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中国“ビッグデータ強国”活用と規制の理由

2021年11月14日 17:01

有名歌手のコンサートやデジタル人民元の導入など、中国では様々な所で“ビッグデータ”が収集されている。人命救助から犯罪捜査に至るまで、国内で加速度的に進むビッグデータ活用だが、一方でデータを持つ民間企業に対しては、規制の動きもみられる。「ビッグデータ強国」を目指す中国の思惑とは。

■ビッグデータで人命救助の効率アップ

中国・貴州省で、海外メディアらに対して公開されたのは「ビッグデータ」を使った消防の救援システム。市民の住所・家族構成といった個人情報やリアルタイムの交通状況などを分析し、市内の消防設備や水源の位置のデータなどと組み合わせることで、素早く火災など災害のあった場所を把握し救援できる体制をつくっているという。担当者は「現場からどのくらいの場所に、いくつの隊がいるのか把握できて、それによってどの隊を使うのが良いのかを判断することができる」と話し、システムの導入により、救援に向かうスピードを上げることができたと胸を張る。
一方で、消防署のシステムには市民の膨大な個人情報が保管されることになる。市民のプライバシーが、当局に監視されることへの懸念はないのか聞いてみたが「必要以上のデータについては収集していない」と主張した。

■有名歌手コンサートの顔認証で80人以上を検挙

また、中国の犯罪捜査では、すでに様々な手段で収集されたビッグデータがフル活用されている。ある人気歌手のコンサートで導入されたのは、顔認証システム。入場者の顔情報を解析し、警察は3年間逃亡を続けた容疑者を特定、逮捕にいたった。中国各地で行われたこの歌手のコンサートで集められたデータから、指名手配犯などあわせて約60人が検挙されたという。
他にもマネーロンダリングを行っていた犯罪グループを検挙した際には、当局は口座開設など「金融データ」を使用していた。金融データを分析する中で、不審な動きを察知し摘発したと発表した。中国では、捜査機関によるビッグデータやAI技術の積極活用をめぐり、プライバシーや人権の問題よりも治安向上のメリットの方が強く宣伝されている。

■デジタル人民元の推進 その裏には…

来年2月に開催される北京冬季オリンピックなどにむけ導入を目指しているのが、中国のデジタル人民元に対応したATM。パスポートと顔認証を使い、日本円などの外貨からデジタル人民元への両替ができる。この「デジタル人民元」こそが、中国当局がビッグデータを集めるための「究極の一手」なのだ。
デジタル人民元が導入されると何が変わるのか。アリペイやウィーチャットといった民間の電子決済がすでに当たり前になっている中国では、新たな電子マネーが現れても消費者の使い勝手は大きく変わらない。むしろ、政府側に大きなメリットが存在する。中国での電子決済の件数をみると、過去5年で銀行以外の決済が大幅に上昇していることが分かる。これはお金をやりとりする取引のビッグデータの多くが、当局ではなく民間企業の手に握られていることを意味する。しかし、政府主導で進めるデジタル人民元が導入されれば、この膨大なビッグデータを政府が把握できるようになる。これが「究極の一手」という理由だ。

■民間企業には規制も…そのワケとは?

こうして国内のビッグデータの掌握をすすめる中国だが、海外への流出には神経を尖らせている。ことし7月、中国の公安部や国家安全部など複数の部門が連合し、配車アプリ最王手の「ディディ」への調査に突然着手した。国の安全に関わるデータの取り扱いに問題があるなどとされたことがきっかけで、新たなユーザー登録などの停止措置がとられた。大がかりな調査となったが、ディディはこの直前にアメリカの証券取引所に上場していて、ディディの持つ「ビッグデータ」がアメリカ側の手にわたるのを恐れたのではとの見方も出ている。2015年の新華社通信の記事では、このディディのデータを元に中国の役所がそれぞれいつ、どの程度車を利用したかを分析していた。たとえば外務省のデータをみてみると、深夜3時から5時以外は絶えず車が出発していることが分かる。実はこの時期、ウィーンでイランの核問題に関する交渉が大詰めに入っていて、その対応をしていたのではとも分析されている。
また、国土資源省については、退勤時間を過ぎた午後6時以降も車利用が多く、9時ごろに再びピークがきていて「最も残業した省庁」として紹介されている。このように中国の官僚たちの動きまで透けて見えてしまうビッグデータが国外に流出する可能性に、当局が目をつけ締め付けを強めた可能性もある。

■新資源“ビッグデータ”世界は囲い込み

ビッグデータは「21世紀の石油」とも言われ、今後の産業にとって欠かせない資源になると予想されている。こうした中、中国は14億人の人口と、当局が個人情報を集めやすい環境、というアドバンテージを生かして”ビッグデータ強国”を目指している。世界各地でビッグデータを囲い込もうとする動きが出る中、日本はどうするのか、長い目でみた戦略が求められている。