている。
順調に規制を緩和してきたイギリスで異変が起きたのは、5月末のことだった。2000人程度だった一日の感染者(イギリスは一日100万回検査を行う日もある)が一気に増え始め、6月17日の発表では1万1007人と、およそ4か月ぶりに1万人を超えた。
これだけワクチンが普及しているのになぜ……。ワクチンの接種がようやく加速し始めた日本にとってもショックなニュースだが、その実情を詳しく見ると、今後、日本が検討すべき課題が見えてくる。
■感染力が強くワクチンの効果を弱めるインド型
インド型の最も大きな特徴が、その感染が広がるスピードだ。2020年末からイギリスで一気に広がり一日1800人以上が亡くなる深刻な被害をもたらしたイギリス型と比べ、64%も感染力が強いとされている(英保健当局)。
それに加えて厄介なのが「1回のワクチン接種では効果が低い」という点だ。イギリスは2020年12月のワクチン接種開始以降、1回目の接種をできる限り早く多くの人に済ませ、2回目を遅らせる戦略を取った。それは、イギリス型の変異ウイルスに対しファイザーやアストラゼネカのワクチンが1回の接種でもかなりの効果を発揮すると分かっていたからだ。
一方のインド型は、1回の接種では3割程度しか予防効果がないとされている(英保健当局)。感染力が強く、ワクチンの効果も弱めると聞くと絶望的な気持ちになりそうだが、必ずしもそうではない。2回の接種を完了すればインド型であっても90%以上の予防効果があることも分かっているからだ(英保健当局)。
このため、インド型が広がり始めたことに気づいたイギリス政府は、12週間に広げていた2回目の接種との間隔を、8週間に前倒しする対応を取った。
■“実態”として見えてきたワクチンの効果
ワクチンを打っても感染自体を防ぐことはできないとされる。今分かっているワクチンの効果は、「重症化を防ぐ効果」と体内でウイルスの増殖を食い止めることによる「人に感染させない効果」の2つだ。そのため、ワクチンがかなり普及したイギリスでも、規制の緩和とともに感染が再拡大することは予想されていたが、インド型の感染速度はイギリス政府の想定をはるかに超えていた。
ではイギリスは、昨年末から今年にかけて見た悲惨な状況に戻ってしまうのだろうか。実は状況は大きく異なっている。
まず、感染者が急増したにもかかわらず、重症者は低く抑えられている。一日あたりの死者も、日によってばらつきがあるが、1桁から20人以下で推移している。
さらに特徴的なのが、入院患者の年齢構成だ。誰もワクチンを接種していなかった2020年12月1日を例にとろう。
この日、イギリスの人口の大部分を占めるイングランドでは新型ウイルスによって1189人が入院した。このうち18歳から54歳までが216人だったのに対し、55歳以上はその4倍以上の940人にのぼった。
一方、50歳以上の大多数が2回のワクチン接種を完了していた今年6月6日はどうか。この日、新型コロナウイルスで入院したのは119人いたが、18歳から54歳が71人に対し、55歳以上が40人と若い世代を下回った。実際、インド型で入院している人の多くが、ワクチンを1回しか打てていないか、未接種の人だった。
(イングランドでは入院患者の年齢について18歳から54歳をひとつのカテゴリーとしてまとめている)
イギリス政府は、たとえ感染が広がっても、2回のワクチン接種を完了していれば重症化を防げると繰り返し強調した。
感染者が急速に増える中で、重症化する人は遅れて顕在化する可能性もあるので、今後の推移をより慎重に見守る必要はあるだろう。
■ワクチンが普及した後の社会
インド型が広がっているにもかかわらず、イギリスメディアは、政府が2回の接種を完了した人に隔離なしの海外旅行を許可することを検討していると報じた。
ヨーロッパは今、ワクチンの普及を前提に、どう元の生活に戻すかの道を探り始めている。
日本でも一日100万回に迫るペースで接種が進んでいる。
ウイルス対策としてワクチン普及が第一の課題だが、たとえワクチンが普及してもイギリスのように再び感染者が増えることもあり得るだろう。その際、再び規制を強化するのか、あるいは重症者がある程度抑えられていればその必要はないとするのか。社会としてどの程度まで感染の広がりを“許容”するか、判断を迫られることになる。