【解説】「統一教会」の答弁で異例の“朝令暮改”…首相答弁は、なぜ一夜にして撤回されたのか
いわゆる統一教会への「解散命令請求」の要件を巡り、一夜にして答弁を撤回した岸田首相。“朝令暮改”の背景には、何があったのか解説する。
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■異例の“朝令暮改”
「民法の不法行為は入らない」「民法の不法行為も入りうる」
今月19日、参議院予算委員会。岸田首相の答弁が、一夜にして撤回された。いわゆる統一教会への「解散命令請求」を巡る答弁での“朝令暮改”だった。この2日前の17日。政府はいわゆる統一教会に対し、史上初めてとなる「質問権」の行使を決めた。
「質問権」は宗教法人法に定められた規定で、法令違反などが疑われる宗教法人に対し、文部科学省などが聞き取りなどを行って、報告を求めるものだ。調査の結果次第では「統一教会」に対する解散命令の請求につながる可能性もある。教団に対し、解散命令を出すかどうかは、最終的には裁判所が判断することになるが、政府は裁判所に解散命令を出すように請求することができるのだ。
解散命令を出すための要件について、宗教法人法では、教団が「『法令に違反して』、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと」などが定められている。この『法令に違反して』の解釈を巡り、岸田総理の答弁は、一夜にして撤回されることとなった。
■夜中まで行われた会議
18日に開かれた衆議院の予算委員会で、立憲民主党の長妻政調会長は岸田首相に対し、宗教法人への解散命令請求が認められる「法令違反」の要件について「刑事的確定判決に限るのか」と質問した。これは、民事裁判では、「統一教会」の組織的な不法行為を認める裁判例が複数積み重なっていることを念頭に置いたものだった。
これに対し岸田首相は、数度のやりとりの末「民法の不法行為は入らないという解釈だ」と答弁した。この答弁を聞き、野党からは驚きの声があがった。
関連団体を除き、「統一教会」の本体に対して、刑事事件で有罪が確定した判決は存在しない。つまり、「民法の不法行為」の判決を含めなければ、教団本体の「法令違反」は現状では存在せず、今後、新たな刑事裁判で判決を確定させなければ、解散命令の請求は行えない事になりかねないからだ。
長妻政調会長は、「今からやると何年もかかるといわざるを得ない」と首相を追及した。
政府高官によると、岸田首相はこの日の国会終了後、首相官邸に戻り、関係省庁の担当者らに「民法の不法行為を含めることが出来るのか検討してほしい」と指示を出したという。これを受け、法務省などからこの手の法律に詳しい専門家が招集され、首相の答弁を修正すべきかどうか、夜中まで議論が行われた。
そして翌19日。参議院の予算委員会で岸田首相は、「行為の組織性や悪質性、継続性などが明らかとなり、宗教法人法の(解散命令請求の)要件に該当すると認められる場合には『民法の不法行為も入りうる』と言う考え方を整理をした」と述べ、前日の答弁を撤回することになった。
ではなぜ、岸田首相は当初「民法の不法行為は入らない」と答弁したのか。首相周辺は理由について、「18日の首相の答弁は、地下鉄サリン事件などを起こしたオウム真理教に対して解散命令が出された当時の判例にならったものだった」と説明した。
また、別の首相周辺は「18日の午前の時点では、宗教法人を所管する文化庁が、過去の判例にこだわっており、首相は『民法の不法行為を含めない』と答弁することになった」と釈明した。
政府高官によると、その後の協議で「過去の判例はあるが、ひとつひとつの事案はケースバイケースで判断できる」という結論にいたり、首相の答弁は撤回されることになったという。
■「解散命令請求までいくと思う」
首相の答弁撤回を受け、永田町の反応は様々だった。ある自民党幹部は、「民法の不法行為を含めるということは、政府は解散命令の請求までやると思う」と分析した。また、政府関係者からは、「解散命令請求をやる気がないとみられることを嫌った」との指摘が出たが、「総理本人の考えが変わり過ぎて周辺も困っている」と困惑する声も聞かれた。
一方、ある野党議員は、「民法の不法行為が対象にならないのであれば、質問権を行使するのはそもそも矛盾している。権力としてのガバナンスが全くできていない」と厳しく批判した。
国会で「統一教会」について「私が責任を持って未来に向けて解決したい」と述べた岸田首相だが、問題の決着は見通せていない。