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誰のため? どうなる総裁任期延長論

2016年10月18日 16:46
誰のため? どうなる総裁任期延長論

 リオオリンピックの閉会式で、安倍首相が「マリオ」にふんし、2020年の東京五輪をPRしたサプライズ演出を覚えている人も多いだろう。安倍首相の強い思いが伝わってくるが、実は、今のままだと、安倍首相は“首相”として東京五輪を迎えることができない。

 安倍首相は、首相であると同時に与党第一党である自民党の総裁、つまり党首でもある。その自民党総裁の任期は、1期あたり「3年」だが、実は党の規則では、総裁は連続2期を超えて在任することができないと定められている。

 つまり、安倍首相が総裁になったのは2012年9月なので、2期目の任期が終わるのは2018年9月。その後は総裁を続けることができず、東京オリンピックの時には、基本的には別の人が首相になっている。

 与党の時には、自民党総裁が変わると、新しい総裁が国会で指名されて首相になる。つまり、「安倍首相」も交代することになる。こうした中、自民党内では、党の規則を改正して、総裁の任期を延長するための議論が行われている。

 先月から始まった党の会議では、現在ある「1期3年」という任期は変えずに、「連続2期まで」という制限を変更するかどうかが話し合われている。

 そもそも、なぜ自民党の総裁は連続2期までという制限があるのだろうか。歴史をひもといてみると、自民党が結党された当初は制限がなかった。

 ところが、1964年に発足した佐藤栄作内閣は7年8か月という戦後最長の長期政権となった。このため、権力が長期化することへの警戒感が広がったほか、当時、派閥による権力争いが激しかった自民党内で、1人の人が総裁で居続けることへの不満が高まった。そして、1980年に「連続2期まで」という制限ができた。

 こうした制限は、外国でも同じようにあるものなんだろうか。実は、そうでもない。日本と同じように国会議員から首相を選ぶ「議院内閣制」をとるイギリスやドイツでは、主な政党はいずれも「党首が再選される回数」には制限がないのがほとんどだ。

 だから、イギリスでは「鉄の女」と呼ばれたサッチャー氏が、保守党の党首を務めながら首相を11年、ドイツのメルケル氏はCDU(キリスト教民主同盟)の党首を務めながら現在首相11年目など、海外では10年を超える長期政権も珍しくない。

 となると、過去にも任期延長が議論になっていてもおかしくない。しかし、何度か議論になったことはあるが、任期切れを前に任期が延長されたのは1回だけだ。

 それが、1982年に総裁に就任した中曽根康弘元首相だ。中曽根氏は、任期が切れる直前に行った衆参ダブル選挙で大勝したことで党内の機運が高まり、1年任期を延長できるようルールが改正された。

 今回の安倍首相も同じように1年だけの任期延長となるのだろうか。ただ、それでは、東京オリンピックにはまだ任期が足りず、党内にはこの際、再選される回数を制限しない海外の例にならって、制度そのものを変えてしまおうという考えもある。

 そこでいま、「連続2期まで」という制限を「連続3期まで」、安倍首相の場合だと、2021年9月まで延ばす案と、制限自体を無くしてしまうという案の、ふたつの案が議論されている。執行部は、年内に総裁任期延長の方針を決め、来年3月の党大会で正式に了承を得たい考えだ。

 ただ、党内からは、党の規則を改正すると言っても「結局は安倍さんのための任期延長にすぎない」という冷めた声も上がっている。

 今回のポイントは「誰のための任期延長?」。いま、永田町では、安倍首相が年末年始にかけて衆議院の解散・総選挙に踏み切るのではという臆測が広がっているが、もしこの選挙に勝てば、総裁任期の延長もすんなり決まることになるだろう。

 しかし、国会の活発な議論なく政権が長期化すれば、権力が腐敗していくこともあるのは歴史が示している通りだ。なぜ総裁任期の延長が必要なのか、誰のための延長なのか、自民党内だけでなく、有権者が納得できるような議論を進めることが望まれる。