日中首脳会談…3つの「舞台裏」
石破首相の“本格外交デビュー”となった今回のAPEC出席のためのペルー訪問。最も注目されたのは、習近平国家主席との日中首脳会談だった。およそ35分間にわたって行われた会談、取材から3つの舞台裏が浮かび上がってきた。
■舞台裏(1)習主席から切り出した「田中角栄元首相」のある言葉
ある外務省幹部は「最も驚いたのは、習主席が田中角栄元首相の言葉を紹介したことだ」と明かした。日中国交正常化を実現した田中元首相は、石破首相の政界の師。先月の中国・李強首相と石破首相との会談では、石破首相から田中元首相の話を切り出したが、今回は習主席の口から先に名前が出たことがわかった。
習主席は、田中元首相が口にした孟子の言葉を披露した。
「自ら反(かえり)みて縮(なお)くんば、千万人と雖も、吾往かん」
この言葉は「自分の心を振り返り、正しければ、例え相手が千万人いても進んでいく」という意味。この言葉を聞いた外務省関係者は「田中角栄氏も国内の反対はあったが、日中国交正常化を実現した。石破首相も今、関係悪化で日本国内の対中感情は厳しいものがあるが、関係改善に向けて期待したい」という習主席からのメッセージなのでは?と分析した。
■舞台裏(2)石破首相のこだわり「もっと強い表現でないとダメだ」
今回の会談に臨むにあたって、石破首相が言葉にこだわった場面があった(政府関係者)。日中間には、日本産水産物の輸入停止措置、日本人男児の刺殺事件、中国軍機の領空侵犯問題など、日本側が「懸念」を示す案件が多数存在する。
会談を前にした石破首相と事務方らとの勉強会で「懸念」に関する文言を外務省担当者が首相に示した際、石破首相は「こんな表現では弱い。日本国内の怒りが、この言葉では伝わらない」と文言を原案より厳しくするよう指示したという。
原案を作った外務省の担当者からすれば、習主席に対して「強い言葉で言えば、関係改善にマイナスになると判断したのだろう」(政府関係者)。しかし、ここは石破首相が「言うべきことは、しっかり言う」と判断。首相は外交一般に関して「こびを売ってまで向き合う必要はない。言うべきことは言った上で、お互い助けるべきところを助け合っていく。そこで信頼関係は生まれる」との持論を話しているという。中国に対しても、アメリカに対しても「言うべきことは言うスタイル」が“石破流”なのか。
■舞台裏(3)“石破流”外交「地味だが、堅実さで信頼得るスタイル」
石破首相の外交をめぐっては「安倍元首相はトランプ大統領とゴルフを通じて信頼関係を築いた。さて石破首相は?」ということが、よく語られる。私たちが見えない首脳会談の裏側を知る政府関係者らに石破外交は、どう映っているのか。
今回の習主席との会談について、歴代首相の外交を見続けてきたある政府関係者は「安倍元首相のような派手なパフォーマンスはないが、地味だが、堅実に言葉を紡ぎ、相手の信頼を得ていくスタイルが石破外交では」との見方を示した。別の関係者は「石破首相は相性で言うと、トランプ大統領より習主席の方が合うのではないか」と語った。
“石破流”外交とは、どういったスタイルになっていくのか。今回は見送りになったが、トランプ大統領との会談や、その他、世界のリーダーたちとの関係で、国益にプラスになる結果を出していけるのか。真価が問われることになる。