中国では性被害者が声を上げることすら許されない…見えない“圧力”の実態とは

■テレビ業界の「皇帝」から性被害 女性の訴えに警察は…
中国南部に住む周さん。大学3年生だった2014年、テレビ局でのインターン中に性被害にあったといいます。周さんは当時の状況をこう話します。
「(相手の男性が)無理矢理キスをして大きな声は出せなかった」
「『北京にずっと居たいだろ。テレビ局に残りたくないのか?』と脅された」
相手は中国国営テレビの男性キャスターで、テレビ業界の「皇帝」と呼ばれるほど名の知れた人物でした。
被害後、周さんは警察に駆け込み、最初は警察も親身に話を聞いてくれたといいます。しかし翌日には警察の態度が豹変しました。「このことは外部に話すな。彼は中国の正義。もうこの話はするな」と迫り、捜査どころか、被害届を取り下げるよう周さんに圧力をかけたといいます。
しかし、被害から4年がたち、周さんは意を決してSNSで被害を告発し、相手を訴えることにしました。“性”の話がタブー視される中国では異例のこと。このため、政府はすぐに“抑圧”に動きました。周さんを応援しようと裁判所に駆けつけた人々は、警察により排除されてしまいました。周さんの訴えは1審・2審ともに棄却され、SNSも凍結されるなど、発言の自由も奪われました。
周さんは「政府が性被害者を黙らせる。被害を語りたくないのではなく、語れない」と沈痛な面持ちで話します。
“性被害は存在するはずがない問題”として一切を覆い隠し、目をそらそうとする中国政府。そんな状況下で声を上げる人は、周さんだけではありません。
■大学教授を実名で…波紋広げた“動画”は
去年、中国の名門大学に通う女子学生が教授からの性被害を訴え、波紋を広げました。女子学生はSNSで「教授を実名で通報する。私に対してセクハラと強制わいせつを行い、性的関係を要求した」と名指しで訴えました。
自分の実名と顔をさらしてまでも知ってほしかった性被害。しかし翌日には、訴えを掲載した動画が削除され、“なかったこと”にされてしまいました。
さらに、こうした弾圧も――。
■被害者に寄り添う救済団体にも“コントロール”が…
中国で性被害者や支援者からのSOSに、24時間・365日、電話で対応している救済団体。取材中にも団体には相談の電話がかかり、担当者は性被害にあったという女性に対し「証拠を取るのは難しいけれど、これはれっきとした性犯罪だ」と話し、背中を押します。
しかしここ数年、中国政府のコントロールがエスカレートし、救済団体は取材に対し団体名や活動場所すら明かせないといいます。過去には警察が相談などを受ける担当者の自宅を訪問し、女性の権利に関する活動をやめるよう促されたこともあったといいます。
担当者は「(政府から)弾圧され、我々のような団体が生き残る余地はない」と肩を落とします。
■性被害から10年 周さんが発信を続けるワケ
周さんは被害から10年たった今も、被害の後に駆け込んだ心療内科に通院しています。医師から処方される睡眠導入剤などの処方薬は、今が最も多い服用量になっているといいます。性被害は体だけでなく、心もむしばみます。
それでも周さんは、自分と同じ性被害者の支援を続けています。ある日、周さんが向かったのは、とあるカフェ。通常営業と並行して、地下ではこっそりと当局の目をかいくぐって、あるイベントが行われていました。そこには、周さんを囲むように性被害者や周さんの支援者が集まっていました。
ただ、女性の権利について大勢で話すことは、中国では“政権批判につながる恐れがある”とみなされ、検閲の対象となりかねません。そのため、このように隠れて集まらざるを得ないのです。
参加した女性の1人は「当局が恐れるのは人々が連帯すること自体ではなく、それが革命になることだと思う」と言います。
集会の終盤、周さんは参加者を前に思いを吐露しました。
「みんなとこうして出会って、一緒に女性の権利を求めることが、みんなにとって良いのか悪いのか…悩んだ」
自分が声を上げることで、誰かの人生を犠牲にしたのではないか――自問自答をつづけながら、“見えない相手”と闘い続ける周さん。それでも周さんは「中国の性被害者が置かれた環境は、異常。声をあげれば当局から直接的な弾圧がある」「それでも私が発信を続けるのは、 “性被害は個別の事象ではない。 誰もが遭遇する可能性がある”と分かってほしいだけ」と話し、中国の性被害者が少しでも声を上げる環境が必要だと訴えています。
周さんの振り絞った声が届く日は来るのでしょうか…。