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食料危機の切り札に?中国で広がる人工肉

2021年10月30日 18:23
食料危機の切り札に?中国で広がる人工肉

世界屈指の食肉消費国、中国。いま急速に普及しているのが植物由来の「人工肉」だ。背景には高まる健康志向に加え、米中対立や新型コロナも。世界の食料危機が迫る中、はたして14億人の食卓は変わるのか。(NNN中国総局 森本隼裕)

■ハンバーガーも「人工肉」 中国企業が次々と進出

毎年、北京で開催される「ハンバーガー祭り」。今年登場したのは「人工肉」で作ったトリュフバーガーだ。14億人の胃袋を抱え、世界屈指の食肉消費国となった中国では今、大豆やエンドウ豆など植物由来の原料でつくる人工肉が急速に普及している。人口増加や地球温暖化などの影響で世界的な食料危機が懸念されるなか、その“救世主”としても注目される人工肉だが、中国で大小さまざまな企業が研究開発を進めている。

■味・色・においも…すべて植物由来の「人工肉」

「人工肉」のハンバーガーを販売したのは、2019年創業の「ジェンミート(珍肉)」。北京の本社を訪ねると呂中茗CEOが取材に応じてくれた。同社は人工肉の研究開発で急成長したフードテック企業で、業界をリードする企業の一つ。私たちに見せてくれた新商品は、団子にギョーザにチキンナゲット…見慣れたものばかりだが、全て人工肉でつくったという。

ジェンミート 呂中茗CEO
「100%非遺伝子組み換え大豆を原料にした人工肉(植物肉)です。タンパク質は全て良質な植物性で、動物性の成分は一切入っていません。色、香り、味すべて植物由来の原料を組み合わせたものです」

呂CEOは「本物の肉に近い味や食感を再現するため、約10年にわたる研究の蓄積がある」と自信をみせる。中国で人工肉の開発が急ピッチで進む背景には、消費者の間で高まる健康志向に加え、米中対立や新型コロナなどの影響により、肉の供給が不足することへの危機感もある。さらに、習近平指導部が2060年までの「脱炭素化」を目標にする中、家畜を必要としない人工肉は温室効果ガスの排出量削減にもつながり、呂CEOも「国の脱炭素目標に大きく貢献できる」と強調していた。

■健康志向でランチ利用も 人工肉は定着するのか

人工肉を実際に使っているレストランが北京にある。私たちが訪ねると、厨房で調理していたのは「シャオスーロウ(小酥肉)」という豚肉を揚げた料理…と思いきや、それも人工肉でつくったものだという。調理中の男性に話を聞くと、人工肉を炒める際は「油の温度を正確に把握し、120~140度に調整する必要がある」という。また、ソースの割合なども変わってくるそうだが、「味はいいよ!」と笑顔で話した。記者が“肉団子”を試食してみると、肉汁の物足りなさなど食感に少し違いはあるが、パサパサするなどの違和感はなく、満足度は高いと感じた。

ランチの時間帯になると、レストランは人工肉の料理を注文する客で賑わっていた。“ギョーザ”を注文した女性は「ヘルシーで太りにくいから、ダイエットになります」。“シャオスーロウ(小酥肉)”を食べていた男性も「きちんと歯ごたえがあり、お肉の感じに非常に近い」と絶賛だ。店のオーナーによれば、客の多くは周辺で働く会社員で、いわゆる菜食主義者ではないそうだ。ほとんどの客が健康を意識し、人工肉を選ぶのだという。

中国で健康志向が広がるなか、ここ数年で技術も飛躍的に進歩し、人工肉の市場規模は1000億円以上ともいわれる。ただ現状では、人工肉への高い関心も“新しいもの好き”な中国人の「好奇心」が先行している部分は否めない。今後、14億人の食卓にどこまで定着するのかが、世界の食料危機を防ぐカギにもなりそうだ。