「成果」急ぐトランプ新政権 公約実現のため“就任初日”から大統領令連発へ
■4年ではなく「2年」で成果を
1月20日にアメリカ大統領に就任するトランプ氏。第1次政権時と異なり、異例のスピードで主要人事を固めた。前回の経験を生かして、大統領就任時から大統領選で訴えた公約を実行に移すため、体制作りを急いだといえる。
背景には、トランプ氏が置かれている状況がある。アメリカ大統領の任期は2期8年までで、すでに大統領を1期務めたトランプ氏に残された任期は4年だ。
さらに2026年の秋には連邦議会などの中間選挙が控えている。大統領選ではトランプ氏が選挙人の数では「圧勝」したかたちだが、実際の得票数をみると「全ての激戦州で競り勝った」というのが実態だ。総得票率は49.9%と半数に及ばず、民主党ハリス氏との差はわずかに1.5ポイントだった。
(AP通信)
トランプ氏:49.9%
ハリス氏:48.4%
この傾向が続くなら、トランプ氏は野党・民主党と拮抗した状態で、2年後に中間選挙を迎えることになる。民主党関係者は「インフレと不法移民を批判して大統領選に勝ったトランプ氏だが、中間選挙までにこれらの問題を解決できなければ、批判の矛先がトランプ氏に向かう」と指摘する。トランプ氏もそれが分かっているからこそ、この2年が勝負だと見定めている。
■「忠誠心」重視…ブレーキ役は不在
そのため、トランプ政権の人事からは“公約の早期実現”を重視していることがうかがえる。人選の基準は自らへの「忠誠心」で、「アメリカ第一主義」の下、トランプ氏の指示を忠実に実行する個人的に親しいメンバーをずらりと揃えた。
外交・安全保障分野では、国家安全保障担当の大統領補佐官にマイク・ウォルツ下院議員、国務長官にマルコ・ルビオ上院議員を起用する。両者ともにトランプ氏が住むフロリダ州選出の議員で、対中国強硬派だ。
国防長官に指名されたピート・ヘグセス氏は、保守系のFOXニュースで8年間司会者を務め、トランプ氏と親交を深めた。
「関税の引き上げ」や「減税」を看板政策として掲げた経済分野では、財務長官に投資ファンド経営者のスコット・ベッセント氏、商務長官には実業家のハワード・ラトニック氏を指名。ウォール街に顔が利く側近を起用する。
新設する「政府効率化省」のトップの1人には実業家のイーロン・マスク氏を据え、政府の歳出削減、規制緩和の推進を目指す。
不法移民対策では、国土安全保障長官にサウスダコタ州知事のクリスティ・ノーム氏。国境管理の責任者には、移民への強硬姿勢で知られるトム・ホーマン元移民・関税執行局長代行を起用するなど、トランプ氏に忠実な顔ぶれを配置した。
こうした“イエスマン”ばかりで固めた政権には、ブレーキ役が不在だと懸念の声も上がる。
■議会の人事承認に暗雲
そればかりではない。これまで明らかになった人選は本来、重視されるべき担当分野の知識や経験を度外視しているとして、批判の声も上がっている。
トランプ氏は自らの刑事訴追を受けバイデン政権下の司法省を批判し続け、司法長官を重要ポストと位置づけてきた。そして選挙に勝利するや、自身の熱烈な支持者のマット・ゲーツ氏を長官に指名した。
しかし、過去にゲーツ氏が未成年への性的人身売買で捜査対象になったことなどからその資質を問う声が上がり、上院での人事承認の見通しがたたず、本人が辞退。トランプ氏は地元・フロリダ州の司法長官を務めたパム・ボンディ氏の起用を余儀なくされた。
この他、国防長官に指名されたヘグセス氏にも性的暴行疑惑が浮上。国家情報長官に指名されたトゥルシー・ギャバード氏についても過去のロシア寄りの発言などが問題視され、上院での承認が危ぶまれている。
“肝いり人事”のつまずきは政権運営に悪影響をもたらすと考えるのが政界の常識だが、ある外交筋は「トランプ氏は人事で義理を返すことを重視している。上院で承認されなくても、本人はトランプ氏に指名されたことだけで恩義を感じるので、トランプ氏は気にしないだろう」と指摘する。
■大統領就任初日は「独裁者」に
公約を早期実現する布陣を敷いたトランプ氏は、大統領就任初日だけ「独裁者になる」と公言している。バイデン政権との違いを見せつけるために、初日から不法移民対策や関税の引き上げなど重要な政策課題で、多くの大統領令に署名する方針だ。
すでにトランプ氏は、中国への10%の追加関税や、メキシコとカナダに対して25%の関税を課す大統領令に署名すると表明している。最重要公約の1つである不法移民対策では、「大規模な強制送還」のために国家非常事態宣言を発令し、軍を動員することも示唆している。またアメリカで生まれた子どもにアメリカの市民権を与える「出生地主義」に基づく現在の制度を、やめる考えも示した。
2021年1月の連邦議会襲撃事件で訴追されている支持者に恩赦を与える考えも示している。また、気候変動対策の国際的枠組み「パリ協定」から再び離脱し、バイデン政権が推進した電気自動車の普及策をとりやめる方針だ。
外交では、ロシアのウクライナ侵攻による戦闘や、パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘を早期に終わらせるとしている。
トランプ流の人事の下、内政、外交の双方で抜本的な政策転換を矢継ぎ早に行い、任期の前半2年間で幅広い支持を固めることができるのか。トランプ氏の実行力が問われる第2次政権は、2025年1月20日から始動する。