×

【独自解説】ウクライナによる大規模越境攻撃は、ロシアの「核使用」の条件に当てはまる?和平交渉を有利に進める切り札として狙いは「原発」か…戦争の行方と日本への影響とは

2024年8月17日 11:00
【独自解説】ウクライナによる大規模越境攻撃は、ロシアの「核使用」の条件に当てはまる?和平交渉を有利に進める切り札として狙いは「原発」か…戦争の行方と日本への影響とは
ウクライナ越境攻撃で原発に迫る?

平和の祭典の裏で、ウクライナはロシアに対し過去最大規模の越境攻撃を行っています。今後、和平交渉を有利に進める切り札として、原発を押さえたい思惑が見え隠れする一方で、ロシアが“核使用”に踏み切る条件に近づいているという懸念も…戦争の行方はどうなるのか?『読売テレビ』高岡達之特別解説委員の解説です。

■ウクライナがロシアへ大規模越境攻撃 使われたのは「自衛のための欧米製兵器」

 ロシアとウクライナの戦争ですが、この戦争はロシアが一方的に攻め込んで、ウクライナはずっと耐えて防戦をしてヨーロッパやアメリカの支援を受けている、皆さんも理解していると思います。私もそう思っていましたが、ゼレンスキー大統領は、正規軍が国境を越えてロシア領内に攻め込んでいる、ということを認めました。

 どれくらい攻め入っているかというと、1000平方キロメートルという、大阪府の半分ぐらいの結構な広さをウクライナ軍が占領しています。ただ、当然そこにはロシアの人が住んでいて、12万人以上がすでに避難をしています。人的犠牲は明確に分かりませんが、かなり出ているだろうということです。

 ここで一つ問題となるのが、使われている兵器が、明らかにアメリカ・ヨーロッパが供与したものだということです。

 もともとは圧倒的なロシアを前にして、「自分の国を守るための兵器が足りない」というウクライナを応援しましょうと供与されたものだったのですが、それには「ロシアを刺激しない」という条件がついていました。
 しかし、「国境を越えて飛んでいくようなミサイルは渡さない」と言っていたのですが、今回、ホワイトハウスの報道官は、「使われているでしょうね」という言い方で、アメリカが供与した兵器を使っていることをほぼ認めました。

 すると、世界が今まで同情してきたウクライナの、「自衛とは何か」という解釈の問題が出てきました。もちろん、ウクライナは「押されっぱなしで相手の領土に一歩も入るなというのはおかしい。相手の領土を攻めることも自衛だ」と言っています。このあたりの国際法の解釈は難しいですが、同情論というものは確実に弱まります。

■「天然ガスの街」に攻め込んだウクライナの狙いは、ヨーロッパへのけん制?

 各国は「仕方がない」という感じではあるのですが、アメリカとヨーロッパは同じ「仕方がない」でも言っているレベルが違います。ヨーロッパにはあまり「仕方がないな」と言っていられない事情があります。

 ヨーロッパにはロシアに頼らざるを得ない部分があり、戦争の最中も、ロシアから天然ガスがヨーロッパに輸出されていました。今回ウクライナが攻め込んだ「スジャ」という街ですが、実はその天然ガスの大きなプラントがあるんです。

 今ヨーロッパの中でもEUの議長国ハンガリーは、「もうロシアにもう領土をあげたらどうか」と、ウクライナにとって大変不利なことを言い始めています。そんな中、この「スジャ」をウクライナが狙って抑えたというのは、「ヨーロッパも真面目に考えてもらわないと、天然ガスの輸出の喉元を閉めますよ」という、ウクライナなりの戦略が見えるように思います。

■ウクライナの目標はロシア最大の原発?ロシアは死守する構え

 さらに周りの国が大変警戒をしていることがあります。

 ウクライナ軍はまだ進撃を続けているわけですが、あと50kmの距離を行けば、ロシア最大の原子力発電所、「クルスク原発」があります。ウクライナはここを目標にしているのが明白だ、とロシア側も発言を始めました。

