【解説】ロシア“大失態”…70年以上の歴史に転換?フィンランド首相、NATO加盟について「数週間で結論」
ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、北欧・フィンランドなどがNATO(北大西洋条約機構)への加盟に向けて動き出しました。ロシアの思惑とは完全に逆行する形で、既にロシアは強く反発しています。「ロシア『首都キーウ(キエフ)攻撃』警告」、「ロシア軍の車両がフィンランド国境にも…」、「“北欧2国”NATO加盟?」、「ロシアの大失態?」の4つのポイントについて、詳しく解説します。
ウクライナの状況について、ウクライナ第2の都市・ハルキウ(ハリコフ)の市長は、「ロシアによる爆撃が12日から急激に増加していて、子どもの死者を含む犠牲者が出ている」と報告しています。
また、近郊からロシア軍が撤退した首都・キーウでは、土のうやバリケードが残る中、少しずつ店舗が再開するなど、日常が戻りつつあります。ただ、ロシア国防省は「ウクライナ軍が、ロシア国内で破壊活動をしようとしている」と批判しました。また、「こうした行為が続けば、キーウ中枢部を攻撃する」と警告しました。
イギリスの複数メディアは、「ロシア軍が隣国・フィンランドとの国境に向けて、軍事車両などを移動している」と報じました。「ロシア軍のミサイルシステム2基などがロシア国内の道路を移動し、フィンランドとの国境などに向かっている」と伝えています。
実は、フィンランドを巡り、動きがありました。フィンランドのマリン首相は13日、訪問先のストックホルムでスウェーデンのアンデション首相と共同会見を行い、NATO加盟を申請するかどうか検討を急ぐ考えを示しました。
フィンランド マリン首相
「ロシアのあらゆる行動に、備えなければなりません。(NATO加盟を)早急に検討し、数週間以内に判断したい」
フィンランドは、これまでも「NATO加盟を検討する」と表明していましたが、マリン首相は「数週間で結論を出す」と述べました。
フィンランドは、ロシアと1300キロにわたり国境を接していて、1917年にロシアから独立しました。これまで、隣国・スウェーデンと共に「軍事的中立」を掲げ、NATOに加盟しないスタンスを維持しました。
ただ、フィンランドのマリン首相は、今回のウクライナ侵攻で「全てが変わった」として、「NATOの集団防衛以外に、安全を保証する手段はない」と危機感を強めています。フィンランドは、これまで当時のソ連と戦争をしてきた歴史があり、実際、人々は長い間、ロシアの脅威を感じながら暮らしてきました。
フィンランドの首都・ヘルシンキにある地下鉄の駅では、天井を見ると、鉄板で衝撃に耐えられるよう補強されています。実はこの駅は、ロシアからの攻撃を想定し、有事の際はシェルターとして使われます。他には、普段はプールや体育館などとして使う施設も、いざという時には、地下シェルターとして使えるようにしっかり備えています。
ウクライナの惨状を目の当たりにしたフィンランド国民の意識は、大きく変わっているとみられます。フィンランドの民間調査会社「eva」によると、「NATO加盟に賛成」と答えた人は、ウクライナ侵攻前の2021年は26%ほどでした。しかし、侵攻後の2022年3月には60%に増し、国民自身の危機感も相当に高まっていることが読み取れます。
フィンランドとスウェーデンがNATO加盟にかじを切ったことは、「歴史的にも非常に大きな転換点」だということです。
国際安全保障が専門の慶応義塾大学・鶴岡路人准教授は「第二次世界大戦後、70年以上保ってきた国際的な安全保障の枠組みが変わる」と指摘しています。
冷戦後、フィンランドとスウェーデンは、経済・政治の枠組みであるEU(欧州連合)に加盟していました。ただ、軍事的には、西側でもロシア側でもない「中立国」という立場を保ってきました。
今回、両国がNATOに加盟することになれば、中立的な立場の国がなくなってしまうことになります。NATO側にとって、この2か国の加盟はプラスなことなので、申請をすれば、「比較的、すぐに入れるのではないか」とみられています。
一方、ウクライナは、ロシアとの紛争を抱えていたため、NATO加盟には、高い壁がありました。ただ、フィンランドとスウェーデンは、NATOとの防衛協力の歴史も長く、軍事訓練なども行った経緯があります。さらに、「自由」や「民主主義」といった西側諸国の価値観も共有しているということなので、後は手続き上の問題だけとみられています。
また、ロシアのタス通信によると、フィンランドとスウェーデン両首相の会見を受けて、ロシア外務省のザハロワ報道官も「『ロシアが脅威』という発言は、事実に基づいておらず、NATOに有利なプロパガンダと挑発だ」と強く反発しました。
鶴岡氏は「ロシアはNATO拡大を止めるために、ウクライナを侵攻した。逆に、NATO加盟国が増加しそうな状況になっている。これは、ロシアの『オウンゴール』としか言いようがない。さすがに、この事態はロシアも予想していなかったはずで、『今回はロシアの大失態、誤算だった』と言えるのではないか」と分析しています。
◇
ウクライナで苦戦しているロシアが、実際に今、フィンランドなどに攻め入るとは考えづらいとみられていますが、既に、国際秩序は大きく変わり始めています。ロシアにとって、自らの誤算が招いた代償は高くつきそうです。
(2022年4月14日午後4時半ごろ放送 news every.「知りたいッ!」より)