国連総会 ロシア非難決議採択141か国が賛成 鳴り止まない拍手 ロシアの孤立深まる
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり開かれた国連総会の緊急特別会合は、ロシアを非難する決議を141か国の賛成により採択し閉幕した。安全保障理事会の要請に基づき、40年ぶりに開催された3日間にわたる会合を振り返る。
大きな拍手に包まれたニューヨークの国連本部の総会議場。議場のモニターには「賛成141」という数字が映し出されている。ロシアによる軍事侵攻を「国連憲章に違反する」として、「ロシア軍の即時撤退」を求める決議が圧倒的賛成多数で採択された。
「ウクライナへの軍事侵攻を絶対に許してはならない」という国際社会の“総意”が示された瞬間だった。ウクライナの国連大使が、各国の大使や外交官らと抱き合う。
ロシアの大使は表情を変えずじっと前を見つめたままだ。予想以上に賛成が多かったからか…ロシアの代表団は、鳴りやまない拍手の中、どの国が賛成したのか確認に追われていた。
国際社会におけるロシアの孤立が強調される形で会合は幕を閉じた。
■戦闘続くキエフで生まれた赤ちゃんのために…ドイツ外相「平和か侵略かの選択を」
120以上の国や地域の代表によって、3日間にわたり行われた演説。中でも印象深かったのがドイツのベアボック外相の演説だ。演説は戦闘が続くウクライナの首都キエフで生まれたという赤ちゃんの紹介から始まる。
「数日前、キエフの地下鉄の駅で、女の子の赤ちゃんが生まれた。名前はミア。ミアの家族は爆弾やロケット弾、戦車や手りゅう弾から逃げなければならなかった。彼らは恐怖の中で、痛みの中で生きている。ロシアがウクライナに対して戦争を仕掛けたからだ」
そして、今回の決議案の採決について、「投票はミアについてのものだ。私たちの子どもの未来、私たちが選択する未来についてのものだ」と強調した。
演説の中で、ベアボック外相は自らについて「欧州の平和と安全の中で育つという計り知れない特権を得たドイツ人」と表現した上で、「ナチス・ドイツが仕掛けた冷酷な戦争の後、国連は平和と安全保障の維持のために設立された。私たちやミアの世代を戦争の惨禍から守るためにだ。しかし今、ロシアはこの国連の原則、国際社会のルールに対し、残酷な攻撃をしかけている。だからこそ、この戦争は、ウクライナだけの問題ではなく、欧州だけの問題でもなく、我々全員の問題なのだ」と訴えた。
演説の最後、ベアボック外相は、議場にいる一人一人にこう語りかけた。
「いま選択しなければならない。平和か侵略か。正義か強者の願望か。行動するのか、それとも見て見ぬふりをするのか。投票を終えて家に帰り子どもたちと向き合うとき、彼らの目を見て、自分がどんな選択をしたのかを伝えなければならない」
■“ウクライナカラー”で演説 ロシア兵に語りかけた米大使
最終日となった2日、アメリカのトーマスグリーンフィールド国連大使は、ウクライナ国旗にちなんで黄色のニットに水色のスカーフという“ウクライナカラー”に身を包み演説に臨んだ。そして、「不当で不必要な戦争の最前線に送られたロシアの兵士たちへ」と語りかけた。
「あなた方の指導者は嘘をついている。戦争犯罪を犯してはならない。武器を置いてウクライナから去るために、できる限りのことをしなさい。この戦争は1人の男の選択によるものだ」とプーチン大統領を厳しく批判。
その上で、「国連加盟国には、主権と領土保全の権利があると信じるなら賛成を。ロシアが責任を問われるべきと考えるなら賛成を。国連憲章の順守を信じるなら賛成を」と決議案への支持を訴えた。
■ロシアへの非難相次ぐ一方、各国の立場に隔たりも…
ウクライナへの連帯を示す各国の座席には、ウクライナの国旗とともに「きょう、私たちは皆ウクライナだ」と記されていた。そして、演説ではロシアへの非難の声が相次いだ。
ジョージアの国連大使は、2008年のロシアによるジョージアへの軍事侵攻に言及。「ロシアが我が国に対して行った軍事侵攻は警鐘となるべきだった。我々は、戦争の犠牲、その悲惨な結末を知っている。罪のない一般市民、女性、子どもが最も高い代償を払うことになる」と述べ、ウクライナへの連帯を呼びかけた。
デンマークの国連大使は「もしロシアが戦いをやめれば、戦争はなくなる。ウクライナが戦いをやめれば、ウクライナがなくなる。これが目の前にあるシンプルな現実であり、真実だ」と訴えた。
しかし、非難が相次いだ一方、各国の立場の隔たりが露呈する場面もあった。
中国の張軍国連大使は「状況は中国が望まないところまで発展している」と述べた上で、「主権と領土保全は尊重されるべきであり、そのために国連憲章の原則は支持される必要がある」と指摘。ただ、ロシアへの直接的な批判は避け、「一国の安全保障が他国の安全保障を犠牲にすることがあってはならない」と述べるにとどめた。
そして、採決で反対票を投じた北朝鮮とシリアの演説は欧米諸国への批判に終始した。
北朝鮮「ウクライナ危機の根本原因は、他国に対して高圧的で恣意的な態度をとるアメリカと西欧諸国の覇権主義的な政策にあることは言うまでもない」
シリア「ロシアとウクライナの間の状況が深刻化しているのは、西側諸国がロシアに対する約束を守らないからであり、それは何十年も続いている。西側諸国はロシアの正当な安全保障上の懸念を無視し、ウクライナへの武器やミサイルの提供を躊躇せず行っている」
■採決直前ロシア大使「決議で軍事活動終わらない」
ロシアのネベンジャ国連大使は、採決が行われる直前、改めて軍事侵攻を正当化した上で、「欧米諸国が多くの国に対して自分たちの考え通りに投票をするよう促している。前例のない圧力をかけている。これは脅しだ」と主張し、決議案を支持しないよう呼びかけた。その上で、「この決議案で我々の軍事活動を終わらせることは出来ない」と述べた。
結局、採決ではロシア、ベラルーシ、シリア、北朝鮮、エリトリアの5か国が決議案に反対、中国など35か国が棄権した。
■グテーレス事務総長「時を刻むのは時限爆弾」
決議が採択された後、国連のグテーレス事務総長は、「国連総会のメッセージは明確だ。ウクライナでの敵対行為を終わらせろ、いますぐ。銃声を止めろ、いますぐ。対話と外交の扉を開け、いますぐ」と訴えた。
そして、「私たちには一刻の猶予もない。紛争の残酷な影響は目に見えている。時を刻むのは時限爆弾のようなものだ」と警告し、国際社会の結束を呼びかけた。