北朝鮮専門家パネル活動停止…監視弱まる懸念も 日本人元委員
北朝鮮に対する制裁の実態を調べる国連安全保障理事会の専門家パネルが、ロシアの拒否権行使で4月30日をもって15年にわたる活動を終えた。そのメンバーだった日本人の専門家がNNNのインタビューに応じ北朝鮮の核・ミサイル開発への監視が弱まる可能性があると指摘した。
■北朝鮮制裁委員会専門家パネル15年にわたる活動停止…元日本人委員「北の核・ミサイル」懸念
ことし3月。北朝鮮への制裁の履行状況を調べる「専門家パネル」の継続がロシアによる拒否権行使で否決された。これにより2009年に設置されて以来、年に2回安保理に報告書を提出し、北のIT技術者やサイバー攻撃などの実態を明らかにしてきた専門家パネルは4月30日をもって15年にわたる活動を停止した。
専門家パネルで唯一の日本人メンバーとして北朝鮮の武器などを調査してきた須江秀司さんは、専門家パネルの意義をこう強調する。
-北朝鮮制裁委員会専門家パネル元委員 須江秀司さん
「ロシアに滞在する北朝鮮外交官によるミサイル関連部品や関連技術の調達活動などの事案を報告したり、あるいは東南アジアを舞台にしていろいろなビジネスを行いながら、北朝鮮の大量破壊兵器に関する資金調達に関わるネットワークを報じてきたりしました。北朝鮮への制裁を履行する委員会で実際に戦う外交官を支援していきたいという思いで報告書を書いてきました」
15年にわたる活動が停止することで、北朝鮮の核・ミサイル開発への監視が弱まることを須江さんは懸念する。
-北朝鮮制裁委員会専門家パネル元委員 須江秀司さん
「(北朝鮮との武器取引を禁じたなどの)安保理違反事例というのは継続しているわけです。こういった国々がやはり多い中で、ネットワークを通じて、北の大量破壊兵器開発につながるような資金の流れとかいったものは、やはり今後も続いていくのではないかというふうに考えています」
■拒否権を行使したロシア…北朝鮮との武器取引を報じたおよそ1年前から態度が硬化
専門家パネルの委員任期の延長について、ロシアが拒否権を行使した理由を須江さんは専門家パネルがロシアが北朝鮮から武器を調達していることにメスを入れたのが引き金だったのではと話す。
-北朝鮮制裁委員会専門家パネル元委員 須江秀司さん
「これまでもロシアにおける制裁、安保理制裁違反事例はありましたし、我々も報じてきました。大きく変わったのは、ちょうど1年前の2023年3月に出した報告書で、北朝鮮からロシアへ鉄道を使った武器を輸出。これがあってからです。そしてウクライナで見つかった北朝鮮製の短距離弾道ミサイルについて報じたわけですけれども、この辺に関してロシアサイドからの強い抵抗というのは個人的には感じました」
■ウクライナで見つかった北朝鮮製ミサイルに、偽物の日本メーカー部品
国連外交筋によると専門家パネルは、ウクライナ東部ハルキウにことし1月着弾したミサイルは北朝鮮製だと断定。北朝鮮との武器取引を禁止した安保理決議違反にあたると指摘したという。
ウクライナメディアによると、北朝鮮製ミサイルからは欧米や中国、そして日本メーカーの名前が書かれた部品が見つかったという。その部品の写真をみると「JAPAN」のほかに大手機械製造メーカー「NSK」の文字が刻まれていた。本当に日本メーカーの部品が北朝鮮製ミサイルに使用されているのか。
日本テレビの取材に対し日本精工(NSK)は、「本物の当社製品と異なる内容の刻印がされていたため偽物」であると断言した上で、「偽物が出回らないようにするため関係機関を通じて法的措置を講じている」とコメントした。
外国製品のフェイクとみられる部品を寄せ集めて作られているとみられる北朝鮮製ミサイルについて、須江さんは。
-北朝鮮制裁委員会専門家パネル元委員 須江秀司さん
「パネルもメーカーから偽造品であるというしっかりとした報告を受けている。北朝鮮の調達活動の中で、日本製だといってフェイクを掴まされて調達したのか、あるいはどこの国の製品であろうとしっかりと機能していればいいという範疇で調達したのではないかと推測されます。いずれにしてもこうしたものが調達できるネットワークが存在しているのは事実なので、国連の制裁枠組みの中で、調達ネットワークを解明して撲滅することが重要だと考えています」
■北朝鮮は専門家パネルの活動停止は「歴史の審判」だと強調
専門家パネルの活動停止について、北朝鮮の国連大使は国営メディアを通じて声明を発表し「歴史の審判」であると強調した。日本やアメリカなどは専門家パネルに変わる新たな組織の設立を模索しているが、北朝鮮は「特定国家を狙った新たな犯罪機関を作り上げようと画策している」と反発している。
専門家パネルの活動停止で、国際社会は今後北朝鮮の制裁違反とどう向き合っていくべきなのか。
-北朝鮮制裁委員会専門家パネル元委員 須江秀司さん
「たとえばアフリカのある国が北の医療関係者を雇っているわけですね。人件費が安いし、技術もある。やはり地域的にやはり医療関係者が不足しているから、どうしても雇わざるを得ないという状況があると思うんです。ただ、事情はともかくとして、収入を得ている以上、安保理制裁決議違反になるわけです。そういう地域的な医療関係者が不足しているという状況をどうやって解決してあげるか、その国にどうやってインセンティブを与えるか、場合によっては2か国ベースで協議をしたりして、その国を説得して別の代替手段を提供して安保理決議を履行してもらうという努力も必要かなと思っています」
日本企業も発注先が北朝鮮のIT技術者と知らずにアプリ開発の業務を依頼したとみられるケースなどが起きているが、企業の側にも注意が必要だという。
-北朝鮮制裁委員会専門家パネル元委員 須江秀司さん
「日本でも北朝鮮の人による偽のIDを使った被害が制裁違反事例としてありました。実際、対面でしっかりとその人物を確認するというのは重要だと思います。出てきたレジュメやIDをもとに本人と面接することによって確認する作業というのは、重要なことだと思います」
専門家パネルの活動停止により、国際社会は今後「北朝鮮による制裁違反への意識を維持し、これまで以上に監視の目を光らせる必要がある」と須江さんは語った。