地球温暖化に対する取り組みへの理解を広げよう! 海産物や農産物の異変に柔軟に対応する関係者たち 三重県志摩市と愛知県蒲郡市の事例から

地球温暖化による異常気象や農作物の被害などで、私たちの生活は今、深刻な影響を受けています。
未来のために何ができるのか。
この地方で始まっている様々な取り組みを伝えていきます。
海の異変と、異変に柔軟に対応しようと努める飲食店
今年3月の三重県志摩市にある和具漁港。
「ただ今、朝の5時半を回りました。三重県の和具漁港に来ています。まだ真っ暗で早朝という感じなんですけど、今日は初めて漁船に乗ります」
「海の異変」を取材するのは、俳優・モデルとして活躍中の阿部凜(あべ・りん)さん。
中京テレビの番組で去年、森林破壊が進むブラジル・アマゾン川流域の先住民を直撃取材。
危機的な状況を目撃し、環境問題についてより深く考えるようになりました。
人生初の漁船に乗り込む阿部さん。
阿部凜さん:
「今はもう、だいぶ沖の方に来たんですけど、波がだんだん立ってきました。船の揺れも大きくなっています」
阿部凜さん:
「今から何の魚を狙いに行くんですか?」
漁師:
「3月になるとブリが入ってくるので、入ってないかな~と思って」
2隻の船で囲みながら、水深約40メートルの深さから網を引き上げる定置網漁。
阿部凜さん:
「大量の魚が見えてます。すっごい大きいのも引っかかってる」
最初に水揚げされたのはなんと……。
阿部凜さん:
「え、何? マンボウ? マンボウだ!」
まさかのマンボウ。
時期によってはとれるとのことで、地元では刺身や味噌和えなどにして食べるといいます。
狙っているブリやサバ、タイなどが水揚げされる中、「異変」が見られました。
漁師が見せてくれた魚は……。
「グルクンって言って沖縄とかでとれる魚やけど、こういう南洋の魚が回ってくる」
数年前までほとんど見ることがなかった南方系の魚たち。
「異変」は他にも。
阿部凜さん:
「最近はどのようなお魚がとれてるんですか?」
三重外湾漁協・福田英紀さん:
「最近は、南洋の魚が多くなってきた。沖縄とか九州とかのオジサンっていう魚も。昔も少々あったんですけど、最近は多くなってますね」
それだけではなく、こちらの漁港では5年ほど前から漁獲量が減っているということです。
海で一体、何が起きているのでしょうか。
三重大学・松田浩一教授:
「水温の上昇が生物に一番大きく影響を与えることになってますので、三重県に従来生息していた魚が北の方にいっちゃうとか、三重県で見られることの少なかった魚種が三重県の方に分布を広げてきます」
地球温暖化によって、鳥羽や志摩近海の冬場の海水温はここ数年で2・5度ほど上昇。
海の底では水温が上がったことなどが影響し、岩肌を覆っていた海藻が激減しています。
これをエサにしていたのが伊勢エビです。
三重外湾漁協・福田英紀さん:
「和具の港で多いときだと伊勢エビが年間40トンぐらいだったんですけど、今は6トン、7トンぐらい。アワビなんかも激減しましたし、サザエも少ない状況になってます」
その影響が及んでいる場所が漁港のすぐ近く。志摩地方の郷土料理や「地魚刺身定食」が人気の食事処。
店員:
「お待たせしました。「お刺身定食」で、手こねご飯ですね」
阿部凜さん:
「ぜいたくな定食ですね。お刺身がたっぷり乗ってます。すごく豪華」
刺身盛りにはアジやブリなどが乗っています。しかし、漁港で水揚げされる魚、そして魚の旬が変わってきているといいます。
お食事処ひでちゃん・大口秀和さん:
「カツオもカンパチもいろんな魚があるけれども、漁獲量はどんどん少なくなっとる」
阿部凜さん:
「こんなにおいしい海の幸がたくさんあるのに、温暖化が進んでこのまま水温が上昇したら、どんどんとれない魚が増えていってしまう……」
お食事処ひでちゃん・大口秀和さん:
「刺身盛りにウメイロという魚の身が入ってるんですけど、これはどちらかというと南の魚なんですよ」
海の異変を逆手に取ろうと、食事処が新たに提供しているのがこの魚。
主に温暖な海でとれるというウメイロ。
あまり聞き慣れない名前ですが「高級魚」とされているそうです。
阿部凜さん:
「すごく上品なお味。舌に乗せた瞬間、身がすごくプリプリで、すごくうまみがあって、脂がたっぷりのってますね」
異変の中にある、新たな「発見」。
こちらのお店では日々、模索が続きます。
お食事処ひでちゃん・大口秀和さん:
「今まで水揚げされなかった中でも、南方系の魚を調べてみると、けっこううまい魚がたくさんある。それを工夫すれば、必ずおいしい食べ方があるわけなんです」
ごま油工場から排出される二酸化炭素を利用し、ハウスみかん栽培に活用
試行錯誤が必要なのは、海産物だけではありません。
去年の記録的な猛暑で、農作物も軒並み不作に。
価格も跳ね上がりました。
引き金となる温暖化を食い止めるために、新たな取り組みがスタート。
ドラム缶の中身は意外なモノでした。
全国有数の「ハウスみかん」の産地、愛知県蒲郡市。
“みかん栽培”と“地球温暖化対策”を掛け合わせた画期的な取り組みが始まっていました。
そのカギを握るのが、なんと「ごま油の工場」。
みかん栽培とのつながりは全く見えませんが……。
竹本油脂・中嶋淳弥グループリーダー:
「我々の工場から出ているCO2(二酸化炭素)を使って、みかんがもっともっとおいしくなればと」
ごまの焙煎工程で発生する二酸化炭素を回収。
ドラム缶に詰めてみかん栽培に利用するというのです。
樹木が成長するための光合成を促進するため、みかんのハウス栽培では、灯油を燃やし二酸化炭素を発生させるのが一般的。
植物にとって必要な二酸化炭素を、ごま油の工場から出たもので代用するという取り組みです。
ドラム缶が向かったのは、ハウスみかんの農園。
温暖化の原因となる二酸化炭素をみかんの樹木が吸収することで、“地球”にも“みかん”にも
「Win-Win」なんです。
この仕組みを考案した担当者は、愛知県の企業の方。
日本特殊陶業・田中貴史主任:
「省エネでやれる範囲って限界がかなり苦しいところまできているので、出てくるCO2を有効活用して回していきます。今からしっかりやっていかなくちゃいけないということで、取り組みを始めています」」
去年の夏に行われた1回目の実証実験では、通常のハウス栽培とほとんど変わらない品質のみかんが収穫でき、地域のイベントで販売。
2回目は今年に入って実施。
店舗での通常販売や加工品として形を変え、より多くの人に届けたいということです。
蒲郡市企画部企画政策課サーキュラーシティ推進室・羽田野裕昭室長:
「まず蒲郡で成功していただいて、よその地域にどんどん普及、展開していくことを期待しています」
「待ったなし」の温暖化対策。
私たちひとりひとりの知恵と工夫が、未来への“光”となるはずです。