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【国際女性デー】「あなたは一人じゃない」~流産や死産を“タブー”にしない~【ロンドン子連れ支局長つれづれ日記】

2024年3月7日 19:21
【国際女性デー】「あなたは一人じゃない」~流産や死産を“タブー”にしない~【ロンドン子連れ支局長つれづれ日記】
マチルドさんが流産の体験を綴った本のイラスト。真ん中に「タブー」と書かれている。

世界の女性の10人に1人が経験するといわれる流産。痛みや悲しみの大きさに、周囲に話すのをためらい、一人で思い悩む人も多いといいます。そうした中、タブーを破り、この問題に光を当てようと奮闘する女性がいます。4回の流産を乗り越えた彼女が今、伝えたいメッセージとは?
(NNNロンドン支局 鈴木あづさ)

■4回の流産を経験して…

フランス南部の町トゥールーズに住むイラストレーターのマチルド・リュミエルさん。自分の体験をもとに、流産や死産についての本を書きました。

マチルドさんは、夫のトマさんとの間に6歳の一人娘、モナちゃんがいます。マチルドさんはモナちゃんが生まれるまでの間に、4回の流産を経験しました。

「最初の流産を経験したとき、医師は『重い生理みたいなものですよ』って言ったんです。でも、実際は全然違いました」

4回目の流産を経験した直後、マチルドさんの妹が妊娠しました。

「家族は私に対して、ずっと沈黙していました。誰も私の様子すら聞いてくれなかったんです。妹の妊娠の話をされると激しい動悸(どうき)がして、誰かと話すことも苦しかった。自分の居場所が見つからなかったんです」

流産や死産で赤ちゃんを失うことは、心への負荷が大きく、周囲に話すのをためらって気づかれにくい側面があるため、うつ病や不安障害につながる恐れがあると言われています。

マチルドさんは3回目の流産の後、自身のつらい気持ちをイラストに描き始めます。それが、およそ5年後の2021年、1冊の本になりました。

「私の本は、タブーを破るための小さな小石だと思っています」

マチルドさんの本は、短編アニメとして映像化されることに。脚本を担当するナルナさんも、流産を経験した1人です。

「あの絵、黒い服の女性、胸のところに大きな穴のあいた女性…胸に迫りました。当時の私そのものだったんです。心は死んでいるのに、無理に笑ってみせている…」

マチルドさんによれば、フランスでは毎年20万件の流産があり、全妊娠の15~20%にあたるといいます。

マチルドさんのもとには、今もこうした流産の痛みや孤独を経験した女性から「周りに話すきっかけになった」といった感謝の声が届いています。

「互いの経験をシェアして話し合うだけでも、つらい経験から回復するための力になります。私にとっては夫のトマと話し合うことが大きな支えになりました」

夫のトマさんも隣でうなずきます。

「残念ながら流産をタブーと考え、気軽に話せないという空気は、まだフランスにもあります。夫婦間だけでなく、マチルドが本やSNSを通じてしているように、多くの人と話すことです。痛みを乗り越えるのにコレという処方箋はありません」

「今、悩んでいる女性たちに伝えたいメッセージは?」と聞くと、マチルドさんは まっすぐにこちらを見つめて言いました。

「『あなたは一人じゃない』ということ。恥じることはない。あなたは何も間違ったことはしていない。赤ちゃんを失った体験について“話す勇気”を持ってください」

■「話す」ことで分かち合う

ドイツ南東部のカームという小さな町に、「話す」ことで痛みを分かち合う取り組みをしているグループがあります。小さなテーブルを囲んでいるのは、流産や死産などで子どもを失った女性たち。週に一度、自身の辛い体験を語り合っています。

「私はベリーナ、娘を24週で妊娠中毒症により失いました。緊急帝王切開のあと、生後5週間は生きたのですが、私の胸の上で静かに永遠の眠りにつきました」

「流産もこれまで4回しているの。今はもう一度、赤ちゃんを授かるのを待っているところです」

この日、集まった6人には全員、流産や死産の経験があります。

「私は、もう流産しているのに、なぜか出産する予定だった日に、腹痛があるのよね」

「わかる。信じられないという人もいるでしょうけれど、私も流産してから3年、出産予定日の10月13日の夜になるとお腹が痛くなるの」

妊娠することへの不安を語る人も――

「時々、思うのよね、SNSで妊娠を無邪気に喜んでいる投稿を見たりすると、『あなたたちは何も知らないじゃない』って。これから何かが起こるかもしれないということを」

ほかの一人が深くうなずきます。

「心配事がないのって、羨ましいことよね。私がもう一度、妊娠したとしても、心配しないでいることは無理だし、妊娠を手放しで喜ぶことなんて、もうできないと思う。毎日、不安で仕方なくなる」

