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「前代未聞」夫妻逮捕を元特捜部長が解説

2020年6月18日 21:38
「前代未聞」夫妻逮捕を元特捜部長が解説

18日、東京地検特捜部は河井克行前法務大臣と、妻の案里議員を、公職選挙法違反の疑いで逮捕しました。夫婦ともに現職の国会議員で同時に逮捕されるというのは異例のことです。 
 
■事件の整理

事件の構図を整理します。 河井夫妻をめぐる事件は大きくわけて2つあります。 
 
まず1つめの事件。 
案里容疑者が出馬した2019年の参議院議員選挙をめぐり、克行容疑者の元政策秘書と案里容疑者の公設秘書の2人が起訴されました。 起訴内容は、車上運動員、いわゆるウグイス嬢14人に対し、法定の上限を超える報酬合わせて204万円を支払ったという公職選挙法違反です。 
 
2つめの事件。 
検察は1つめの事件を捜査する過程で、河井夫妻の事務所や自宅を家宅捜索したところ、夫妻の自宅から現金の配布先を示したとみられるリストが押収されたということです。 
つまり、秘書によるウグイス嬢への違法な報酬事件の捜査を入り口に、証拠を積み重ねて買収の疑いを強め、18日の夫妻の逮捕につながったということです。 
 
どちらも2019年の参院選での河井案里陣営をめぐる事件ですが、今回、夫妻が逮捕されたのは2つめの買収事件です。 
 
■元東京地検特捜部長「前代未聞の事件」

買収事件について詳しくみていきます。 
 
夫妻は票のとりまとめなどを依頼する目的で、地元広島の県議会議員や市議会議員らに現金を渡した公職選挙法違反の疑いがもたれています。 関係者によりますと、現金を渡したのは克行容疑者が96人、案里容疑者が5人で、総額2570万円にのぼるとみられています。 
これが事実だとすれば、議員本人による「カネにものをいわせた選挙」に捜査のメスが入ったといえます。 
 
 元東京地検特捜部長で日本テレビ客員解説員の熊崎勝彦弁護士にも詳しくお話を伺います。
 
Q:およそ100人に対して2500万円の事件。今回どのようにみている? 
 
A:前代未聞の事件です。これだけの多額の金額がまかれたという疑い、現職の国会議員が直接絡む案件という意味では、私が経験して知る限りでは例がないのではないかというのが第一印象です。 
ウグイス嬢に対する違法報酬事件・公職選挙法違反を入口に、検察は幅広く関係先を捜索しています。これは全容解明に対する検察の並々ならぬ意欲を感じます。非常に手堅く証拠固めをしていると考えられます。 
 
Q、議員会館事務所を家宅捜索する意味はどこにある? 
A、両国会議員がこれだけ多額の長期間にわたる現金買収を行ったという非常に規模の大きい事件ですから、徹底的に証拠を固めていく。さらに、金の流れ等を含めた全容を解明しなければならないという、検察の背景があります。証拠隠滅を防ぐという意味でも幅広く捜索していく、そういうことだと思います。 
 
■自民党本部からの1億5000万円の用途は不明
 
参議院選挙の前、2019年4月から6月にかけて、自民党本部から案里容疑者と克行容疑者の選挙区の支部にそれぞれ7500万円が送金されました。その後、克行容疑者の金は案里容疑者の支部に移されました。合わせて1億5000万円が、案里容疑者の支部に集められていたことが分かっています。 
 
この1億5000万円が買収に使われたのかどうか、真相はまだ分かっていません。自民党の二階幹事長は「党勢拡大に伴う広報紙の配布費用にあてたと報告を受けている。買収資金に使うことができないことは当然」と話しています。 
 
では、なぜこんな大金なのか。 
実は、案里容疑者の選挙戦は、同じく広島選挙区から立候補していた自民党の溝手顕正前参議院議員との大接戦となっていました。 このため、選挙戦では菅官房長官自らが地元まで応援に駆けつけるなど、安倍総理や官邸の強力なバックアップがありました。 
 
この時、自民党本部から溝手前議員に渡った金は1500万円なので、河井夫妻はその10倍という破格の金額を受け取っていたことになります。結局、溝手議員は落選し、案里議員が初当選しました。 
 
カネの流れについて、熊崎勝彦弁護士に聞きました。
 
Q、自民党本部から受け取ったこの1億5000万円が今回の選挙マネーに使われた可能性があるのか? 
 
A、今後の捜査の注目点の1つになるかと思います。買収資金の原資はどこから来た金なのか?捜査の基本としてそこを解明しないといけません。自民党本部からの運動資金としての1億5000万円が買収資金の原資として使われていたのか、それはまだ明らかになっていません。この金の流れの解明は注目点だと言えると思います。 
 
Q、国会が17日に閉会したばかり。このタイミングでの逮捕はどう思いますか? 
 
A、一般的には、国会議員には検察や捜査当局の権力の不当な介入を招かない、という特権が認められています。その1つとして、このような会期中における逮捕の場合は許諾を要する、ということになっています。検察側としては、逮捕が妥当かどうかの判断のために証拠をある程度開示しなければなりません。また、政治にあまり影響を与えたくない、ということもあり、会期終了を待って逮捕したというふうに考えられます。手の内を明かさないという理由で国会が終了するのを待っていた、というのも一つあります。 
 
Q、これまでの疑惑段階では、任意の聴取に対して2人とも否定していたということですが、今後の捜査のポイントは? 
 
A、今回、どういう否認をしているのか詳しく分かりませんが、その対応によって、さらなる証拠固めを検察はやってくると思います。また、金の流れの解明にも注力すると思います。 

■夫妻の今後は?

克行容疑者と案里容疑者はこのあと東京拘置所に身柄を移され、今後東京地検特捜部の調べが進められることになります。夫妻で現職の国会議員、しかも夫である克行容疑者は検察を管轄する法務省のトップを務めた人です。
その二人が、票をカネで買うという民主主義の根幹を揺るがす容疑で、検察によって逮捕される事態に発展しました。そもそも克行容疑者を法務大臣に任命した安倍政権への打撃は避けられません。