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ある町変えたUFO目撃 米報告書も残る謎

2021年6月27日 15:42
ある町変えたUFO目撃 米報告書も残る謎

「UFO=未確認飛行物体」は存在するのか?今も昔も、人々の想像力をかきたてるミステリーだ。アメリカの情報機関が25日、議会に提出した、UFOに関する報告書。世論が盛り上がる中、「UFOの町」として一世を風靡(ふうび)した町で、「UFOが人生を変えた」と語るひとりの男性も、静かにそれを待っていた。

(ワシントン支局・渡邊翔)


■年間3000件の「目撃情報」 34年前、UFOに沸いた町

6月中旬、私たちが訪ねたのは、首都ワシントンの隣、バージニア州西部の町ウィズビルだ。人口8000人ほどの小さな町。この町が今から34年前、「UFO(=未確認飛行物体)」の目撃に沸いたことを知る人はいまや少ない。

地元のラジオ局で長年働いていたダニエル・ゴードンさん(71)。1987年、町がUFOに沸くきっかけをつくった人物だ。

 「その日、警察官3人がUFOを見たという話を聞きました。それで、ラジオで放送したんです。すると、大手メディアがニュースにして、この話が有名になった」

当時は、「UFOを信じていなかった」というゴードンさん。しかしその後、町中から多くのUFOの目撃情報が寄せられ、自身もUFOらしきものを目撃したと話す。

連れて行ってくれたのは、町のショッピングモールにある駐車場だ。1987年12月の夜、家族とともにクリスマスの買い物に訪れていたゴードンさん一家と多くの人たちが、そこでUFOを見たという。

 「4つの物体が編隊を組んで飛んでいました。バスに乗った子どもたちが、窓から上を見て騒いでいました。妻と娘もびっくりしていましたが、私は写真を撮りました。写真を撮れるだけの時間、UFOはそこにいて、去って行った」

町の資料館には、当時ゴードンさんが撮影した写真が保存されている。確かに、暗い夜空に、4つのオレンジ色の光が集まり、ひとつの物体のようになって写っている。

その後も、取材を続けた5年間ほどの間に50回近く、UFOのようなものを目撃したというゴードンさん。それぞれの状況や、物体の様子を詳細に記録に残していた。

 「ジャーナリストとして、自分の経験を報道するのは良いことではないと思っていました。私自身も見ていたということは後から言いました。あの当時、1年で3000近い目撃情報があった。85%は説明がつくんです。星だとか、宇宙ステーションだとか。でも残り15%はどうにも説明がつかなかった」


■国防総省も「説明できない」 記者と住民の「人生を変えた」UFO目撃騒動

ゴードンさんは一部の目撃情報について、国防総省にも確認を試みたという。

 「物体はアメリカ軍のものではない。彼らも説明できないと言うのです。訓練や軍用機の飛行も同じ時間になかった」

こうして一躍「UFOの町」となったウィズビル。「住民から市長まで、あらゆる町の人々が目撃した」というUFOは、文字通りゴードンさんや町の人の「人生を変えた」という。良い意味でも悪い意味でも……。

 「幸いにも、人々は私の話すことを信じてくれました。『ダニーは狂っている』とはならなかった。でも、家に変な電話が来るようになりました。記者だと名乗る2人組が家に来て、その後写真のネガが盗まれていたこともあった。家族と過ごす時間も減り、気苦労が絶えませんでした」

一連の「騒動」以降、空を見上げてUFOを探すことはやめたというゴードンさん。それでも、政府が議会に提出する予定の「UFO報告書」を楽しみにしていた。

 「UFOは、私の人生において今でもミステリーです。死ぬ前に、このミステリーが解決してほしい」


■UFOは「安全保障上の脅威」

そもそも、情報機関や国防総省がUFOの調査を真剣に行うのには、それなりの理由がある。これまでに国防総省が公開した「未確認空中現象=UAP(アメリカ政府の呼称)」映像の多くは、軍のパイロットなどによって撮影されたものだ。こうした物体が、もし他国の新たな戦略兵器だったらどうするのか。正体が分からないというのは、安全保障上の脅威に直結する。だから調査するのだ。

一方で、アメリカ政界にもUFOに強い思いを抱く人は少なくなく、その「ロマン」が、政策を動かしてきたのも事実だ。

今回の報告書の源流は、2007年から5年にわたって秘密裏に政府内で行われた調査だが、これも当時の民主党・院内総務だったリード上院議員らが、内々に予算を配分したのがきっかけだ(本人談)。

オバマ元大統領も、大統領に就任した当時、UFOや宇宙人に関する政府の取り組みについて、スタッフに質問したと明かしている。


■報告書の結論は「情報不足で特定不能」

こうした経緯を経て今回提出された報告書だが、その内容は、ある意味「予想通り」のものとなった。

「公開版」は、表紙を入れてわずか9ページ。その結論は、「UAPに関する詳細な情報が限定的なことから、確固たる結論を出すことは難しい」というものだった。

報告書では、過去の目撃事例の「質」を担保するため、主にアメリカ軍によって2004年以降に目撃された144件を分析した。ただ、このうち「気球である」と断定できた1件を除き、残り143件は情報不足により「説明が不可能」だという。

その上で、考えられる可能性として、5つの分類を設定した。

(1)鳥などの「飛行物体」
(2)氷の結晶や水蒸気などがレーダーに記録された「自然現象」
(3)「アメリカ政府や企業が開発するプログラム(つまり、極秘技術が意図せず目撃された)」
(4)「外国の敵対システム(中国、ロシアなどが開発している技術の可能性など)」
(5)「その他(限定的なデータのため、確認不可能なものを含む)」

ただ、18件については、「異常な行動パターンが報告されている」という。推進装置を備えているように見えないのに、上空の風の中で静止する、風に逆らって移動する、突然動き出す、相当な速度で移動する、などの動きだ。報告書は、これらの物体は「高度な技術」、つまりアメリカにとって未知の技術を示しているように見える、としつつ、「専門家などによるさらに厳密な分析が必要だ」と指摘している。

報告書には「宇宙人」という文言は見当たらない。物体がいわゆる「宇宙人の乗り物」だとする証拠は示されず、かといってその可能性も否定していない。


■米政府は報告・観測態勢強化へ なお残るミステリー

報告書をうけて、国防総省のヒックス副長官は、調査の強化に向けた計画の策定を担当部局に指示した。

こうして具体的な動きが進むことを「重要な一歩だ」と評価する声もあれば、具体的な進展に乏しい内容に「これまでの調査以上のものはなかった」との声もある。公開された情報に消化不良感を抱く人々も、少なくないのだろう。

「死ぬまでにミステリーが解決してほしい」、そう話していたゴードンさんに報告書の感想をメールで尋ねると、短い返事が返ってきた。

 「予想していた通りではありましたね。政府にとっては、語ることが少ないというのが、常に良いことなのです」

果たしてUFOをめぐる謎が解明される日は来るのだろうか。


(写真:米国防総省提供)