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【解説】アメリカ警告の中…イランが報復 大規模攻撃でイスラエル側は?【バンキシャ!】

2024年4月15日 10:20
【解説】アメリカ警告の中…イランが報復 大規模攻撃でイスラエル側は?【バンキシャ!】
日本時間14日朝、イランがイスラエルを攻撃しました。なぜ今なのか、その狙いは?そして、今後どうなっていくのか――。中東情勢が専門の慶応大学・田中浩一郎教授に聞きました。(真相報道バンキシャ!

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──イランによるイスラエルへの“報復”攻撃について、1・大規模攻撃に踏み切った理由、2・今後エスカレートしていく可能性があるのか、その後何か起こるのかという点についてうかがいます。

まず、イランが“報復”攻撃に踏み切った経緯について整理します。1日にシリアのイラン大使館の関連施設に空爆があり、イラン革命防衛隊の幹部ら13人が死亡しました。イラン革命防衛隊は、イスラエルと敵対するシーア派組織ヒズボラを援助してきたとされています。イランはこの攻撃をイスラエルによるものとし、報復措置をとるとしていました。

そうした中、13日にイラン革命防衛隊がイスラエルと関連する貨物船を拿捕(だほ)。夜には、イランからイスラエルへ300以上の無人機やミサイルが使われたとみられる報復攻撃が行われました。

──まず、イランが大規模な報復を行った理由について、どうご覧になっていますか?

田中教授
「まず、4月1日、ダマスカスにおけるイランの大使館の領事部が爆撃を受けたというケースです。それに対しての報復ということもありますし、正当な自衛権の行使ということを言っているわけです。正当な自衛権の行使というのは、去年10月7日にイスラエルがハマスのいるガザから攻撃を受けた時以降に使っている論法なんです。そしてもう一つのポイントは、抑止力の回復ということでして、イランに撃ち込めば、イランから撃ち返されるということ。あるいは、お互いがどこかに撃てば撃ち返されるという懸念があるので、普通は手を出さない。これが抑止力につながるんですけど、ここ最近のイスラエルはそれをほぼ無視して、イランの権益にかかわるものや人物をシリア国内で攻撃してきていたんですね。4月1日の事案を含めて、この抑止力が効かなくなっているということでもあったので、その抑止力が単にミサイルや無人機を持っているだけでなく、これを本当に使うんだということを見せる必要にかられたということです」

──これまでイランが自分たちで直接的に攻撃するということがあったのでしょうか?

田中教授
「イスラエルに対してはなかったです。その点では初めての事例ともいえます」

──なぜ、こういう状況になったのでしょうか?

田中教授
「去年の10月7日以降の流れを見ていても、ハマスが行った攻撃に対してイランは冷ややかに距離を置こうとしましたし、レバノンのヒズボラ、あるいは、イエメンのホースィー、こういったイラク・シリアに展開する民兵組織が、アメリカやソ連、イスラエルなどを攻撃していることに対して、攻撃が深追いしすぎるとエスカレーションをまねいてしまって、最終的にイラン本土に対するアメリカの軍事介入になりかねないと、ブレーキをかけてきていたというスタンスだったんです。ところが、ここにきてイランの権益である大使館の領事部が攻撃を受けて重要人物が暗殺されたということから、こういった代理組織・代理勢力に自分たちにかわってイスラエルを攻撃させるということはできなくなり、自分たちが変な意味で手本を見せないといけない、というところまで追い込まれたともいえます」

アルジャジーラなどによれば、攻撃の対象地域はシリア南西部に位置し、イスラエルが実効支配するゴラン高原にも向けて行ったと報じられていますが、この地域を狙った意図はあるのでしょうか?

田中教授
「そもそもここが最大の攻撃ポイントになるのではないかとみられていました。なぜかというと、1967年以降この地域はイスラエルが不法に占拠しているところなんです。つまり、シリア領です。ここに対してイランが攻撃をしかけたことは、イスラエルからみれば本土が攻撃されたことになるんですが、国際法上はシリアを攻撃したことになるので、あまり強い反応をすることができないだろうということもあるんです。ただ、実際にはイスラエルの本土の方も叩いていますから、それだけではすまないということです」

──イスラエル側は、「攻撃の99%は迎撃された」と発表しています。300以上の無人機などが使用されたといわれている攻撃で、99%迎撃というのは実際起こりうるんでしょうか?

