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道筋示せる? 岸田首相“肝いり”「核なき世界」~広島G7サミット

2023年1月1日 20:00
道筋示せる? 岸田首相“肝いり”「核なき世界」~広島G7サミット
NPT再検討会議で折り鶴を持って演説する岸田首相

2023年5月に行われる、岸田首相肝いりのG7広島サミット。ロシアによるウクライナ侵攻などもあり、核兵器使用への懸念も高まる中、被爆地・広島選出の首相として「核兵器のない世界」に向けてどのようなメッセージを発信できるのか。岸田外交の真価が問われる。

■ライフワーク…「核兵器のない世界」

22年12月11日。岸田首相は地元・広島にいた。「核兵器のない世界に向けては現実的かつ実践的な取り組みを進め、国際社会の機運を高めていくことが重要です」。海外から有識者を招き、「核なき世界」について話し合う「国際賢人会議」の第1回会合を開催したのだ。

前日土曜日は“異例”の国会審議となっていたが、「是が非でも行く」(首相周辺)と、最後までスケジュール調整を行い、現地入りしたという。岸田首相は、23年5月に予定されているG7=主要7か国首脳会議の前に「賢人会議」をもう一度開催することを発表した。

また、22年8月に国連で行われた、核保有国と非保有国が参加する、NPT=核拡散防止条約の会議にも参加。これまで日本の首相が出席したことはなかったが、岸田首相は「NPTには俺が出るんだ」と周辺に語り、自らメッセージを発信した。

さらに、被爆の実相を知ってもらおうと、22年3月にはアメリカのエマニュエル大使、22年8月には国連のグテーレス事務総長と原爆資料館を一緒に視察。岸田首相は、こうした一連の動きの集大成として、G7広島サミットを位置づけている。

■オバマ大統領のあとはバイデン大統領…被爆地・長崎へ


広島サミットを機に、岸田首相が期待していることがある。それは、アメリカの現職大統領の初の被爆地・長崎の訪問だ。振り返れば、岸田首相が外相を務めていた16年5月、当時のオバマ大統領がアメリカの現職大統領として初めて広島を訪問した。

「広島と長崎が、核戦争の始まりではなく、我々の道義的な目覚めだったといえる未来にしよう」(オバマ大統領・当時)

当時を知る外務省関係者は「岸田外相は、会談を重ねるごとにケリー国務長官と信頼関係を深めていった。オバマ大統領の広島訪問が実現したのは、そのケリー長官が岸田外相を信頼し、『今の日本は未来志向だ』と進言したからだ」と語る。

日本政府関係者によると、G7サミットに合わせて、岸田首相とアメリカのバイデン大統領が被爆地・長崎を訪問することを検討しているという。実現すれば、現職のアメリカ大統領として初めての長崎訪問となる。

岸田首相はNNNのインタビューで、最終的には「アメリカが判断しなければならない」としながらも、「世界の政治リーダーに被爆の実相に触れてもらう。このことは、具体的な行動を起こしてもらうことを後押しするために、大変重要な取り組みだと思っている」と期待感を示している。

■防衛費増額は”軍拡リスク”か 被爆地へのメッセージは

「核なき世界」。その理想を語る岸田首相には今、2つの点で「厳しい目線」が向けられている。

1つ目は、年末に決めた防衛費増額をめぐる問題だ。

岸田首相は防衛力の抜本的強化に伴い、防衛費の増額を行うことを決定した。これに対し、日本の防衛費の強化は、地域の軍拡競争の拡大につながるのではないか、という指摘を受けている。

方針決定あとの記者会見では、広島の地元新聞社から質問が飛んだ。「被爆地・広島からは、今回の増額が際限のない軍拡競争につながって、最終的には戦争リスクが高まるのではないかと懸念が上がっている」と被爆地出身の首相に向けられた、地元の声を代弁する形での問いかけだった。

岸田首相は「平和国家としての日本の歩み、これは全く不変である」「日本の抑止力、対処力を向上させることで、日本への現実的な武力攻撃の可能性を低下させる。さらに、日本にとって好ましい国際環境を実現するための外交の『説得力』につながるもの」だとして、軍事力が外交交渉の裏付けになり「抑止力」になると理解を求めた。

もう1つの「厳しい目線」は、核兵器禁止条約をめぐる日本政府の対応だ。

21年に発効した「核兵器禁止条約」をめぐっては、22年6月に開かれた第1回締約国会議のオブザーバー参加を見送った。「核保有国が1国も参加していない。唯一の同盟国であるアメリカとの信頼関係のもとに、現実的な、核軍縮不拡散の取り組みを進めるところから始めるべきだ」と岸田首相は理解を求めている。しかし、「核保有国」と「非核保有国」の“橋渡し役”としての期待には、十分に応えられていない現実がある。

被爆地・広島選出の首相として、念願の広島でのサミット開催。「核なき世界」という理想と現実が交錯する中、岸田首相が被爆地、そして世界に向けて、具体的な道筋を示せるか、納得いくメッセージを出せるかが問われている。

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