参加者の一人、カトリンさんは去年1月、妊娠35週の時に息子のフリードリン君を突然の出血で失いました。

「ちょうどクリスマスの後だったかしら、妊婦を見たり、赤ちゃんを見たりした時、『なんで、あなたたちがここにいるのよ?』ってすごく嫌な気持ちになったの」

全員がそれぞれ気持ちを共有して、うなずきます。

■痛みは“波”のように…

数年前に流産を経験したシャリーンさんは、時と共に心の状態がどのように変わっていくかを語りました。

「そろそろ、息子の命日なの。5月7日よ。でも、なるべく考えすぎないようにしてる」

別の参加者が聞きます。「本当に疲れ果ててしまうことってある? それとも、だんだん痛みは薄れてきているの?」

「そうね。波のようって言ったらわかるかしら」

シャリーンさんは、手で波のようなジェスチャーをしながら語ります。

「最初はすごく荒い波が、次から次へとたくさん来るの。それから、月日が過ぎていくとともに、なだらかになって、時折、激しくなることもあるけれど、痛みの波の間隔がだんだんと広がっていくの。感情とどう向き合うかというやり方を学んでいくのね」

そして、カトリンさんの方に向きなおって続けました。

「あなたの気持ち、とってもよく分かるわ。あなたが今、妊婦を直視できないってこと。でも心配しないで。時と共に、悲しみはだんだんと癒えていくから」

■“同じ境遇”だからこそ

同じ経験をした者同士だからわかること――主催者のパトリツィアさんは、互いの状況について話し合うことで、自分自身の経験を見つめ直し、新たな気づきが生まれるといいます。

「それを経験した人でなければ想像できないこともあるんです。どれだけ寄り添う気持ちがあったとしても、経験者と同じではありません。妊娠した人を羨んだり、そういう話しづらいことでも、ここではオープンに話すことができます」

「最初の数回、ずっと泣き続ける人もいますが、タブーを破って話すことで、だんだんと、どう対処すればいいのか自分の道を見つけていく。それと、他の人の助けになることによって『誰かの役に立っている』『赤ちゃんの死は無駄じゃなかった』と思えるんです」

臨床心理士の仕事をしているベリーナさんは、会の意義をこう語りました。

「今の社会では、すぐにレッテルを貼られます。『そんなこと忘れて前に進みなさい』と言われ、いつまでも悲しんでいる人は隅に追いやられる。一方で、私たちが笑ったりすると『悲しくないの?』と言われる。笑うことと泣くことは、どちらも生きることの一部なんです。仕事場でも家庭でもどこでも、笑ったり泣いたりすることが許されるべきだと思います」

「この会ではいつも自分らしくいられる。レッテルを貼られることはありません。悲しいママでもいられるし、子どもを失った笑顔のママでもいられる。ありのままでいることが許されるんです」

■“男は強くあるべき”の呪縛

流産や死産で子供を失った悲しみは、男性にとっても大きく、心のケアが欠かせません。イギリス中部マンチェスターに住むオリー・モンクさん。2018年、妻が初めての子を流産した翌年、双子の女の子を死産。2020年に待望の長女を授かった3年後、再び流産に見舞われました。

「流産は理由がわからないだけに、男にとっても、ものすごく辛い。でも、“男は強くあるべき”で、感情を表に出したり悲しんだりしてはいけない存在と思われているんです。だから僕は感情を表に出すのが苦手で、自分の中にため込んでしまっていました」

2020年、オリーさんは同じ体験をした男性たちと共に、あるサッカーチームを立ち上げました。

オリーさんたちの「エンジェルス・ユナイテッドFC」では、毎週火曜日の夜、流産や死産を経験した男性たちが互いの経験を話し合った後、全員でサッカーをします。サッカーは年齢も置かれた状況も関係なく、人々を一つに結びつける力強いツールだ、とオリーさんは語ります。

「サッカーは僕の人生を救ってくれました。エンジェルスは僕にとって兄弟のようなものです。夜中1時に電話しても、必ず誰かが出て、泣くための肩を貸してくれる。僕は今、50人の兄弟たちに支えられて、一緒に悲しみながら、笑いながら生きています」

日本では男性を対象とした法的な休業制度はまだありませんが、イギリスでは死産だった場合、最大14日間の特別休暇を取得することができます。でも、男性たちにとって、流産について語ることはまだ簡単なことではないといいます。オリーさんはチームを立ち上げることで、流産や死産についての沈黙を破りたかったと話しました。

「私たちのユニフォームには、ハッシュタグ『沈黙を破る』と書かれています。赤ちゃんや子供を失うことなど、すべての悲しい体験には『沈黙』がつきまとっています。そのような体験について話すことを恐れないでほしいんです。話すことによって、同じ悲しみを抱いた人とつながり、ともに悲しみ、支えあうことができるんです」

「悲しみを完全に乗り越えることは誰にもできません。でも、必要な時に支えてくれる人たちや、くじけそうになった時に支えてくれる人がいるということを知っていることが大切なんです」

「ソーシャルメディアで最初のメッセージを送ること、最初のメールを送ること、最初の電話をかけること…これらがどれほど難しいか、私は知っています。でも、信じてほしい。最初の一歩を踏み出して、自分だけの『エンジェルス・ユナイテッド』を見つけてほしい。暗い時を乗り越えて、自分の居場所を見つければ、助けてくれる人がいつもそばにいる。あなたはもう一人じゃない」

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■筆者プロフィール


鈴木あづさ
NNNロンドン支局長。警視庁や皇室などを取材し、社会部デスクを経て中国特派員、国際部デスク。ドキュメンタリー番組のディレクター・プロデューサー、系列の新聞社で編集委員をつとめ、経済部デスク、報道番組「深層NEWS」の金曜キャスターを経て現職。「水野梓」のペンネームで作家としても活動中。最新作は「グレイの森」。