田中教授
「イスラエルが持っている迎撃システムである『アイアンドーム』、それから弾道ミサイルを撃ち落とす『アロー』システムというのがあるんですが、特に『アイアンドーム』に関しては、かなりの精度を持っていますので、相当数迎撃したと思います。また、飛行距離が今回イランからイスラエルに到達するまで1000キロくらいありますので、この間、イラク上空、シリア上空、ヨルダン上空などで、米軍があわせて迎撃したともいわれていますから、あまり無人機などは届いていないんだと思うのですが、弾道ミサイルは明らかに着弾している様子があるので、99%ほとんどを迎撃したというのはちょっと誇大広告と思いますね」

──イランによる報復攻撃が今後エスカレートする可能性はあるのか。イラン側は即座に「この問題は終結したもの」といった発表もありますが、どうご覧になりますか?

田中教授
「イラン側が4月1日の攻撃で受けた被害と今回イスラエル側に与えた損害とが、バランスするかは微妙なんですが、一応、イランとしては報復は果たしたと。お互いに傷を負ったという状態でイスラエル側がこれを承服すれば、これ以上の攻撃は行わないという宣言ですね」

──イスラエルは「攻撃する者は誰であろうと攻撃し返す」と、応戦する構えも見せていますが、ここについての解釈はどうでしょうか。

田中教授
「これは抑止力の話になるのですが、イスラエルはこれまで攻撃を受ければ、その10倍、20倍、場合によっては100倍の勢いで反撃や報復をしてきました。これこそまさにイスラエルが誇る抑止力で、イスラエルを攻撃したらとんでもない目に遭うということを相手にわからせることで、相手からの攻撃を防いできたところがあるんです。だからイランから攻撃を受けたということであれば、逆にイスラエル側はイランに対して、抑止力をもっていることを徹底的に教え込もうとする。そういう意欲にかられると思います」

──もしも、イスラエルがイランに対して、報復の報復をしてしまった場合、どういった事態にひろがることが懸念されますか?

田中教授
「いわゆる地域紛争化が一番怖いんですけども、アメリカにしてもイランにしてもここまでのところ、ガザの紛争しかり、今回のこともそうですが、地域に広がることが避けたいと思っているんですね。ところが、イスラエルはイランを挑発することでアメリカを戦争に巻き込んで、レバノンのヒズボラであるとか、あるいはその本陣であるイランをアメリカの力で潰してもらいたいと考えてきていますので、そのあたりは、イランも挑発に今回乗ってしまったところはありますが、一旦口火を開いてしまった以上、その結果については彼らも認めなきゃと思います。極めてきな臭い状態がしばらく続くということになります」

──イラン側にも変化が起こりうるんでしょうか?

田中教授
「一番は、イランが攻撃をまた受けた時にどこが攻撃されるかということにもよりますが、核関連施設をやられた場合には、ある意味イランの国家安全保障上に脅威が生じたということで、それを口実に核兵器不拡散条約(NPT)から合法的に離脱する切符を手にしてしまうことになります。そうすると、世界各国とくにアメリカが懸念してきたように、イランが核兵器を持つような方針を掲げてくるかもしれない。これがあるからこそ、イランとのこういった一連の戦火がエスカレートしていくことをアメリカも嫌がっています」

アメリカの動きも注目となりますが、バイデン大統領はイランによる報復攻撃後、SNSを更新し、「イランと、その代理勢力の脅威からイスラエルを防衛するアメリカの責務は揺るがない」としました。

──改めてイスラエルへの強い支持を示した形ですが、どういった意図があるのでしょうか。

田中教授
「まさにエスカレートを避けたいということで、アメリカがきちんと背中を押さえているので、これ以上の拡大はさせたくないということを表しているんです。問題はイスラエル側がどう受け止めるかであって、これまでも昨年10月7日以降の展開を見ても、たとえば、人道に配慮した戦闘を…とアメリカがいくらいっても、なかなか現場ではそれを実行されていない、あるいはイスラエルが軍としてそれを無視しているのかというほど悲惨な状況を展開していますので、アメリカの保障がイスラエルのネタニヤフ首相の耳に届くのか疑問が残ります」

──ガザ情勢を含めたほかの国際情勢への影響はどうでしょうか?

田中教授
「ガザの件に関して、イスラエルに対する国際的な批判が高まってきていましたが、ここでイラン対イスラエルに目がいくことによって、ガザに行われることへの注目がさがったり、この間隙をぬって、イスラエルがガザへ再侵攻を始める可能性が出てきたと思います」

(4月14日放送『真相報道バンキシャ!』より)

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