【解説】岸田首相演説に“爆発物”…「警備は限界」警察関係者が本音
岸田首相が選挙応援の演説直前に“爆発物”が投げ込まれた事件。演説に対する「政治サイドの戦略」と、安全確保が第一の「警備サイドの苦悩」を解説。
■「警備は限界」…首相演説の警備をめぐるジレンマとは?
安倍元総理の銃撃事件から1年が経たない中で起きた、現職総理の演説直前に「爆弾」が投げ込まれる事態。なぜ、こうした事態がおきたのか?
「総理サイド」と演説を主催する「自民党サイド」、警備を担当する「警察サイド」を取材すると、2つのバランスをどうとるかのジレンマが浮かび上がった。1つ目は、警察が重視する「安全性の確保」。2つ目は、政治サイドが重視する「政治家と聴衆の距離感」だ。
ある警察関係者は、「今回も含めて、総理遊説を行う場所では入場者全員に金属探知検査を行いたい」と本音を語った。しかし、今回のケースでは、地元側から警備関係者に対し「漁港でやることから、聴衆は関係者がほとんどなので必要ない」という答えがくるなど、政治サイドからは「セキュリティを厳しくすると聴衆が集まらない」という声が多いという。
首相の街頭演説をめぐっては、警備サイドからは、「比較的警備がしやすい屋内や、聴衆との距離がある駅の街頭演説のほうが警備しやすい」という声がある一方、政治サイドから「地元の有権者と近い距離でふれあってほしい」という要望がでることが多いというのだ。ある警察関係者は「警備は限界だ」と漏らした。
テロ対策専門家は、「現職総理大臣が狙われたことは重くうけとめるべき」(公共政策調査会板橋功研究センター長)と指摘している。その上で「不特定多数の人が集まる、選挙における要人警護は最も難しい」と強調。
また問題の1つとして「政治家側が不特定多数人に触れあったり、警備を嫌がる政治家も多い。全て警察のせいにするのは違うと思う」などと話している。アメリカでは大統領演説は、基本的に屋内で行われる事が多い中、板橋氏は今後の対策として「総理や閣僚級は入口で一括してセキュリティチェックができる『屋内演説のみ』というルールの策定が必要では」などと話している。
■“無党派層“取り込むため「街頭演説は不可欠」
では、なぜ政治家は街頭演説を重要視するのか。ある自民党関係者は、選挙制度に関係する政治情勢の特徴もあると指摘している。
アメリカは党内支持を固めるため、党員を集めて候補者が演説するスタイルがメーンなのに対して、日本は「無党派層を取り込むため、駅のターミナルでの演説は欠かせない。総理大臣との握手が最も集票効果がある」(自民党関係者)などと話している。
警察関係者からは、「政治家側がこの場所で演説を行うといえば、セキュリティ上厳しくても拒否することはできない」などという声も聞く。今回の事件を受け、警備態勢の検証はもちろんだが、政治家側もどういった場所での演説が一番適切なのか。有権者の意識も含めて、一度議論する必要があるかもしれない。