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生放送で“反戦”訴えた女性 単独インタビュー全文

2022年3月26日 23:35
生放送で“反戦”訴えた女性 単独インタビュー全文

元ロシア国営テレビ職員マリーナ・オフシャンニコワさんインタビューの全文は以下の通り。

     ◇

――今回あなたが勇気ある行動を決意した理由と経緯を教えてください。

まず言いたいのは、私の中で不満は数年にわたって溜まっていたということだ。国によるプロパガンダはロシアで年々強くなっていき、引き締めもより厳しくなっていった。まずロシアで知事選挙がなくなった。次に南オセチアで戦争が起きた。その後、2014年にドネツク、ルガンスク人民共和国ができた。その背景にはロシアで独立系メディアが消滅させられていることがある。その他にもナワリヌイの中毒事件があった。彼は禁錮刑になり、今日改めて9年の禁錮刑となった。

抗議の思いは少しずつ成熟し、どんどん溜まっていた。ウクライナでの戦争はもう戻れなくなった。これ以上黙ってはいられなくなった。この戦争が始まった時点で私は、チャンネル1(国営第1テレビ)を退職する、この会社では働かないとはっきり決めた。どうにかして街での抗議活動に参加したいと思った。最初は当時行われていた全ての抗議活動に参加するつもりだった。ただデモの参加者は最長15年の禁固となる危険がある新しい法律を政権が可決した。抗議する人がマネージ広場(赤の広場近く)へ行ったら、すぐ拘束される。その犠牲は無駄ではないが、そこに参加することは効果が高いことではないと思った。

そんな中で私の頭の中に今回の計画が生まれた。2日前に私は思い立って近所の文具店へと走り、紙とペンを買ってメッセージを書いた。メッセージの一部は西側の視聴者にも伝わるように英語で書いた。ロシア語で書いたのは、現在の状況の中で国のプロパガンダに侵されたロシアの視聴者に向けてだ。

――今回のあなたの行動の原動力となったものは何ですか?

原動力は、もちろんウクライナで戦争が始まったこと。兄弟同士が血を流すような戦争をロシアが始めるとは誰も信じていなかった。想像もできなかった。ロシアがウクライナとの国境に部隊を集結させていたのは、何らかの有利な条件を勝ち取るため、軍事力を誇示するためなのだろうと思っていた。だから本当の戦争が始まるなんて誰も信じていなかった。

もしかしたらドネツク、ルガンスク人民共和国の領土をロシアが取ってしまうのはありえると思ったが、ハリコフやキエフ、ましてやウクライナの西側に攻撃を加えるなんて思いもしなかったわけで、これが原動力となった。

私の父はウクライナ人で母はロシア人だ。私は当時のソ連で今ウクライナの領土であるオデッサに生まれた。私は納得がいかなかった。なぜロシアとウクライナで戦争が起こったのか、理解できないし腑に落ちない。

もう1つ、キエフとハリコフから逃げていく人たちの気持ちを私はよくわかった。自分の子供の頃を思い出した。12歳の時、私は同じようなことを経験した。当時私はチェチェンに住んでいたが、第1次チェチェン戦争が始まって家の近くにも爆弾が落ちてきた。今のウクライナ人と同じように私たちは逃げざるをえなかった。私たちの家が壊されて、アパートと財産の全てを私たちは失った。そうしたことを総合的に見ると、私の中ですべてが明確になってきた。まさに感情が高ぶりこれ以上は黙っていられなくなり行動に出た。私は出来るだけ大きな声をあげることを決めた。

――反戦のメッセージをどのようにスタジオに持ち込んだのですか?

それほど難しいことではなかった。手に持ったコートに入れて、コートを仕事場に持ち込み、スタジオに駆け込む時にコートから取り出してメッセージを広げた。コートは投げ捨てた(笑)。

――同僚は最後までメッセージのことを知らなかった?

誰も知らなかった。私は自分の計画を秘密にしていた。家族にも同僚にも秘密にしていた。もし誰かが私の計画を知ったら阻止するからだ。唯一、ウクライナとの戦争が始まった日に辞めた同僚の男性とは話をした。私はもう我慢できない、キャスターの後ろで反戦メッセージを持って立つ覚悟があると口を滑らせた。彼は、「マリーナさん、それはやらないほうがいい。あなたはか弱い女性だ。変革が起きるかもしれないからもう少し待ったほうがいい」と、なにか彼が行動を起こすかのようなことを言った。けれどそれから1週間がたちさらに時間がたったが何も変わらない状況が続いていた。ウクライナでは相変わらず子供が、ロシア人兵士が死んでいる。何も変わっていない。

――今後もロシアに留まることに不安はないですか?

