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自民党・各派閥 内情と戦略を徹底解説!

2021年12月29日 7:15
自民党・各派閥 内情と戦略を徹底解説!

総選挙に勝ち安定政権への道を歩むかに見える岸田政権。しかし、自民党内の各派閥では岸田首相を支える主流4派=安倍派・茂木派・麻生派・岸田派もそれぞれ課題を抱え、「非主流」の二階派・森山派には新たな動きが…。派閥の今を徹底解説。

■安倍・麻生・茂木会合の裏で…「非主流」菅・森山・石破が会談

年の瀬も迫った2021年12月22日夜、都内の日本料理店には安倍元首相、麻生副総裁、茂木幹事長という党内3大派閥トップの姿があった。3人は岸田政権を支える「主流派」として結束を確認した。

しかし、ちょうど同時刻、別の場所では先の自民党総裁選で河野太郎氏を支持し岸田首相とは距離を置く菅前首相、森山前国対委員長や二階派幹部らが会合していた。いわゆる党内「非主流派」の会合だが、いつもと違うのはそこに石破元幹事長の姿もあったことだった。

安倍・麻生・茂木3者会合の出席者の一人はこう吐き捨てた。

 「石破さんが入っていることには驚いた。人選として失敗だ」

衆院選に勝利し一見すると安定しているように見える岸田政権。しかし足元では各派閥によるポスト岸田を睨んだ暗闘が始まっている。


■安倍派(清和会) 94人

現在、自民党内には6つの派閥があり、最大勢力は安倍晋三元首相が率いる「安倍派」。所属議員95人と第2派閥の倍近い勢力を誇る巨大派閥だ。

その一方で、ある安倍派の議員は、安倍氏が会長として派閥に復帰したことについて「安倍さんの危機感の表れだ」と分析する。というのも安倍派は、菅前首相の後継を選ぶ総裁選で岸田氏を支持した議員と、次期会長と目されていた安倍氏の号令で高市氏を支持した議員とで対応が分かれた。

そして総裁選後、岸田首相が誕生したが、安倍派の中で岸田氏を支持した高木毅議員が国対委員長として重用されたほか、派内でも安倍氏ではなく福田康夫元首相や故・町村信孝元官房長官に近い松野博一氏が官房長官に、福田達夫氏が総務会長にそれぞれ抜擢された。

安倍氏を慕う議員は「安倍側から見るとどうなのかね。人事は安倍さんの思う通りにはならなかった」と語るなど、派内には火種がくすぶっている。

安倍氏は派閥の会長に就任して以来、たびたび憲法改正への意欲や北京オリンピックの外交的ボイコットについて積極的に発信するなど存在感を増している。ある派閥の領袖経験者は安倍派について「清和会というグループは伝統的にイデオロギー集団。その基本的な性質は変わっていないし、それ一辺倒で行くと近隣諸国との関係がうまくいかない。安倍晋三がある意味パンドラの箱を開けてしまった」と分析する。

派内には「戦う集団になった。安倍さんはやはり戦う政治家だから」と安倍氏のリーダーシップで派閥の存在感を高めることを期待する声がある一方で、「安倍さんの過激な発言にはついていけない。安倍会長が総裁選で支持した高市氏を安倍派に入れたら、派閥内で亀裂を生む可能性がある」と派の今後を不安視する声も聞こえる。

いずれにしても100人近い大所帯をまとめていくのは至難の業で、2022年は「派内の融和」と「存在感」が安倍派にとってキーワードとなる。


■茂木派(平成研) 53人

次に存在感を高めつつあるのが“茂木派”だ。新しく会長になった茂木敏充氏は党の選挙や金など党務全てに権限が及ぶ幹事長に就任。また衆院選後、少しずつメンバーを増やし、ついに麻生派と並ぶ党内第2派閥となった。茂木派のパーティーでも岸田首相が、これまで外務大臣など要職を歴任してきた茂木氏に対し「残されている国の重要ポストはあと一つくらいしか残ってないのではないか」と持ち上げた。

茂木氏としてはこのまま一気に「ポスト岸田」の最有力候補におさまりたいところだが、喉に刺さった骨となっているのが政界引退後も派内に影響力を残している青木幹雄元官房長官との確執だ。青木氏の影響力が色濃く残る派内の参議院側をきちんとまとめきれるのかという点に不安要素を残している。

茂木氏が会長に選出された経緯に関しても、ある参院茂木派の関係者が「きょういきなり茂木さんを会長にすることを想定してなかった。だまし討ちみたいな形だ」と話すなど、根本的な融和は図れていないのが現状だ。

一方で自民党の首相経験者の1人は茂木氏について「参院とはダメだといわれるが、かなり権力を掌握してきていると思う。幹事長になったときに流れはできた」と評価する。

茂木氏が「ポスト岸田」の筆頭候補になれるのか、党運営だけでなく派閥運営の行方もカギとなりそうだ。


■麻生派(志公会) 53人

麻生太郎副総裁が率いる麻生派。緊急事態宣言中に銀座の街を飲み歩くなどして離党した麻生氏の側近・松本純議員が衆議院選挙で落選するなどしたが、新人議員の加入もあり、現在は茂木派と並ぶ53人の議員を抱え、党内第二派閥として影響力を保っている。

しかし、麻生派も必ずしも一枚岩とは言えない状況だ。先の総裁選では、甘利氏などベテラン議員が岸田氏を支持したのに対し、派内の若手・中堅議員の多くは河野太郎氏を支持した。

麻生派議員の一人は、「軋轢があるわけではない」と語るが、派閥の領袖たる麻生副総裁が、将来的に岸田派などと合流し、いわゆる「大宏池会構想」を実現しようとしているのではないかとの声も消えない。

「大宏池会」が実現すれば一気に安倍派を上回り党内最大派閥となるため、ある自民党関係者は「麻生さんが次の総選挙に出るかは分からないが、今の任期中に大宏池会構想を成し遂げれば、たとえ引退してもキングメーカーとして大きな影響力を維持することができる」と指摘している。


■岸田派(宏池会) 43人

岸田首相が率いる岸田派は、4人の閣僚と、2人の内閣官房副長官が所属し、名実ともに総裁派閥としての地位を確保した。こうした中、岸田首相が派閥を抜けず「派閥会長」の座にとどまっていることが、永田町で注目されている。首相になったら派閥を離脱する場合が多いが、岸田首相は派閥の会長を続けることを選んだのだ。

この理由について岸田氏の周辺は「首相が会長でいることで、派閥の存在感を高めたいのだろう」と解説する。

一方で、別の派閥関係者からは「派閥を離れている間にナンバー2の林芳正外相に、派閥をのっとられるのが嫌だったのだろう」と指摘する声も上がっている。岸田派の中で、ポスト岸田の最有力候補はナンバー2の座長を務める林外相だ。

岸田首相周辺は「首相はポスト岸田の候補者である林外相を、他派閥の茂木幹事長らと競わせることで、政権として成果をあげながら次を託せる人材を見極めるつもりだ」と指摘する。