 この「クルスク原発」というのは、計画中のものも入れると原子炉が6基ありまして、今稼働しているのは2基といわれている大変大きな原発です。ただ一部の原発は、重大な事故を起こした「チョルノービリ(チェルノブイリ)原発」と同じタイプだと言われて、非常に管理が難しい原発でもあります。

 すでに、ロシア軍は戦車が入ってこられないように、周りにお堀のような塹壕を掘り、死守する構えです。一方、ウクライナも「ザポリージャ原発」という大変有名な原発をロシアに抑えられていますが、原発を抑えられるということは、脅威になるというのが世界が得た教訓ですね。原発というのは全てが“特別”です。

■“最大”の原子力発電所を両国が狙う理由は、和平交渉を有利に進めるため?

 さらにここで、もう一つ問題があります。ロシアとウクライナ、両国とも「最大級」のものを狙っている、ということです。

 ウクライナは、「ロシアが今回のことを受けて欧州最大級の『ザポリージャ原発』を攻撃したと」、とSNSで発信しています。写真からは真っ黒な煙が出ているように見て取れますが、ロシアとウクライナお互いが、「タイヤを燃やしている」とか「無人機でウクライナに攻撃された」などと言っており、「国際原子力機関」の調査でも原因は分からないということです。しかし、ロシアが占領しているということは間違いありません。

 この「ザポリージャ原発」はウクライナだけでなく、ヨーロッパ最大級の原発です。ヨーロッパにとっては、最も大きな被害をもたらしかねない可能性があります。そして、今回ウクライナが目指していると言われている「クルスク原発」は、ロシアにとって最大級のところです。つまり、相手にとって、あるいは周りの国にとって最大級の脅威になる場所を抑えようとしているのです。

 戦争をやっていながら、急いでいるのは“和平”なんです。“和平”というのは「戦争状態を一度やめる」という解釈だと考えますが、“平和”というのはずっと続いている状態です。「“平和”にするために一旦戦争の状態を止める」、ということが“和平”なんです。

 ただ、残念ながら“和平”を有利に進めようとすると、まず取れるだけ取っておかないといけないんです。“平和”に向けての“和平”の話をするために力を使わないといけない、という皮肉なことが今起きているわけです。

ウクライナの越境攻撃は、ロシアの「核使用」の条件に当てはまっている?

 プーチン大統領は、「ウクライナの今回の越境攻撃は無差別。軍隊も市民も関係なくて市民に犠牲が出ている。そんなところと和平の話し合いはできない」と言っていますが、ウクライナから言わせれば、「ロシアも同じことやっている」という話になります。

 当然、ロシアは次のステップとして「核の使用」をちらつかせてくるだろうといわれていますが、それには条件があります。ロシアはこの戦争が始まってからより世界に対して、明確に「こうなったら核も使いますよ」という基準をより強く公表しています。

核を使用する条件はいくつかあります。
① 「ロシアが核攻撃を受けた場合」
② 「通常兵器による侵略で国家存亡の脅威にさらされた場合」
などです。

「通常兵器による侵略」については、「国境を越えてロシア領に入ってくること」で、それが「国家存続の脅威」に当たるかどうかはプーチン大統領の判断になります。本人がそう思えば「核を使う」という条件に見事に当てはまってしまうということになります。そこまで考えてウクライナ側が攻撃しているのかというのは非常に読みづらいところではあります。

結局のところ、原子力施設を狙ったり、「核の使用」をちらつかせたりといった、「核」を使って周りの国に巻き添えを促すという戦略が、オリンピックの裏で展開されているということになります。

■経済の立ち直りを目指す、日本への影響は…

 では、日本は遥か遠い国だから関係ないのかと言うと、実はそうではありません。

 ヨーロッパとロシア、ウクライナは地続きです。ヨーロッパには日本企業もたくさんあります。日本人もたくさんいます。そこに被害が及びかねない事態になれば、当然、日本の株価、経済の立ち直りというところについても大変影響があります。離れていても日本もこの争いの巻き添えになりかねないと言えます。

(『読売テレビ』高岡達之特別解説委員)

(「かんさい情報ネットten.」2024年8月13日放送)

    読売テレビのニュース