×

国連軍縮トップに聞く「核兵器禁止条約」

2021年1月28日 13:35
国連軍縮トップに聞く「核兵器禁止条約」

■「核兵器禁止条約」発効 3つの意義

――採決から3年半というタイミングで核兵器禁止条約が発効されますが、意義をどのように感じていらっしゃいますでしょうか?

いくつかポイントがありまして、まず1つはコロナの最中ですので、各国の批准のスピードが遅れるかなとも思いましたが、実はほかの軍縮関係の条約と比べてみても批准のスピード、本当に遜色なく適切に進んでいったと。これが、おそらく核軍縮を本当に進めなければいけないと考えている国が、非常に優先順位の高い形でこの条約の批准を進めていったと。とりもなおさず、核軍縮の核廃絶に向けた動きが、国際社会の中で、コロナの中にあっても非常に重要に考えられているということで、それは1つ非常に心強い気持ちがいたしました。

もうひとつは、実は核軍縮の分野でマルチの軍縮条約が20年以上ずっとできていなかったんですが、核兵器禁止条約が核軍縮の遅々として進まぬ歩みをですね、ひとつここで打破しようという、そういった形でのメッセージの発信にもなると思いますので、そういった歴史的な意味というのもあるのかなと思います。

核兵器を持っている国々に対しても、核廃絶にむけた動きが遅々として進まないことへの非常に大きなフラストレーションが国際社会の場であるんだということをやはり真摯に受け止めていただく、そのための一つの大きなメッセージになるのではないかなとも考えています。

■核兵器に反対する規範が強まるのは1つの前進

――核兵器保有国が批准しない中、核兵器禁止条約の実効性はあるのでしょうか?

実は核軍縮の分野にはNPT核不拡散条約というのがあり、そのほか核兵器を包括的に禁止し核実験を包括的に禁止する条約、発効していませんが、こうしたものがあったりします。
あとは、地域のレベルで非核地帯を成立していくための地域レベルでの合意があったり、あとは二国間ですね、アメリカ・ロシアの間の二国間の軍縮条約があったり、いろいろなメカニズムが複雑に絡み合ってできている、実は全体的に見るといろんなツールのある分野なんですね。

核軍縮のレジームの中に、新しくこの核兵器禁止条約というものができてきたと。その中の一つの柱として、これからさらに進展していくということで、ツールが1つ増えたということですので、そういった意味で、もちろん核兵器を持っている国々はこの条約に参加しておりませんし、近い将来参加していくことは今のところ考えられませんので、一夜で核廃絶が実現するかというと、それは残念ながらそういうことではありません。

ただ、こういった複雑なシステムを組み合わせる形で、どのように実際に核廃絶に向けた歩みを加速していくのか、さらに進めていくのかということを考えるのが重要。その中に一つツールが増えた、そのためにこれから核兵器に反対するような規範が強まっていくことは、ひとつの前進であると考えて良いと思います。

■核兵器禁止条約 今後どうなる?

――条約は今後どうなるのでしょうか?

(1月)22日に発効して、発効日から数えて1年以内に最初の締約国会議を招集しなければならないことになっているが、そこでこれからこの新しい条約をどのように発展させていけば良いのか、どのように締約国の数を増やしていくかを締約国みずからが議論していくことになります。
私たち国連の事務局の役割は、そうした締約国の間での議論をきちんと側面から支援していく。そういうことに私たちは非常に真剣に取り組んでいきたいと思っています。

■「橋渡し役」日本 これまで以上の努力を

――核保有国と非保有国の「橋渡し役」を自認しながら批准しない日本については?

条約に入るか入らないかは主権国家の決めるべきことで、私たちがどうしてほしいと直接的に申し上げることはしないが、これまでも日本政府は、唯一の戦争被爆国ということで核軍縮の分野に積極的に取り組んできた国の一つなので、これからもそのスタンスは変わることなく積極的に取り組んでいってくれるのではないかと期待しています。

「橋渡し」のことですが、まさにこれから私たちがしなければならないのは、いくつもある全体的な核軍縮のレジーム、特にNPT不拡散条約の再検討会議も、コロナの状況によりますが8月に延期となってスケジュールが決まっていますが、このNPTの枠組みの中では核を持っている国も、国際法上核軍縮を進める義務を負っています。

ですので、NPTの枠内でも核軍縮の歩みを進めていくことは可能であって、特にその中で日本政府には、核兵器を持っている国・持っていない国の間の分裂状態、いま立場が非常に鮮明に異なっていますが、その間の橋渡しを真摯な形でそして積極的に、これまで以上の努力をかたむけて是非その橋渡しの役割をしていただきたいなと考えています。


■核軍縮を実際に進めるため ますます積極的に行動を

――条約に批准しない日本を世界はどう見ているのでしょうか?

特に日本に関して批准していないことはどうのというコメントを私は聞いたことはないんですけれども、唯一の戦争被爆国としての日本の橋渡し役、実はいろいろ努力はしていただいています。
これまでも色々な議論をとりまとめる役割もしていますし、特に核兵器禁止条約とのからみで「賢人会議」というものを立ち上げていただいて、その中ではかなり突っ込んだ議論やレコメンデーション(提案)を出していただくような、そういった報告書も日本から発出されている。
そういったことをこれからも引き続き積極的にやっていただいて、全体の核軍縮の駒を実際に進めていくということについてますます積極的に行動していただきたいなと強く思っています。


■「オブザーバー参加」は日本にとってもプラス 是非考えてほしい

――日本は締約国会議にオブザーバー参加すべきでしょうか?

「オブザーバー参加」に関しては、すでに条約には入らないけれどもオブザーバーとして締約国会議に参加したいといっている国はいくつかありまして、もし日本からもそういったことが可能になれば、私は日本にとってもプラスになることですし、そして国際社会にとっても、NPTの体制と核兵器禁止条約の体制が相互に補完するような協力関係ができていくような形でこれから進んでいってほしいと願っていますので、その橋渡し役として、日本も非常に大きな貢献をしていただくことが可能なのではないかなと思いますので、是非オブザーバー参加に関してもお考えいただきたいと思っています。

聞き手:日本テレビ報道局政治部 大神櫻子
取材日:2021年1月22日

インタビュー記事後編「国連軍縮トップ中満氏 若者へのメッセージ」に続きます