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成人と中学生の恋愛は…議論白熱

2021年6月6日 21:48
成人と中学生の恋愛は…議論白熱

刑法の性犯罪規定の見直しに向けて、与野党で議論が活発化している。

主な焦点の一つが、いわゆる「性交同意年齢」だ。「性交同意年齢」とは、性行為をするか否かを自ら判断できるとみなされる年齢の下限のことで、日本の刑法では13歳と定められている。

13歳未満との性行為は、同意の有無にかかわらず、性行為そのものが処罰対象となる。都道府県の条例では、13歳以上の青少年に対する性行為も処罰対象に含むものもあるが、恋愛関係に基づくもの等は処罰の対象から除外していることも多い。

しかし近年は、加害者が、中学生の性行為に対する知識の乏しさや、判断能力の脆弱(ぜいじゃく)さにつけこみ、恋愛を装ったり、SNSなどを利用して誘惑したりすることで、性被害につながるケースが多いと指摘されている。このため、「性交同意年齢」を引き上げることで、性被害を防ぐことができないか、議論されている。

法務省の資料によると、日本の13歳という規定は明治時代に定められて以来、100年以上、見直しが行われていない。諸外国の例を見ると、例えばアメリカは州により16~18歳としており、専門家などからも、日本の「13歳」は海外と比べても低いとの指摘があがっている。法務省は、昨年から検討会を設置し、刑法改正も視野に見直しを開始した。

立憲民主党の「性犯罪刑法改正に関するワーキングチーム(WT)」の議論では、議員によって性犯罪に対する認識の隔たりの大きさが露見する一幕もあった。

WTでは、女子中学生に性被害が多く発生している実態に着目し、「性交同意年齢」の引き上げによる、成人と中学生の性行為の取り締まりについて、集中的に話し合われた。

WTの中間報告案によると、この議論の中で、ある議員が、「50歳近くの自分が、14歳の子と性交したら、たとえ同意があっても捕まることになる。それはおかしい」「年の離れた成人と中学生の子どもに真剣な恋愛関係が存在する場合がある」「中学生から成人を口説いて恋愛関係になり、性交に至る場合もある」などとして、規制の強化に強く反対したという。

これに対し、「恋愛と思わされたり、思わざるを得ないことを背景とした性搾取の実態がある。被害をなくし、未然に防ぐためには、恋愛関係も例外とせず、一律に成人との性行為を罰するべき」「恋愛を除外要件とすることが被害を生む温床となりえている実態がある」「成人男性と女子中学生の間に対等性はない」「(妊娠などの)リスクは女子中学生のみが負う」などとして、成人はいかなる理由でも中学生以下を性行為の対象とすべきでない、といった意見が強く出された。

参加者によると、怒鳴り合い寸前まで議論が白熱することも多々あったという。

講師としてその場で発言を聞いた、大阪大学大学院法学研究科の島岡まな教授は、規制強化に反対した議員の意見ついて、対等であるべきはずの性の問題に“無意識の偏見”があるためだと分析する。

島岡まな教授「この発言には実は驚きませんでした。ジェンダー後進国の日本では、こういう意見を持つ方は、刑法学者でも弁護士でもいます。問題は、それが『アンコンシャス バイアス(=無意識の偏見)』に基づくもので、本人たちは悪気も自覚もないということ」「さらに問題なのは、そういうジェンダーバイアスを持つ人による抵抗が強くて、女性に不平等な性犯罪規定や、性的搾取などの被害が続いていることです」「先進諸外国では、社会人と中学生のように、年齢差も力関係の差もあるところに、対等で真摯(しんし)な恋愛が存在しないというのは、とっくの昔から常識。(中学生からすれば)疑似恋愛かそう思わされているだけで、性的搾取だという考え方です」

一方で島岡教授は、国会議員の議論の場で、ジェンダーバイアスの強い発言が引き出され、話題になることは、周囲の気づきにつながり良かったとも言える、と指摘する。議論を隠すことなく、明るみに出して話し合うことで、バイアスに気づく第一歩となり、ジェンダー平等に基づく法の見直しに向けて、前進するのではないかという。

立憲民主党のWTは、中学生の意思決定や判断能力は脆弱であり、性行為への知識も乏しく、性行為の対象となった場合の心身のリスクが高いと指摘。また、成人と中学生の対等性はなく、恋愛関係に潜む性搾取から中学生を守るべきだとして、16歳未満までを「性交同意年齢」で保護し、成人と中学生以下の性行為を一律に犯罪とする法改正を求める方向で中間報告をとりまとめたい考えだ。

しかし、一部の反対論は根強く、今後WTとしての結論に至れるかは不透明だ。

一方、「性交同意年齢」の見直しをめぐっては、自民党の議連でも話し合われ、引き上げるべきとする声が相次いだ。具体的な年齢を明記するかは未定だが、引き上げを求める方向で法改正に向けた提言をとりまとめ、近く法務大臣に申し入れる予定だ。