在留外国人のワクチン接種の課題
新型コロナウイルスのワクチン接種をめぐり、日本で暮らす外国人の接種率の低さが指摘されてきました。背景には、言葉の壁や不法滞在者への対応の難しさなどが挙げられていますが、地元の外国人コミュニティーとの連携により、接種率向上を実現した自治体の取り組みを取材しました。(国際部・深堀智佳子)
■ワクチン接種から取り残される外国人
先進諸国の中でも比較的高いワクチン接種率を達成している日本。しかし、日本に暮らす外国人の接種率は、今年秋頃までかなり低い水準で推移してきました。国のワクチン接種記録システムでは、9月下旬までは外国人の接種率を正確に把握する方法がなかったため、外国人が多い自治体などは、接種券と実際の接種記録をつきあわせて、どれくらいの外国人が接種したかを独自に集計していました。そのうちの1つ、静岡・浜松市では、9月中旬時点で、2回の接種を完了した日本人は約52%だったのに対し、外国人の接種率は28%に止まっていました。しかし、その後、浜松市は外国人への接種に力を入れ、現在の接種率は7割を超えるまでに向上しています。
■外国人のワクチン接種率“低水準”背景は?
外国人の接種率が低い背景には、主に「言葉の壁」があります。接種券の日本語が読めなかったり、日本語がわからないため、ワクチンに関する情報が不足し、接種を控えるケースなどが報告されています。こうした中、外国人の人口が多い自治体では、外国人を雇用する事業主や支援団体などと協力し、外国語での相談窓口の設置や、接種会場への通訳派遣などを行うことで、日本語がわからない外国人でも安心して接種を受けられるよう工夫してきました。
■日本最大のロヒンギャ・コミュニティーでは…
群馬・館林市には国内最大のロヒンギャ・コミュニティーがあり、約270人のロヒンギャが生活しています。このコミュニティーではこれまでにほぼ全員が2回のワクチン接種を完了しています。それを可能にしたのは、コミュニティー代表者と自治体の連携です。金曜礼拝でモスクに来るロヒンギャの相談にのったり、母国語でワクチンに関する説明を行うなどして不安を取り除き、接種を推進してきました。
■ワクチン接種の死角「不法滞在」
外国人の接種をめぐっては、より深刻な課題もあります。正規の在留資格を持たない不法滞在者への対応だ。そもそも住民票を持たない不法滞在者には、自治体から接種券が送られてきません。また、多くの不法滞在者は自治体などに存在を知られることで通報されたり、強制送還されることを恐れ、ワクチンを打ちたくても申し出ることが難しい状況にあります。しかし、こうした人々の多くは、相部屋などで密集した環境で暮らしているため、クラスターが起きやすく、接種できないのは大きな問題です。
■国が“通報しなくても良い”
こうした状態を解消すべく、厚生労働省は今年6月、感染防止対策として、「外国人のワクチン接種を進める際、不法滞在などの事実が判明しても、入管当局に“通報しないことも可能”とする」との通達を出しました。つまり、不法滞在者の存在に気付いても、通報せずにワクチン接種を優先して良い、ということです。こうした国の対応を受けて、不法滞在者の接種に踏み切った自治体があります。
■不法滞在者に手をさしのべた大洗町
その1つが茨城県の大洗町です。この町では水産加工業に従事するインドネシアからの技能実習生を多く受け入れていますが、それ以外にも、人手が不足しがちな農業や解体業などで、不法滞在の外国人も働いています。大洗町長は、こうした不法滞在の人々に対してもワクチン接種を進めると決断。
■キリスト教会牧師たちが協力
インドネシア人の信者が多く通う町内の7つのキリスト教会のインドネシア人牧師に呼びかけ、接種券の送付に必要な住所の聞き取りに協力してもらいました。この取り組みを主導したNPO代表の坂本裕保さんは、不法滞在者に対し、「聞き取った住所は、ワクチン接種券の発行以外の目的には使わない」とSNSを通じてインドネシア語で呼びかけ、不法滞在者が安心して接種できる環境を整備したと語ります。その結果、10月に行われた1回目の集団接種では、接種した不法滞在者は約30人と少なかったものの、12月時点では約220人が2回の接種を完了しました。
■多文化共生のキーワード
外国人の接種率向上のキーワードは「自治体と地元の外国人コミュニティーの連携」だ。今後、日本で暮らす外国人がますます増えることが予想される中、ワクチン接種に限らず、自然災害などの際にも外国人が取り残されることなく、「安全」「安心」「快適」に過ごせる環境整備が求められています。ワクチン接種の取り組みを通じて、日本に暮らす外国人との共生のヒントが見えた気がします。