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保管費用6億円“アベノマスク”誕生の舞台裏

2022年2月1日 0:23
保管費用6億円“アベノマスク”誕生の舞台裏

松野官房長官は、政府が調達した布マスク、いわゆる“アベノマスク”の在庫、約8000万枚に対する配布希望枚数が「約2億8000万枚以上となる見込み」と明らかにした。そもそも“アベノマスク”はどのように誕生し、どのくらいの費用がかかったのか。

■“アベノマスク”誕生の舞台裏

「1住所当たり2枚ずつ配布することといたします」

2020年4月1日。新型コロナウイルスがまん延し、世間でマスク不足が深刻となる中、当時の安倍首相が発表したのは、布マスク、いわゆる“アベノマスク”の配布だった。安倍氏に近い人によると、安倍氏は家に帰ると、洗剤を使ってマスクを手洗い、時にはアイロンまでかけていたという。布マスクを配ることで、国民が懸念するマスク不足が解消されると安倍氏は考えていた。

この布マスク配布の発案者は、安倍氏側近の佐伯首相秘書官(当時)だった。広報も担当していたことから、国民の声に敏感なアイデアマンとして安倍氏から絶大な信頼を得ていた。

遡ること、配布発表の1か月前、マスク不足が政権を揺るがしかねない問題となり、その解消は政権の課題となっていた。

「この状態があと1か月続いたら政権が持たないぞ」(今井尚哉首相補佐官・当時)

危機感を募らせる中、安倍首相が秘書官らと昼食をとっていた際、佐伯秘書官が「全国にマスクを配れば国民の不安は吹き飛びますよ」と発言。使い捨てのマスクは不足していたが、佐伯氏が提案したのは布マスクだったことから、安倍首相は「それで検討を進めてください」と後押しした。こうして“アベノマスク”は誕生した。

安倍首相も毎日、この布マスクを着用し続けた。しかし、国民の不安払拭のためにと考案された布マスクは、その後、様々なトラブルに見舞われた。妊婦用マスクにカビや異物混入が見つかったことを受け、国であらためて検品作業をしたことなどもあり、全国への配送終了に3か月を要したため、国民が必要とする時期に間に合わなかったのだ。

■マスク不足解消「意義があった」

一時、手に入らない状態が続いていたマスク。3月には150人分のマスクが30分で完売していた薬局の棚にも、5月末になるとマスクが戻り、さらに金額も以前は3500円だったものが、1箱1380円にまで値下がりしていた。

この年の8月、マスク配布政策の総括を問われた当時の菅官房長官はこう答えた。

「布製マスクへの様々な批判は承知しているが、実際マスクが届いたことによって、感謝の声、また、大切に使いたい、こうした声も数多くいただいたことも事実。今後の流行にも十分対応することができるよう、洗濯すれば何度でも使える布製マスクを多くの国民の皆さんが保有をし、どういった形でも活用していくことは意義あると考えている」

安倍氏も周辺に対して、「相当な批判を浴びたが、成功したと思う。布マスクを配布しなかったら市場にマスクが出てきたのがもっと遅かったと思う」と強調していた。

■保管料6億円超「税金無駄遣い」指摘も

しかし、すべてのマスクが配られていたわけではなかった。不在などで配られなかったマスクは全体の28.7%にあたる8272万枚。会計検査院が2020年度(令和2年度)の決算検査報告をまとめたところ、保管費用が去年3月までで6億円あまりにのぼっていて、野党から「税金の無駄遣い」という批判が高まっていた。

こうした中、去年12月、岸田首相は「財政資金の効率化の観点から、布製マスクの政府在庫について、希望者に配布し、有効活用を図った上で、年度内をめどに廃棄を行うよう指示した」ことを明らかにした。

募集は去年12月24日に始まり、1月28日に締め切られた。31日、政府は申込みが約37万件あり、配布希望の枚数については、在庫を大幅に上回る2億8000万枚以上になったことを発表した。今後、配布の仕方を公表するとともに、3月上旬をめどに希望者への配送を開始する見込みだという。ただ、今年度の保管費用や配布にかかる費用等はまだ明らかになっていない。

岸田首相は去年12月、国会で「検証すべき、または反省すべき点があったということは、しっかり受けとめなければならないと思う」と発言していたが、この政策をどう総括し、今後にいかしていくのか。

政府による適切な検証が求められる。