とても恐い。チャンネル1のトップが私のことを祖国の裏切り者だと非難してからは、とくに恐い。私がイギリスの大使館に連絡をとったということも言われた。もちろんそれもチャンネル1で作られた新たなプロパガンダのショーなわけだが。そう考えると恐い。今、ロシア、モスクワから頭の良い人や進歩的な人々はもう国外へ脱出した。大変な時が終わるのを非常に多くの人々が待っている。市民としての立場を公にしている人は多くない。なぜ自分の国のなかで何かを恐れなければいけないのかと私は思う。沈黙するべきなのか。私は以前の状態に戻れる一線を越えた。けれどここは私の国だ。私には自分の家があり、自分の子供がいて、モスクワに暮らし、旅行もして世界のいろんなところへも行っていた。世界を旅行して帰ってくる時にいつも息子には地球の中でモスクワが一番素晴らしい都市だと言っている。なぜ私がここから脱出しなければいけないのか? ここは私の祖国だ。私はここに住み続けたいと思っているし、どこかへ出て行くつもりもない。息子は今、入学するための大事な試験があって私のサポートが必要だ。私が刑事罰に科せられずに罰金で済むように期待している。昨日のチャンネル1の放送で私が非難されたが、それで終わるように期待している。

――ロシア国内の報道の自由についてどう考えますか? ほかのスタッフはどんな思いで放送に臨んでいるのですか?

ロシアのテレビは、国内問題から注意をそらせるためにあると言っても過言ではない。クレムリンは国際問題を取り上げることで出口のないようなひどい国内の出来事から国民の注意をずらそうとしている。たとえば物価の上昇や制裁による大量の失業、外国企業のロシアからの撤退などだ。ロシアでは数千人の失業者がいて厳しい状況だ。物価も倍に上がり電化製品などの値段は限界を超えている。だから国外の敵を探しているのだ。プーチンが言っているように、ウクライナでナチスがいるというようなことを言うわけだ。

――ウクライナ避難民のことをロシア国民はメディアを通じて知ることはできないのか。

ロシアの視聴者は完全に客観的な情報から隔離されている。なぜなら独立系メディアは外国の手先だと認定され、国外に追放されているからだ。全てのSNSも閲覧が不可能だ。全ての野党系メディアも閲覧が不可能だ。

今、ロシア人がアクセス可能なのは国営メディアのみだ。もしどこかのサイトがウクライナで実際に起きていることを見せ始めたら、すぐに閲覧不可能となる。

ロシア人のわずか1~2%ぐらいは本当の情報を受け取っているかと思う。それらの人達はどのようにVPNを使うかを知っていて、閲覧禁止措置を回避することができる。でも残りの人達は、国営メディアが提供する情報だけだ。ご存知だと思うがこれは情報戦争で、ウクライナ側の宣伝もロシア側に劣らず行われている。完全な情報を手に入れるためには、ロシアメディアを読み、西側メディアを読み、ウクライナのメディアを読む必要がある。真実は常にどこか中間にあるものだ。私達ジャーナリストはそれをして、様々な情報を探すことや分析をして、何が真実で何が虚偽か知ることができるが、多くの一般視聴者はその様な技能はない。彼らは自国の一方的な情報宣伝の犠牲者なのだ。

――軍事行動を正しいと思うロシア人はどれぐらいいる?

最新の世論調査では、私が知る限り、ロシア社会は戦争支持50%、反対が50%だ。私が知る限り、戦争の支持者はまさに国のプロパガンダに影響を受けた人々だ。プロパガンダはテレビ画面で朝から晩まで放送されている。ご存知だと思うが、戦争が始まって以降、ロシアのテレビでバラエティー番組は停止になり、代わりに社会的、政治的な番組が放送されている。番組ではウクライナ人は悪い人だ、ウクライナの軍事インフラを完全に破壊するべきだなどと議論されている。視聴者はこのネガティブな情報にテレビの画面を通して感染してしまう。多くのロシア人はウクライナに親戚がいるが、その親戚との電話の中でも口論になるということが起きている。ウクライナ国民はウクライナ側で国のプロパガンダにやられているし、ロシア国民のことをテレビというゾンビで加工されていると言って、兄弟国民なのに共通語を見つけづらい。

そのプロパガンダを聞かないでと言いたい。人間としての価値があるはずだ。ロシア人でもウクライナ人でもベラルーシ人でもドイツ人や日本人でも人間の価値は共通だ。ここ最近、世界ではあまりに多くのカオスがあるが、私たちは理性を保たなければいけないと思うし、私たちはウクライナの親戚に対して攻撃的でない態度を示すことが大事だ。

――クリミア併合を祝うイベントでプーチン大統領の演説が途中で切り替わったことは、意図的に行われたのでしょうか?

