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【イチから知りたい】広島サミットで注目「グローバルサウス」 台頭の背景と日本の支援の「強み」とは?

2023年5月27日 16:37
【イチから知りたい】広島サミットで注目「グローバルサウス」 台頭の背景と日本の支援の「強み」とは?

NNNワシントン支局の渡邊翔記者が解説するのは「G7サミットで日本が主導『グローバルサウス』への関与強化」。最近ニュースでよく聞く「グローバルサウス」と呼ばれる国々。注目されるワケ、そして広島サミットで何が決まったのか解説する。

■岸田首相がサミットの”重要テーマ”に 「グローバルサウス」とは?

5月19日から21日まで行われたG7広島サミットでは、ゼレンスキー大統領の対面でのサプライズ出席や、核軍縮に向けた議論が大きく注目された。そんな中で、日本がもうひとつ、大きく力を入れていたのが、「グローバルサウス」各国との関与強化をG7として打ち出すことだった。

岸田首相は初日の会合で早速、サミットの大きな2つのテーマのひとつとして、「G7を超えた国際的なパートナーとの関与を強化すること、これをG7として明確に打ち出したい」と述べた。

岸田首相が触れた「国際的なパートナー」、これが「グローバルサウス」と呼ばれる国々のことだ。「グローバルサウス」という言葉に明確な定義はないが、アフリカや中南米、アジアなどの新興国・途上国をまとめて指す言葉とされ、インドのように「サウス=南半球」にない国も含まれる。

■ウクライナ侵攻で高まるグローバルサウスの存在感

岸田首相が「グローバルサウス」をサミットのテーマとして重視した背景には、国際情勢をめぐる2つの大きな動きがある。

1つ目は、世界経済全体の中でのG7の力が落ち、G7だけで問題を解決するのが難しい状況の中で起きた、ロシアによるウクライナ侵攻。国連などで大きな「数」を持つグローバルサウス各国の影響力の大きさが改めて浮き彫りになった。

G7をはじめとする西側諸国はロシアや中国などとの対立が深まる中、国際秩序や自由・民主主義を重んじる側につく国を増やそうとしている。しかしグローバルサウス各国は、どちらにつくかを明確にせず、「中立」を掲げて両方とうまく付き合うことで、存在感を高め、自分たちの国益を確保しようとしているのだ。

たとえば、グローバルサウスの代表格とされるインドのモディ首相。去年のプーチン大統領との会談で「いまは戦争の時代ではない」と直接苦言を呈した。一方で、G7が制裁として行うロシア産原油の上限価格設定には協力せず、むしろ輸入量を増やしている。

■グローバルサウスに関与を強める中国

2つ目の理由が、グローバルサウスと結びつきを強めている中国の存在だ。実例として、中国と関与を強め、注目される2つの国を取り上げる。

●ソロモン諸島
太平洋に浮かぶ島国のソロモン諸島は、2019年に台湾と断交後、2022年に中国と安全保障協定を締結した。内容は非公開とされているが、
・有事に中国に軍や警察の派遣を要請できる
・中国の船舶が寄港・補給できる
などとした草案とされる文書が流出。アメリカなどからは「中国がソロモンを太平洋上の軍事拠点として利用しようとしているのではないか」と懸念の声が上がった。最近ではソロモン政府のWEBサイトで、中国の警察がソロモンの警察に治安維持のための訓練を行っていることも公表されている。

さらに経済面での中国への接近も顕著だ。ソロモンでは今年、太平洋地域の国際スポーツ大会が開かれるため、競技場の建設、さらに大会のテレビ中継を家庭で見るための電波塔などの建設に、中国が巨額の支援を行っている。

こうした動きをうけ、アメリカは今年、30年ぶりにソロモン諸島に大使館を復活させ、関与強化を図っている。

中国の海洋進出が強まる中、ソロモン諸島だけでなく、太平洋島しょ国全域で、米中両国のせめぎ合いは激しさを増している。5月にバイデン大統領がパプアニューギニアを訪問する計画は、アメリカの債務上限問題の影響で流れてしまったが、ブリンケン国務長官が代わりに訪問し、パプアニューギニアとの防衛協力協定に署名した。

