2024年再出馬は? 休暇先カリブ海で家族会議…ジル夫人と決断へ 「第三次大戦にはしない」バイデン氏の決意と緊張感
(NNNワシントン支局長 矢岡亮一郎)
■Tシャツ姿のバイデン氏、スマホで緊急電話会談…公開のワケは?
「間違って投稿されたんじゃないか」。ワシントンの外交筋も驚いた1枚の写真がある。
G20サミットが開かれていたインドネシア・バリ島のホテルの一室。グレーのTシャツにチノパン姿のバイデン大統領。手前には、ジーンズに青いTシャツ姿でメモを取るブリンケン国務長官。大統領と向き合っているのは、懐刀のサリバン大統領補佐官だ。
極めて珍しい“オフショット”は、バイデン大統領の公式ツイッターに投稿されたもの。よく見ると、窓の外は青白く、大統領はスマホを手にしている。ポーランドのドゥダ大統領との、明け方の緊急電話会談の写真だった。
■「第三次世界大戦」と隣り合わせの緊張感…「トランプへのメッセージ」
22年11月のポーランド領内へのロシア製ミサイル着弾は、ウクライナ侵攻以降、指折りの緊迫した局面だった。ロシアによるNATO加盟国への攻撃となれば、北大西洋条約第5条の集団的自衛権発動を意味する。かねて、「第三次世界大戦にはしない」と繰り返してきたバイデン大統領だが「1インチも踏み込ませない」とも公言していただけに、対応を迫られた。
複数の米メディアによれば、ブリンケン国務長官は午前4時ごろ、側近にドアをノックされ、起こされている。一方で、ホワイトハウスの発表によれば、ドゥダ大統領との会談終了は午前5時半ごろ。果たして着替える時間もなかったのだろうか。
ホワイトハウスの高官はNNNの取材に対し、「アメリカ大統領の仕事に休息はない。ネクタイがあってもなくても、やっている仕事に変わりはないということだ」と強調する。
「我々はチームだ。トランプみたいに気分や自分の名声のための決断は絶対にしない。適当に撮られた写真のようにも見えるが、構図は計算されている」とも語った。「アメリカ国民、そして、トランプへのメッセージでもある」という。
■23年「外交より内政」バイデン氏…“対中強硬”議会からプレッシャーも
23年、バイデン氏は大統領選への再出馬か、退任か、大きな決断を迫られる。ワシントンの外交筋は、「外交のための外交はやりにくい年になる」「ウクライナ情勢は一進一退で、打開は望めない。米中も協力の余地はあまりない」と語る。
1月3日に招集される新議会では、「中国問題に関する特別委員会」が設置される見通しだ。下院の多数派を奪還した共和党主導で、中国による知的財産権の侵害などを調査する。
下院議長への就任を目指すマッカーシー氏は、「我々が生きる間の最大の地政学的脅威は、中国共産党だ」と語っている。マッカーシー氏が、早期に台湾を訪問するとの観測もある。
さらに、大統領の二男、ハンター・バイデン氏の中国などとの不透明なビジネスの疑惑追及も本格化する。バイデン政権は、共和党から対中外交で譲歩しないよう強いプレッシャーを受けることになる。
■共和党の新鋭デサンティス氏(44)トランプ氏を逆転 どうなる? 対決構図
共和党が見据えるのは、中国の脅威だけではない。その先の24年の大統領選挙だ。24年レースに向けたポイントは、2つに絞られる。トランプ前大統領の影響力低下の行方、そして、バイデン大統領が再出馬に踏み切るかどうかだ。
前者は早くも数字に表れている。22年12月上旬の世論調査では、共和党内のライバルに浮上したデサンティス・フロリダ州知事と支持率が逆転した。(トランプ氏 38%・デサンティス氏 52%、両氏の予備選対決を想定したウォールストリートジャーナルの調査)
ただ、デサンティス知事は、トランプ氏と支持層が重なるため「トランプの自滅を待つ方が得策」(デサンティス氏関係筋)。知事再選を果たしたばかりで、大統領選挙への出馬表明はしばらく先になりそうだ。
■バイデン氏再選なら2期目終わりは86歳に…注目の決断は?
一方のバイデン大統領は、共和党内の動きを見極めている。バイデンVSトランプなのか、バイデンVSデサンティスなのかの構図の想定は、バイデン氏の再出馬の判断に少なからず影響するとみられる。
現在80歳のバイデン氏。前回、出馬に踏み切った最大の動機は「トランプ氏を再び大統領にさせないため」だったとされる。44歳新鋭との対決構図となれば、党内の若い候補者に委ねる可能性も出てくる。
実際、民主党支持者の間でも「バイデン氏の再出馬は望まない」との声は強い。ただ、ハリス副大統領をはじめ、後継候補は育っていない。大統領選に向けた民主党内の準備期間を考えると、バイデン氏に残された熟慮の時間は実はそう多くない。共和党内の構図が定まる前に決断を迫られそうだ。
複数のアメリカメディアによれば、バイデン氏は、中間選挙の善戦によって「再選への自信を深めている」という。そして、再出馬には後ろ向きだったジル夫人も「24年を真剣に見据えている」との側近の声も伝えられている。選挙キャンペーンの準備報道も目立ち始めた。一方で、こうした報道は「バイデン氏の求心力を維持するための意図的なリーク。実際は決まっていないはず」と勘ぐる向きもある。
果たして23年の「早い時期」に下される決断は、再出馬か、退任か。今後のアメリカ内政・外交を大きく左右することになる。