正確なことはわからない。それを放送したのはチャンネル2だ。言えることは、そのような放送はもちろん時間差を作って放送されていて、技術的な問題があったのかもしれないし、何らかの抗議的な心情があったのかもしれない。

以前はチャンネル1のニュースはいつも生放送で行われていたが、今は主要な連邦放送局のニュースは30分の時間差を取って行われるようになった。

――この攻撃を止めるために日本に向けて何を訴えたいか。

今、この攻撃を止めるために全世界が力を合わせるべきだ。この戦争はロシア国民のウクライナ国民に対する戦争ではない。この戦争はたった1人による戦争だ。その名前はウラジーミル・プーチンだ。戦争の責任はその1人だけが負っている。戦争が始まったのは全てのロシア国民の罪であるというのは正しくない。ロシア国民は大部分がこの戦争に反対している。多くの人は新しい法律を恐れてもいる。それを恐れず自分の意見を示して抗議した人はもう1万5千人が全国で拘束された。だから私が国際社会に特に伝えたいメッセージは、今、世界全体が1人の人物の捕虜になっている、犠牲になっているということだ。その1人を止めるために、できるだけ早くこの戦争を止めるため、外交などのあらゆる努力を一致して行うべきだと思う。

今日の最新の情報によると、ウクライナですでに117人の子供が亡くなっているという。大変なことだ。私は今朝起きてCNNの放送を見た。インタビューに答えていた男性は、奥さんと2人の子供がイルピンから避難していた時に死亡した。彼には息子と娘がいた。私の子供と年齢が同じだった。CNNのキャスターは泣いていたが、私も一緒に泣いた。

私たちの課題はまず、全世界の人々が団結することだと思う。常識のある人々、この混乱、暴力、無法状態を止めたい人達が団結して、あらゆる方向からこの1人の人物に影響を与えるべきだ。

――日本がやるべきことは?

外交的なことしかできないだろう。というのは日本が軍事的なプレゼンスをヨーロッパで増強することはできないと思うし、世界の首脳らが力を合わせて、ウラジーミル・プーチンと交渉しようとするべきだと思う。今、私が見ている限り、マクロン大統領だけがクレムリンに電話して国際的な立場を伝えようとしている。他の国のリーダーたちは無視しているのか、怖がっているのか連絡していない。

さらに私が言いたいのは、国際社会がロシアに対して導入した制裁はあまり効果的でないと言える。なぜなら中流層を直撃しているだけだからだ。中流層はプーチンをもともと支持していなかったのに、欧米が制裁を強めたことで逆に西側を嫌うようになることが考えられる。中流層は、制裁で抑圧している欧米が悪いと考え始めている。制裁は、クレムリンにいるエリートにのみ、オリガルヒにのみ向けられるべきだと思う。私の家族の中でもっとも制裁の犠牲になったのは11歳の娘だ。彼女のズベルバンクのバーチャルカードが使えなくなって、学校で昼食を買えなくなった。食事ができなくなった。

――ロシアが変わるために具体的に何が必要?

ロシアでの変革をまず期待している。近いうちにこの血なまぐさい戦争を止めることができると期待している。私はあらゆる努力をしている。国際社会も可能な努力をしていると思う。今日、今後の予測に関しての記事を読んだが、恐ろしいことに5月9日ぐらいまで続く可能性があるとのことだった。みんなで一緒に止めなければならない。

――ロシア人が今、続々とロシアを出ていることについてはどう思いますか。

私が知る限り人々の多くは亡命するわけではない。彼らは混乱した状態が終わるまでは外国にいると思うが、そのあと帰国する予定でいる。彼らはロシア以外には住みたくないはず。混乱した状態が終われば、経済的に恩恵を受けてきた人、教育レベルの高い人などは帰国すると思う。みんな、国の幸福にために働くのだ。