●ブラジル
今回の広島サミットにも参加したブラジル。今年、再び大統領職に就いたルラ大統領が中国に接近し、アメリカと摩擦を生むような動きを見せている。

4月には北京を訪問して習近平国家主席と会談。投資促進や人工衛星の共同開発、情報通信技術の協力など15の覚え書きに署名した。また、ブラジルとビジネス上の結びつきが強い中国企業も訪問。アメリカが制裁を科している通信大手ファーウェイの施設も訪れ、中国の投資を呼び込む姿勢を鮮明にした。

ブラジルでは、ルラ氏が中国で訪問した中国EV大手のBYDが事業を拡大し、電気自動車や電気バスの輸出などを増やす。またブラジルへの中国の直接投資案件は電力関連の事業が多く、生活の重要インフラに中国が大きく関与していることがうかがえる。

そのルラ大統領、広島サミットではウクライナ侵攻について、先進国しかいないG7ではなく、国連で議論するべきだと主張。独自の和平案を提案する中国などと協力する姿勢も強調した。ただ、サミットではゼレンスキー大統領との会談は実現せず。一方でサミット後の26日にはロシアのプーチン大統領と電話会談し、「ブラジルがインド、インドネシア、中国とともに、平和を求めて紛争の両側と対話する意思があることを改めて強調した」という。

■日本のグローバルサウス支援の特徴は「質」と「人」

中国が関与を強めているグローバルサウス各国だが、長年途上国支援を行ってきた日本には、どのような強みがあるのだろうか。国際協力機関の関係者や外交関係者への取材をもとに、中国・アメリカと比較してみる。

●中国
官民一体となり、電化製品などの生活品から建物・インフラまで、大規模な投資や支援を行うのが特徴。一方で、提供するインフラの質や、中国からの過剰な融資で相手国の財政が悪化する、いわゆる「債務のワナ」など問題も指摘されている。

●アメリカ
災害復旧支援など、人道支援についてはスピード感や規模などの面で強みがあると指摘する。一方で、長期的な目線での開発支援はあまり得意ではないとの声も上がる。

またある外交筋は、「アメリカはいつも安全保障の話から入ってしまうが、グローバルサウス各国は食料問題や経済、気候変動問題に関心があり、ずれがある」と指摘する。いわば「世界の平和と安定のことを考えましょうよ」というアメリカの姿勢が「上から目線に見えてしまう」ことがあるというのだ。

●日本
一方の日本の支援については、多くの関係者が、
・各国の国づくりに貢献する質の高いインフラ支援
・専門家を直接現地に派遣し、相手国の人材育成にも関わる「人と人とのつながり」を通じた支援
こうした支援を長年行っている点に強みがあると指摘する。こうした実績によって、多くのグローバルサウスの国から「日本は対等に話せるパートナーだ」と見なされているという。

アメリカがいわば「不得意」なグローバルサウスへの関与で、日本政府がG7を引っ張れると考える理由はこうした点にあるのだ。

例えばJICA=国際協力機構の活動を見てみると、ソロモン諸島では今年3月、日本の支援によって国際空港のターミナル改修が完了するなど、生活に関わる重要なインフラの整備を日本が担当することも多い。また、地震や津波など、災害への対応が急務となっている太平洋島しょ国では、日本の防災技術を生かして、防災無線などの早期警戒・ 観測システムの整備を進めている国もある。

一方、先ほど取り上げたブラジルでは 治安維持のために、地域密着型の日本の警察の「交番」制度が導入されている。日本の警察官らが「専門家」として実際に現地で指導し、犯罪件数の減少に貢献。 現在は中南米各国にも交番制度が広がりつつあるという。

■サミットではさらなる支援打ち出し 今後問われる「実行力」

こうした状況を背景に行われた今回のG7広島サミット。議長国の日本はインド・ブラジルなどグローバルサウスの国々を招待し、招待国も交えた会合を開いて今後の支援の方向性などを議論した。会合や成果文書では、
・世界の食糧危機に共同で対応していくこと
・G7としてインフラ投資支援を具体的に進めていくこと
・各国のニーズに応じてきめ細かな支援を行う重要性
などが確認されたほか、岸田総理は気候変動や食料安全保障支援などのために、JICAによる40億ドル(約5500億円)規模の融資枠を新たに創設する方針も表明した。

今回のサミットについて、シンクタンク「国際危機グループ」のゴーワン国連部長は「日本はグローバルサウスの抱える懸念に配慮する姿勢をみせ、G7として良い戦略と方向性を示したが、成果文書で示した約束を具体的に実行していく必要がある」と指摘している。今後の日本とG7には、支援強化や問題解決に向けた「実行力」が問われることになる。