岸田政権発足1年…新型コロナ対策の評価と課題
岸田政権の新型コロナ対策について、首相周辺は「医療ひっ迫も抑えながら経済を回せているのは成果だ」と胸を張る。岸田政権発足から1年。新型コロナ対策の評価と課題は?
■新型コロナ水際緩和…10か月かけて“全面解除”
官邸関係者
「相当厳しく封じ込めたあの日が思い出される」
ある官邸関係者が「思い出される」と語ったのが、オミクロン株対応で行った水際対策だ。2021年11月29日、岸田首相は「G7(主要7か国)の中で最も厳しい対策」として、留学生やビジネス関係者なども含め、外国人の新規入国の原則停止を発表。翌日、国内初となるオミクロン株への感染が確認され、直後の世論調査で水際対策を「評価する」と答えた人は9割近くにのぼった。しかし、この“成功体験”が、岸田首相の水際対策の判断に影響を与えることになる。
その後、オミクロン株の特性が明らかになってくると、経済界からは「一刻も早く鎖国状態を改善してほしい」、観光業界からも「厳しい状況にあるので一刻も早い緩和を」などと、水際対策の緩和を求める声が相次いだ。しかし、岸田首相は水際対策の"全面解除"になかなか踏み込まなかった。
7月下旬、政府は、入国者数の上限を徐々に引き上げながら、さらなる緩和に向けた検討を開始した。政権内には、8月下旬に示す、新型コロナ対策の全体像の1つに、水際対策の緩和も盛りこむ動きがあった。
日本入国時に新型コロナワクチン3回の接種証明書があれば、検査の陰性証明書を不要とすること、1日の入国者数の上限を2万人から5万人に引き上げること、観光目的の外国人について添乗員がいないツアーの入国を認めること。この3つを緩和策として検討していた。
しかし、8月24日、岸田首相が発表した水際緩和策は、日本入国時に求められている検査の陰性証明書を不要とすることのみに留まった。
閣僚の1人は、こう解説する。
「岸田首相は水際対策の緩和に慎重だ。入国前のPCR検査については、『不便だからなくしてほしい』などの要望も多く、やめる決断をしたが、それ以外の、入国者上限の引き上げや、添乗員なしのツアーの許可は、感染状況が少し落ち着いてきたところで判断したいとして先送りとなった」
別の政府関係者は、「高度な政治判断があった。3つセットで検討していたが、お盆明けで国内の感染者数がやや増えている状況で入国数の上限を増やすのは、緩和のメッセージが強くなるので見送った方がいいという議論になった」と振り返る。
その後も、政府内で検討が続き、結果として、水際対策の“全面解除”に岸田首相が踏み込んだのは、9月22日、アメリカ訪問中に行った記者会見だった。
「10月11日から水際対策については入国者数についての上限撤廃、個人旅行の解禁、ビザなし渡航の解禁を行います」
約10か月間続いた水際対策が終わることが明らかになった瞬間だった。
岸田首相
「全体像、すなわち、療養の考え方の転換、全国ベースでの全数届け出を見直し、陽性者の隔離期間の短縮などについては、感染状況の推移をしっかり見た上で、できるだけ速やかにお示しをしてまいります」
8月24日、岸田首相が水際緩和策とともに打ち出したのは全数届け出の見直しだ。この日は本来、ウィズコロナに向けた、新たな段階への移行策の全体像を示す予定だった。
厚労省幹部は、経緯について、こう憤る。
「本当は全数把握の見直しとともに、自宅療養期間の短縮や水際措置の緩和も発表するはずだった。感染者数が増えてきたと言われても『増えるけどやる』と発表する方針だったが、『増える』という方に引っ張られて、1回やめる方向になってしまった。岸田首相の腹があまりにも据わっていない。制度を緩和したら緩むのは当然なのに。首相の覚悟の問題だ」
全数把握の見直しとは、すべての感染者の届け出を義務付けていたものを、自治体の判断で、届け出の対象を、高齢者や重症化リスクが高い感染者に限定することができるというもの。感染者数が高止まりする中、医療機関の負担を考えての判断だった。
ところが、岸田首相の発表に対して、「負担を改善できる」「やるべき仕事に専念できる」などといった、賛成の意向を示す自治体がある一方、「健康観察や療養証明書の手続きを考えると、デメリットの方が大きい」などの慎重意見や、「全国一律の見直しに関する基準を設けて欲しい」という要請が相次いだ。
首相側近は「知事会はひどい。9月下旬に全国一律で全数届け出をやめるという案もあったのに、知事会からの反対が強かったので、緊急避難措置として、希望する自治体の判断でできるようにした。それなのに、政府が考え方を変えたような発言をして批判するのはおかしい」と恨み節だ。
9月26日から全数把握の簡略化が全国一律で始まったが、これまでのところ、大きな混乱はみられない。
現在、政府が力点を置くのは、第8波を見据えた対策だ。この冬はインフルエンザと新型コロナの同時流行が懸念される中、今のうちに備えを進める必要がある。
政府は、発熱患者が新型コロナ検査で陰性だった場合などは、自宅でオンライン診療を受け、配送でインフルエンザの薬を受け取るよう呼びかけることを検討している。
また、臨時国会では、感染症が流行した際、事前協定を結んだ医療機関に病床確保を義務付けることを可能にする感染症法の改正案の成立を目指す。
第7波の反省もいかし、自治体と連携が取れるか、岸田政権のコロナ対策は続く。