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外国人労働者受け入れ拡大策 課題は?

2018年6月5日 19:38
外国人労働者受け入れ拡大策 課題は?

労働者不足をどう補うのか。政府は5日、外国人労働者の受け入れ拡大策を示す。政府は7年後までに約50万人の受け入れを目指すとしている。日本の社会や企業はどう変わっていくのだろうか。

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4日に私たちが訪れたのは東京・八王子市にある病院。お昼時に職員が患者さんへの食事の介助をしていた。よく見ると外国人の姿が。ジョンさん(33)は来日して9年になるフィリピン人の介護福祉士。

入院する患者「(Q:言葉が通じないことはない?)日本語が上手なので違和感ないですね」

こちらの病院にはジョンさんのような外国人職員が10人働いている。

ジョンさん「いつか自分のふるさとに帰って、今まで習ったことを、これからの介護、看護をやりたい人たちに教えたいと思う」

ここで働いているのは、経済連携協定(EPA)に基づいて、研修を目的に日本に来ている外国人。

永生病院 看護部長・斉藤あけみさん「何かの役に立っていることに変わりはありません。マンパワーというところでは期待に応えられる活躍をしてくれています」

厚生労働省によると、特に介護業界では人手不足が深刻化。2025年までに55万の人材を確保する必要があるという。そこで政府が目をつけたのが、外国人労働者だった。

安倍首相(今年2月 経済財政諮問会議)「外国人受け入れ制度のあり方について、早急に検討を進める必要があると考えます」

これまで外国人の受け入れは先ほどのジョンさんのケースや、主に高度な専門知識をもつ人に限られていたが、政府は5日、介護、農業、宿泊、建設、造船の5つの分野を対象に、いわゆる単純労働の分野でも幅広く受け入れるようにする方針を示す。2025年頃までに約50万人の外国人労働者の受け入れを目指している。

■外国人労働者を取り巻く厳しい現状も

一方、外国人労働者を取り巻く厳しい現状もあった。私たちが訪ねたのは福島県の一軒家。ここで寝泊まりしていたのは、ベトナムから来日した14人の外国人たち。

ベトナムから来た技能実習生「2年間我慢我慢、いっぱい我慢した。1年で休み7日。でも我慢我慢」

過去の給与明細を見せてもらうと、1か月で19日間働いて支給額が5万円あまりの人も。不当な賃金の未払いや上司からのパワハラを受けるなどしたため、職場を離れ、この施設に駆け込んできたという外国人たち。彼らは日本で働きながら技術や知識を身につける技能実習制度で来日した。ただ、この制度のもとでは、原則職場を変えることはできず、仮に不当な扱いを受けても泣き寝入りせざるを得ないのが現状だという。

■十分な説明がないまま福島で除染作業を命じられ…

ベトナム人技能実習生・カインさん(26)「日本にきてから直接福島行って除染を手伝っていました」

ベトナム人のカインさんは両親を残して3年前に実習生として来日したが、十分な説明もないまま、福島第一原発の除染作業を命じられたという。

カインさん「(除染作業と知っていたら)絶対に日本に来なかったでしょ」

カインさんのような事態を受け、政府は今年3月、技能実習生による除染作業を禁止に。人権侵害に対する法整備などの対策を行っている。

近い将来、日本の職場に本格的に加わることになる外国人の労働者たち。課題への対応も急がれている。

■外国人労働者 どう拡大?

政府が導入を目指す新たな制度は、どのようなものなのだろうか?ここからは政治部の高柳裕美記者が解説する。

大きく2つの柱がある。1つは「単純労働」の分野での受け入れを可能にすること。これまで、受け入れ対象となる外国人は、研究者や医師、弁護士といった、主に高度な専門知識を持つ人に限られていた。それを今回新たに、建設、農業、宿泊、介護、造船といったいわゆる「単純労働」の5つの分野でも5年の期限で受け入れられるようにする。

Q:誰でも来ることができるのだろうか?

その分野の技能試験と、日常会話レベルの日本語の試験に合格するのが条件だが、これまでよりハードルが下がる。

そしてもう1つの柱が、現在ある技能実習制度の期間の延長だ。

Q:技能実習制度は今もあるが、そもそも、どんな制度なのか?

技能実習制度というのは、ベトナムやフィリピンなど、発展途上国の人々が日本で働きながら技術や知識を身につけて、その後、母国に帰って活躍してもらう制度。現在約25万8000人が日本で働いている。これまでは最長5年しか滞在できなかったが、今回、新たに技能や資格の要件をクリアすれば、さらにもう5年間、つまり最長で10年間働けるようになる。

Q:でも10年たったら帰らないといけない?

その通り。単純労働や技能実習の労働者は家族を連れてくることが認められていない。また期限が切れた後は日本に住み続けることは原則できない。いわゆる「移民」とは違う。

外国人労働者を増やすというのは人手不足を補う1つの方法には違いないが、10年も働いて日本に生活基盤ができた人がそのまま生活したいと言った場合、どうするのか。また日本の社会や経済を今後どのように維持していくのか、長期的な視点を持った抜本的な議論も必要となる。